羅紗らしや)” の例文
そこは青木さんの弟さんの部屋にしてあると見えて、青い羅紗らしやのかゝつた一閑張いつかんばりの机の上に、英語の辞書やインキ壺なぞが置いてあつた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
ガラツ八は其邊を搜しましたが、兇器きようきになるやうな石も棒も見當らず、反つて染吉の持物だつたらしい、贅澤ぜいたく羅紗らしやの紙入が見付かりました。
女の抜目のない利用法にかかつたら、どんな男でも羅紗らしや小片こぎれと同じやうに、ただの一つの材料に過ぎない。
書物しよもつそばにはいつもウオツカのびんいて、鹽漬しほづけ胡瓜きうりや、林檎りんごが、デスクの羅紗らしやきれうへいてある。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
廣間二つに樂の群を居らせて、客の舞踏のにはとしたり。舞ふ人の中にベルナルドオありき。金絲もて飾りたる緋羅紗らしやの上衣、白き細袴ズボン、皆發育好き身形みなりかなひたり。
またわたくしは、はたけや森の中で、ひどいぼろぼろのきものが、いちばんすばらしいびろうどや羅紗らしやや、宝石いりのきものに、かはつてゐるのをたびたび見ました。
『注文の多い料理店』序 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
掛け宰領さいりやう二人づつあとより麻上下あさがみしもにて股立もゝだちとりたるさむらひ一人是は御長持おながもちあづかりの役なりつゞいて金御紋きんごもん先箱さきばこ二ツ黒羽織くろはおり徒士かち八人煤竹すゝたけ羅紗らしやふくろに白くあふひの御紋を切貫きりぬき打物うちもの
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
もう、あと五分間といふ時、遠藤長之助は洋服の上へ黒羅紗らしやのマントをかけてやつて來た。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
たけ六尺余の大男で、羅紗らしやの黒羽織の下には、黒羽二重くろはぶたへ紅裏べにうら小袖こそで八丈はちぢやう下着したぎを着て、すそをからげ、はかま股引もゝひきも着ずに、素足すあし草鞋わらぢ穿いて、立派なこしらへ大小だいせうを帯びてゐる。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
平常ふだんの儘のまつたく質素な黒いメリノの外套と羅紗らしやの帽子、どちらも小間使こまづかひの半分も立派ではなかつた。私が何をしてゐるかを判定しかねてゐる模樣だつたので私は口を添へた。
好いまうぐちがあるからと言つて、飛びこんで来た知り合ひの大工は、外神田の電車通りに、羅紗らしやや子供服やボタンなどの、幾つかの問屋にするのに適当な建築を請負つて、その材料を分の好い条件で
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
かれ高野山かうやさんせきくものだといつた、年配ねんぱい四十五六しじふごろく柔和にうわな、何等なんらえぬ、可懐なつかしい、おとなしやかな風采とりなりで、羅紗らしや角袖かくそで外套ぐわいたうて、しろのふらんねるの襟巻えりまきめ、土耳古形とるこがたばうかむ
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「ギヤーマンの懷ろ鏡で、こいつは二朱や一分で買へる代物ぢやありません。赤い羅紗らしやの鏡入にはさんだまゝ、死骸の側に落ちて割れてゐたんですぜ、親分」
まつ赤な羅紗らしやをかけたテーブルを控へてどつかり腰かけ、その右側に一番の白猫と三番の三毛猫、左側に二番の虎猫と四番のかま猫が、めいめい小さなテーブルを前にして
彼女がその靜かな跫音あしおと羅紗らしやへりでつくつた上靴で消して、廊下を歩いて行くのをじつと見たときとか、ごた/\してまるでひつくり返したやうな寢室の内を覗いて——多分日傭女ひやとひをんなに向つて
「いえ、本當に浴衣を着たつきりです。大切にしてゐた赤い羅紗らしやの紙入まで置いて行つたくらゐですもの」
幸ひ平次から預つた羅紗らしやの紙入、それへポンと投り込んで、素知らぬ顏をすることに決めて了ひました。
だから、命知らずの紅毛人は、羅紗らしやだの、ビードロだの、いろ/\の小間物だの、あまり生活の足しにならぬ物を持込んで、この國の大判小判とへて行くのだ。
煙草入の中へ入れた。——羅紗らしやの結構な紙入を持つてゐる人間が、腰にブラ下げる煙草入などに小判を
「城といふ浪人者は、長崎あたりに居たんぢやあるまいか。羅紗らしややギヤマンや更紗さらさ唐木細工からきざいくが一パイだ。拔荷ぬけにでもあつかはなきやあんな品がふんだんに手に入るわけは無いよ」
「長崎町の大野屋に和蘭物オランダものがいろ/\ありましたよ。金銀細工物、羅紗らしや、ビードロ、それから見たこともねえ飾りや織物——、いつそ皆な買ひ占めるやうな顏をして、手付が五兩」
疊の上に落ちてゐた赤い羅紗らしやの紙入を開けると、小菊が二三枚と、粉白粉と、萬能膏ばんのうかうの貝と、小判形の赤い呉絽ごろの布と——その布の裏には、ベツトリ膏藥が付いて居るではありませんか。
銭形平次捕物控:124 唖娘 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
珠玉、細工物、ギヤーマン、羅紗らしや、それに南蠻物の生藥きぐすりの數々。その中には萬兵衞が呑んだと思はれる吐根とこんも、佐太郎を殺したと思はれる砒石ひせきも交つてゐたことはいふまでもありません。