縊死いし)” の例文
そしてその物置へは多少の手入ていれを加えて、つまり肺結核の大学生を置いてやることにしたという。或る日この大学生は縊死いしげた。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
それと前後して、旅僧を惨殺した真犯人が縊死いししたので、勘右衛門は未決から釈放しゃくほうせられた。犯人は千代に失恋した村の若者であった。
風呂供養の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
実はあそこのはりに紐をかけて縊死いしを遂げてりましたが、あまりに見にくいので、そのままお届けも致さないで、下して寝かせました。
好色破邪顕正 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
彼は黄金仮面、黄金衣裳のまま、身につけていた革帯を頂上の棒にかけて、魔界の勇士にふさわしく、はれがましき縊死いしをとげた。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
××の鎮海湾ちんかいわん碇泊ていはくしたのち煙突えんとつ掃除そうじにはいった機関兵は偶然この下士を発見した。彼は煙突の中に垂れた一すじのくさり縊死いししていた。
三つの窓 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
十年ほど前、背任罪で入獄中縊死いしした実業家某というもののめかけで、その前身はかつてその実業家の家に出入りしていた家庭教師であった。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一番容易に死ぬことが出来て、やりそくないのない縊死いしをとげるまで、臆病と自分でもいうほど、死の手段を選んでいたのだ。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
義雄はこれを見て、あの烏山でかの女が縊死いししかけた時のありさまを思ひ合はせ、如何に憎い女でも、再びあんな眞似はさせたくなかつた。
箱は見つかったし、当人は縊死いししようとしたんだもの、『自分に悪事をした覚えがなけりゃ、そんなことをするはずがない!』
勿論あらゆる点にわたって、縊死いしの形跡は歴然たるものだった。のみならず、それを一面にも立証しているのが、レヴェズの顔面表情だった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
縊死いしを企つるに及んだ素因が単なる失恋の結果からであるか、それともほかに何かかくされた事件があるか、その二つを剔抉てっけつすればいいのでしたから
いつか縊死いしをしようとしたが、それから眼に見えて衰弱し、いまでは食事もとらず、意識もしだいに溷濁こんだくするばかりである、というようなことであった。
一方に西村のにせ母親は、憤慨の余り縊死いししていることが昨朝に至って発見されたので、早速係官が出張して取調とりしらべの結果、他殺の疑いは無いことになった。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
四郎が去った後で閻ははじいきどおりにたえられないので自殺しようと思って、帯で環をこしらえて縊死いししようとしたが、帯がれて死ぬることができなかった。
五通 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
自殺の縊死いしだと思っていたのが、縄の引っ張ってある具合から、これは他殺でないと出来ないことだと気がついた彼はにわかに恐怖を感じた。お千は殺されたのだ。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
むかし桜子さくらこという娘子おとめがいたが、二人の青年にいどまれたときに、ひとりの女身にょしんを以て二つの門に往きかのあたわざるを嘆じ、林中に尋ね入ってついに縊死いしして果てた。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
縊死いしの細工をするのに、死んだ娘の赤い扱帯を持出す番頭や親類もよっぽどどうかしております。
それはなんでも、例の気味のわるい神経衰弱の患者がその林の中で縊死いししていたと云う話だった。
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
参軍断事さんぐんだんじ高巍こうぎ、かつて曰く、忠に死し孝に死するは、臣のねがいなりと。京城けいじょう破れて、駅舎に縊死いしす。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
首をくゝる支度の最中にも、出来るだけ死の前に、余計な痛みや苦しみのないやうに、縊死いしに使ふ紐まで、べつたりと石鹸水を濃く塗つておいたと云ふ、一章を忘れなかつた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
ふうがわりの作家、笠井一の縊死いしは、やよいなかば、三面記事の片隅に咲いていた。色様様いろさまざまの推察が捲き起ったのだけれども、そのことごとくが、はずれていた。誰も知らない。
狂言の神 (新字新仮名) / 太宰治(著)
結果は夫や兄弟あるいは愛児の首途かどでを激励するために、一同うちそろって付近の山林で縊死いしすることになった。マヘボ社蕃婦の全部、及びボアルン社蕃婦の一部がこれに参加した。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
門外に靴音して、朝巡回あさまわりの巡査、松の木の縊死いしを認めて、戸を叩き、「開門、開門。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
翌朝、監房監守が点検にゆくと、東側八号室の女は細紐で固く喉をしめて縊死いしをとげていた。ちょっと胸にさわって、もう絶命しているのを見てとると、靴音高く混凝土コンクリートの廊下を走り去った。
金狼 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
