虚無僧こむそう)” の例文
ふと見ると浦づたいに、江戸のほうへ向って、サク、サク、ときれいな砂へ草鞋わらじのあとをつけて行く、一人の虚無僧こむそうの姿がみえる。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遣場やりばのない視線をば追々に夏の日のさし込んで来る庭の方へ移したが、すると偶然垣根の外には大方一月寺いちげつじあたりから来る虚無僧こむそうであろう
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
虚無僧こむそうが塗り下駄をはいてお城下さきを尺八をながしてあるくのを見ると、若い母は、その翌日は虚無僧と同じい黒塗りの下駄をひっかけた。
性に眼覚める頃 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ついでに言うがブンジは梵志ぼんしすなわち後の虚無僧こむそうのことで、梵志がもらっていた屋敷のことであろう。波多垣内がいち神子みこ垣内の類は中国辺に多い。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
奥山を廻って観音堂へ出、階段をのぼってはいを済まし、戻ろうとしたその時であった、そこに立っていた虚無僧こむそうの話が平八の好奇心を引き付けた。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「な、な、なあるほどね。このまえのときにゃ御嶽教おんたけきょうの行者になったんだが、今度は虚無僧こむそうになろうていうんですね」
さむらい連歌師れんがし、町人、虚無僧こむそう、——何にでも姿を変えると云う、洛中らくちゅうに名高い盗人ぬすびとなのです。わたしはあとから見え隠れに甚内の跡をつけて行きました。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
竜之助は、そのころ市中を歩く虚無僧こむそうの姿をして、身には一剣をも帯びておりません。弁信は例のころもを着て、法然頭ほうねんあたま網代笠あじろがさで隠しておりました。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
私が訪れた夜は恰度ちょうど彼樹庵は、見すぼらしい衣を身に纏い、天蓋てんがいを被った蒼古な虚無僧こむそうのいでたちで、右手に一管の笛、懐ろにウィスキイを忍ばせつつ
放浪作家の冒険 (新字新仮名) / 西尾正(著)
虚無僧こむそうの廃止、天社神道の廃止、修験宗しゅげんしゅうの廃止に続いて、神社仏閣の地における女人結界の場処も廃止された。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「こういうことになると、おれもちっと芝居気を出したくなる。本当ならば虚無僧こむそうにでも姿をやつして出るところだが、真逆まさかにそうも行かねえ。まあ、聴いてくれ」
半七捕物帳:61 吉良の脇指 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
扨又山口六郎右衞門も此度訴人の罪に依て是亦ながいとまとなりて浪人らうにんの身となり姿すがた虚無僧こむそうかへて所々を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
呉羽之介は発心ほっしんして、淋しくかすかに笑を浮べました。そして虚無僧こむそうの尺八の如く背負った、背なる錦の袋を取って開けひらき、中からかの絵姿を取り出して、月の光にかざして見るのでした。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「巡礼姿の若い男が、虚無僧こむそうに斬られて、山は煮えくり返るような騒ぎで」
また私は、その人が帽子をとった際の表情には天蓋を脱いだ虚無僧こむそう羞恥しゅうちがあった、などそんな文学的な形容をその場で思いついたりした。その時瞬間その人ははにかんだような表情を見せたのだ。
その人 (新字新仮名) / 小山清(著)
門を吹いて通る虚無僧こむそうの尺八ではない。どこかの庵で吹いている尺八である。そう断定する以上、作者はその尺八の音色を知り、吹く人を知り、その庵を知っているのであろう。その庵は遠くにある。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
京都寄竹派きちくは普化宗ふけしゅう明暗寺に行って虚無僧こむそうの入宗許可を受け、重蔵も千浪も同じような鼠甲斐絹ねずみかいきに丸ぐけ帯、天蓋尺八という姿になった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それと並んで歩いて行くのは、虚無僧こむそう姿のイスラエルのお町、明けに近い富士見の高原に、二人の足音がシトシトと響く。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これらの連中がみんな東を指して去ってから後、十日ほどして、一人の虚無僧こむそう大湊おおみなとを朝の早立ちにして、やがて東を指して歩いて行きます。これは机竜之助でありました。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
私はかつて「虚無僧こむそう」という二幕の戯曲をかいて、歌舞伎座で上演されたことがある。
阿媽港日記あまかわにっきと云う本を書いた、大村おおむらあたりの通辞つうじの名前も、甚内と云うのではなかったでしょうか? そのほか三条河原さんじょうがわらの喧嘩に、甲比丹カピタン「まるどなど」を救った虚無僧こむそうさかい妙国寺みょうこくじ門前に
