背負おぶ)” の例文
お雪が子供を背負おぶいながら引返して来てみると、机の下に、「お雪さまへ、千代」とした土産が置いてあった。千代とは曾根の名だ。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
石屋の親方が自分を背負おぶって、世話をしてくれたのも、銑さんが船を漕いだのも、浪も、鴎も夢ではなくって、やっぱり今のが夢であろう。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いかなる場合でも、一番深く考えている者が苦労するように、母も姉も妹も、みんな新子に背負おぶいかかっているのだった。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
水車すいしゃの叔父さんに背負おぶさって、家に着いたのは最早もうトボトボ頃であった。お母さんは乃公を抱占だきしめて涙を流した。宛然まるで十年も別れていたようである。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
老人はよろこんで、「それでい、それで可い。では、私が、お前の家まで送ツて行ツてげやう。だが、お前は、大分疲れてゐるやうだ。私が背負おぶツて行ツてげる。」
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
土蔵くらの中だの、離座敷はなれみたような処だのを二人で間借りをして、そこで母はいろんな刺繍をした細工物を作るのでしたが、それが幾つか出来上りますと、僕を背負おぶって
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「誰だ! 誰だ! 俺を救ってくれたのは、俺は、それが知りたい。俺を背負おぶっているのは誰だ」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
背負おぶつてでもいからお出なさい。ね、子供の泣く時だけ外に出れば可いんだから。』
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
まあこの子はお父さんにもう背負おぶさるの。お待ち、まだだよ。(持って行く荷をつくる)
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
そのうち、兼松も段々人となり、妻をも迎えましたが相更あいかわらず親をば大切にして、孝行息子むすこというので名が通りました。それは全く感心なもので、お湯へ行くにも父親を背負おぶって行く。
この夜自分は学校の用で神田までゆき九時頃帰宅かえって見ると、妻がたすく背負おぶったまま火鉢の前に坐ってあおい顔というよりかすごい顔をしている。そして自分が帰宅かえっても挨拶あいさつも為ない。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
郁太郎いくたろう背負おぶったなりで与八は和尚の傍へ坐り込んで
学校の日課が終って、小使が教室々々の掃除をする頃には、ほおの紅い彼の妻が子供を背負おぶってやって来て、夫の手伝いをすることもある。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
フランス人は彼れ此れと支度に手間取った末、う申し出た。何人だれか私に背負おぶさって行くものはないか。大丈夫だ。首尾よく行けば其人の名誉は全世界に轟く。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「ヤア。屋根に出て来たぞ。しかも男が女に背負おぶさっているぞ。みんな出て来い。見ろ見ろ」
豚吉とヒョロ子 (新字新仮名) / 夢野久作三鳥山人(著)
背負おぶつてでも可いからおいでなさい。ね、子供の泣く時だけ外に出れば可いんだから。』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
それが夕暮が多かった——嬰児あかんぼ背負おぶって、別にあやすでもなく、結いたての島田で、夕化粧したのが、顔をまっすぐに、すずしい目をみはって、蝙蝠こうもりも柳も無しに、何を見るともなく
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今この席にいる光太郎を抱いたり背負おぶったりしてく佐竹ッ原へ見物に行ったものです(光太郎は打毬だきゅうが好きで長次郎が仕事をしていても、原へ行こう行こうといってくせがんだものです)
然し今でも真夜中にふと眼をますと酒も大略あらまし醒めていて、眼の先を児を背負おぶったお政がぐるぐる廻って遠くなり近くなり遂に暗の中に消えるようなことが時々ある。然し別に可怕おそろしくもない。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
辰三郎 お君はおいらが背負おぶって行く。
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
「エエ、わたしが背負おぶって参ります」
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
帳場の側のところには出入の職人のかみさんが子供を背負おぶって遅くやって来て、出来ただけの箸箱でも金に替えて行こうとするのがある。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
煮絞にしめた様な浅黄の手拭を冠つて、赤児を背負おぶつた十一二の女の児が、とあるうちの軒下に立つて妹らしいのと遊んでゐたが、智恵子を見ると、鼻のひしやげた顔で卑しくニタ/\と笑つて
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
と笑いながら逃げて行く子供を、片方は棒を持って追馳おっかけた。乳呑児ちのみご背負おぶったまま、その後を追って行くのもあった。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「そりゃ可愛がっているんですよ——あの児の眼の悪かった時なぞは、そこの阿爺おやじさんが毎日のように背負おぶってお医者の家へ通っていましたっけ」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
見れば省吾の弟、泣いて反返そりかへる児を背負おぶひ乍ら、一人の妹を連れて母親の方へ駈寄つた。『おゝ、おゝ。』と細君は抱取つて、乳房を出してくはへさせて
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
継母が末の児を背負おぶひ、お作の手を引き、進は見慣みなれない男に連れられて、後を見かへり/\行つたといふことは、近所のかみさんが来ての話で解つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
家へ戻ってみると、直樹は疲労つかれを忘れる為に湯に行った留守で、お雪は又、子供を背負おぶいながら働いていた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
音吉が独り残って教室々々を掃除する音は余計に周囲まわりをヒッソリとさせた。音吉の妻は子供を背負おぶいながら夫の手伝いに来て、門に近い教室の内で働いていた。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お房を背負おぶって町へ遊びに行った時、ある人がこんなことを言ったと言って、それを下婢が話し出した。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
階下したでは、種夫を背負おぶった人が、見せに出るらしかった。親戚の娘達の賑かな笑声も聞えた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
夫婦の間に生まれた二番目の女の子を供の男に背負おぶわせながら妻籠つまごの方から着いた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そこへ二番目の新吉を背負おぶった下婢おんなに連れられて、種夫が表の方から入って来た。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
よんどころなく丑松は送り届けることにして、ある時は右の腕で敬之進の身体からだを支へるやうにしたり、ある時は肩へ取縋とりすがらせて背負おぶふやうにしたり、ある時は抱擁だきかゝへて一緒に釣合を取り乍ら歩いた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
とうさんの幼少ちひさ時分じぶんいたり背負おぶつたりしてれたおひなは、ういふ山家やまがうまれたをんなでした。たけのこかはを三かくたゝんで、なか紫蘇しそけたのをれて、よくそれをとうさんにれたのもおひなでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)