ふし)” の例文
去年こぞの夏凡兆が宅にふしたるに、二畳の蚊屋に四国の人ふしたり。おもふことよつにして夢も又四くさと書捨たる事どもなど云出いいいだして笑ひぬ」
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
過しけるが或時喜内は不※ふと風邪ふうじやをかされてふしたるに追々熱氣強く十日餘りも床に着ければ其間若黨二人一夜代り/\に次の間へ打臥うちふし夜中の藥を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その総滝そたきとは川はゞはおよそ百けんちかくもあるべきに、大なる岩石竜がんぜきりやうふしたるごとく水中すゐちゆうにあるゆゑに、おとしくる水これにげきして滝をなす也。
両手で頬杖ほおづえしながら匍匐臥はらばいねにまだふしたる主人あるじ懶惰ぶしょうにも眼ばかり動かして見しが、身体からだはなおすこしも動かさず
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
縁先えんさきの左横手に寄って柘榴ざくろふしている。この柘榴は槙にも劣らぬ老木である。駱駝らくだの背のこぶのような枝葉の集団が幾つかもくもくと盛りあがっている。
代匠記に、「シノビテ通フ所ニモ皆人ノふしシヅマルヲ待テ児等モ吾モ共ニ下紐解トナリ」と云っている。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
漕ぎ返しておいでよう! 何故そんなにあお向いてふしてばかりいらっしゃるの! 立って立って! お姉様! (と舟を止めんと身をあせり、格子をゆする)私が行く
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
じだらくに居れば涼しきゆふべかな。宗次そうじ。猿みの撰の時、宗次今一句の入集を願ひて数句吟じ侍れどとるべき句なし。一夕いつせき、翁のかたはらに侍りけるに、いざくつろぎ給へ、我もふしなんとのたまふ。
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
すべてのことが、重吉に云われた後家のがんばりを中心に思いめぐらされるのであったが、並んだ二つのふし床を丁寧にこしらえて行くうちに、ひろ子の心に、次第に深まるおどろきがあった。
風知草 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
袴野はその日からずっとふしているすてを、ふて寝でもしているように邪魔者扱いにし、きりょうが衰えてゆく一人の女を卑しげに見据えていった。もっと隅っこに邪魔にならないよう寝ていろ、と。
事ともせず日々ひゞ加古川の渡守わたしもりしてまづしき中にも母に孝養怠らざりし其内老母は風の心地とてふしければ兵助は家業かげふやすみ母のかたはらをはなれず藥用も手を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さては我をたすくるならんと心大におちつき、のちは熊とせなかをならべてふししが宿の事をのみおもひて眠気ねむけもつかず、おもひ/\てのちはいつか寝入ねいりたり。
こは何事なにごとやらんとむねもをどりてふしたる一間ひとまをはせいでければ、いへあるじ両手りやうてものさげ、水あがり也とく/\うら掘揚ほりあげ立退たちのき給へ、といひすてゝ持たる物を二階へはこびゆく。
あけて見るに絹布けんぷ木綿もめん夜具やぐ夥多おびたゞし積上つみあげてあり鴨居かもゐの上には枕のかず凡そ四十ばかりも有んと思はれます/\不審ふしん住家すみかなりと吉兵衞はあやしみながらも押入おしいれより夜具取出して次の間へこそふしたりける
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
翁が臨終りんじゆうの事は江州粟津の義仲寺にのこしたる榎本其角が芭蕉終焉記しゆうえんきに目前視るが如くにしるせり。此記をるに翁いさゝか菌毒きんどくにあたりてとなり、九月晦日より病にふしわづかに十二日にして下泉かせんせり。