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ズイと入つて來たのは、虚無僧こむそうが二人。
さぎのように、ひとりの、うす鼠色ねずいろ宗服しゅうふくを着た虚無僧こむそうが、柳の下にたたずんでいた。じいっと、水のながれを見つめていた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三十七、八の痩せた武士で、食えないところから虚無僧こむそうとなって、田舎などへ出かけて行く男であった。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それを普通の虚無僧こむそうだと思って、その右を通り抜けようとした時に、その虚無僧が尺八を振り上げて、風を切って打ちこんで来たのを、かわすにはかわしたが、充分にかわしきれないで
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ズイと入って来たのは、虚無僧こむそうが二人。
そのあとから、ひとりの虚無僧こむそうが、おくれじと、いて行った。虚無僧の天蓋てんがいが畑へ素ッ飛んだが、虚無僧は、拾っているまもなく、馬のあとにつづいて行った。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
同じく有竹松太郎——これは商売が独楽こま廻しなので、身装いでたちもそれにやつしてい、さらに虚無僧こむそうに身を変えている、関口勘之丞と僧の範円——以上が同伴しているのであった。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「それも若い者ならばともかくも、今の虚無僧こむそうのように年をとった身では」
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
虚無僧こむそうと間違えたのです。
ところへ、鼠木綿ねずもめんの宗服に尺八を持った二人づれの虚無僧こむそうが、今そこの前を通りぬけたかと思うと急に引っ返して来て、天蓋てんがいかぶったまま、馬春堂の机の前に立ち
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
虚無僧こむそう姿のイスラエルのお町と、道中師風の早引忠三で、こんな話を取りかわしている。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これがうまく出来なければ虚無僧こむそうではない……といったのはそれ。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ちょうどその前後に、菖蒲河岸あやめがしから浜町附近の露地を流して来た二人連れの虚無僧こむそうがある。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とたんに袖口そでぐちから一条のなわ、スルスルと宙へ流れ出た。それがギリギリと巻きつこうとした時、虚無僧こむそうは尺八をさっと振った。パチッと物音を立てたのは、捕り縄がはねられたに相違ない。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「おい、虚無僧こむそう
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そうかと思うと、鮨売すしうりの声やもろこし団子だんご味噌田楽みそでんがくい物屋、悠長ゆうちょう尺八しゃくはちをながしてあるく虚無僧こむそうがあるかと思えば、ひなびた楽器がっきをかき鳴らしてゆく旅芸人たびげいにんかさのむれ——。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
虚無僧こむそう放下ほうか、修験者、瞽者ごぜ、その風俗は色々であった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「あの歌口は宗長流そうちょうりゅう、京都寄竹派きちくは一節切ひとよぎりじゃ、吹き手はさだめし虚無僧こむそうであろう」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二人の虚無僧こむそうの物語
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この村へも、時々、はいってくる虚無僧こむそうである。薦僧こもそうとも呼んでいる。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
虚無僧こむそうにしては天蓋てんがいを持たず、六部にしてはおい背負しょっておりません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
袈裟けさ掛絡からをまとえば、そのまま、虚無僧こむそうといった風采である。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手の尺八を見るまでもなく虚無僧こむそうであった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
虚無僧こむそう……虚無僧。なぜ返辞をせぬ」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
愛洲陰流あいずかげりゅう 疋田浮月斎ひきだふげつさい虚無僧こむそう
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しの竹枝ちくし男女ふたり虚無僧こむそう
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)