併し下寺町で平八郎と一しよに彷徨してゐた渡辺良左衛門は河内国志紀郡田井中村で切腹してをり、瀬田済之助は同国高安郡恩地村で縊死いししてをつて、二人の死骸は二十二日に発見せられた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
妻は夫がわが伯父が調達しくれた金でほかの女を妻に取る支度と心得、怒って縊死いしするところを近所の人々に救わる。その後焦黒雷に打たれて死し、腰に盗んだ銀包みがあったので事実が判った。
おきみは、窓の鐵格子へしごきを掛け、縊死いししてゐたのである。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
「おれの長兄も縊死いししたんだ。ただしぶら下りじゃない」
狂い凧 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
良雄が気絶して仰向きに横わって居る真上には、屋根裏の梁に細帯をかけて、可憐のあさ子が、物凄い顔をして縊死いしを遂げて居たのである。
血の盃 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
家へ帰って見ると妹は機屋はたやの天井にしごきをかけて縊死いししていた。神中はその死体を座敷へ運んでとこをとって寝かし、己もそのへやで縊死した。
雀が森の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それをそこの林の木の枝にさげて縊死いしを装わしめる ★窓外からうったピストルを室内に投げこみ、被害者の衣服にあらかじめ焔硝えんしょうのあとをつけておいて
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
大正の世となりて女優松井おすまの縊死いし、新華族芳川よしかわの娘おかまが出奔しゅっぽん、医者浜田の娘おえいの自殺なんぞ
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
近くへいってみると、横にしだれた樹の枝に帯をかけて、縊死いししようとしているらしい者がいた。陳は
阿霞 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
あれなる若者を苦しめて縊死いしを決行させるにいたった原因は、あの疑惑中の人物上方の絹商人ひとりにあるに相違なく、もしまた彼女が今の呼び出しに応じないで
縊死いしの細工をするのに、死んだ娘の赤い扱帶を持出す番頭や親類もよつぽどどうかして居ります。
その手入ていれを加えた物置というのは、今の学生二人のいる表二階の一室ひとまで、人間の身のけぐらいに白い光りの見ゆるのが、その大学生が縊死いしげた位置と寸分違わない。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
しかるに同教諭出発後、教頭次席、山口教諭指揮の下に引続き開校準備に忙殺されいるうち、同校職員便所に於て、同校古参女教諭、虎間トラ子(四十二)が縊死いししおる事が
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さながら、脳漿のうしょうの臭いをぐ思いのする法水の推定が、ついにくつがえされてしまった。レヴェズは発見されはしたものの、垂幕の鉄棒に革紐を吊って、縊死いしを遂げているのだった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
しかしユダはクリストを売つた後、白楊の木に縊死いししてしまつた。彼のクリストの弟子だつたことは、——神の声を聞いたものだつたことは或はそこにも見られるかも知れない。
西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
縊死いし入水じゅすいさえ心に描かずにはいられないような悔恨を、もし運命が送ったら! おお、彼はそれをいかばかり喜んだかしれない! 苦痛と涙も要するにやはり生活ではないか。
扱帯しごきくびれたあとがひどいし、声もすっかりしゃがれてしまった、顔もれたままだが、におちないのは、縊死いししようとしたのは気が狂ったからでなく、どうやら正気でやったことらしいんだ」
死ぬるがいいとすすめることは、断じて悪魔のささやきでないと、立証し得るうごかぬ哲理の一体系をさえ用意していた。そうして、その夜の私にとって、縊死いしは、健康の処生術に酷似こくじしていた。
狂言の神 (新字新仮名) / 太宰治(著)
これけだし深川綾子の建案にて、麹町の姫様ひいさま檀那だんなとなり、あまたの貴婦人これをたすけ、大法会をしゅして縊死いしの老婆を追善し、併せて鮫ヶ橋の貧民の男女を論ぜず、老少を問わず、天窓数あたまかず一人に白米一斗
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ナニ血だって? 縊死いしに出血は変だネ」
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
迷いに迷って縊死いししたのもある。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
其のことは直ぐに檀家に知れて大問題となり、住職は女に裏切られた苦しさと、厳しい檀家の糺問きゅうもんに耐えかねて縊死いしした。
法華僧の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
信之は暴風雨あらしに乗じて友江さんを絞殺し、縊死いししたように見せかけて置いたのでして、その為に起った良心の苛責がその主要な原因となったのでした。
暴風雨の夜 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
夫の目を忍びて小説家某と密通し、事のあらわれんとするや姦婦姦夫ともに為すところを知らず、人跡断えたる山中の一ツ家に隠れ、荒淫幾日、遂に相抱いて縊死いしす。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
十一娘は縊死いししていた。一家の者は驚き悲しんだが、もうおっつかなかった。三日してとうとう葬った。
封三娘 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)