脇目わきめ)” の例文
で彼は日曜のいい天気なるにもかかわらず何の本か、脇目わきめもふらないで読んでいるので、僕はそのそばに行って
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「先生は皆一生懸命ですよ。少し脇目わきめでもしていようものなら呶鳴りつけられますから、油断も隙もありません」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
大きなお社の鳥居の脇にはお百度石という石が立っていて、手に数取かずとりの紙縒かみよりや竹のくしをもって、脇目わきめも振らずにそこと社殿とのあいだを、き返りする人を毎度見かける。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
彼はいつもここの世界には不似合いな平然たる顔つきをし、運動の時にはもう長い間、何回も歩き慣れた道のように、さっさと脇目わきめもふらずかの花園の間の細道を歩くのである。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
彼女かのぢよはすぐに自分自身じぶんじしんのために、また子供達こどもたちためめにはたらかなければならなかつた。彼女かのぢよもなく親戚しんせき子供こどもあづけて土地とち病院びやうゐんつとめるとなつた。彼女かのぢよ脇目わきめらなかつた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
真綿はまゆ曹達ソーダでくたくた煮ていとぐちさぐり、水にさらしてさなぎを取りてたものを、板にしてひろげるのだったが、彼女はうた一つ歌わず青春の甘い夢もなく、脇目わきめもふらず働いているうちに
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
盆前よりかけて暑さの時分をこれが時よと大汗になりての勉強せはしなく、そろへたるとうを天井から釣下げて、しばしの手数も省かんとて数のあがるを楽しみに脇目わきめもふらぬ様あはれなり。
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
何か浅草に嫌悪けんお軽蔑けいべつの、そして幾分恐怖の背を向けて、——そのように、停車場と国際劇場の間を直線的に、さっさと脇目わきめもふらずに往復していて、六区の方へ一向にそれようとせず
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
しかし岸本はもっと広い自由な世界をめがけて脇目わきめもふらずに急ごうとした。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
まちには電燈がついた。四辻よつつじはひとしきり工場から吐き出される職工等の足埃あしぼこり狭霧さぎりに襲はれたやうにけむつた。彼は波止場から宿の方へ急いだ。さつさと町の片側を脇目わきめもふらず歩いて行つた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
二時間のあいだ我々は脇目わきめもふらずに掘った。ほとんどものも言わなかった。いちばん困ったことは犬のきゃんきゃんきたてることだった。犬は我々のしていることを非常に面白がっているのだ。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
今さらどのような事があろうと脇目わきめを振る気はないんですから
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
二人の戦士は、脇目わきめもふらず、標識灯を守りつづけている。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ば後になし歸ると聞しとらもんも歸らぬ旅にゆくそらの西の久保より赤羽あかばねの川は三としらかべ有馬ありま長家も打過て六堂ならねどふだつじ脇目わきめふらず急ぎしか此程高輪たかなわよりの出火にて愛宕下通りあたらし橋邊まで一圓に燒原やけはらとなり四邊あたり曠々くわう/\として物凄ものすごく雨は次第に降募ふりつのり目先も知ぬしんやみ漸々やう/\にして歩行あゆみける折しもひゞかね
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
盆前ぼんまへよりかけてあつさの時分じぶんをこれがときよと大汗おほあせになりての勉強べんきやうせはしなく、そろへたるとう天井てんぜうから釣下つりさげて、しばしの手數てすうはぶかんとてかずのあがるをたのしみに脇目わきめもふらぬさまあはれなり。
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)