からま)” の例文
戸をあけてうちへ入らうとすると、闇の中から、あはれな細い啼聲なきごゑを立てゝ、雨にビシヨ/\濡れた飼猫の三毛がしきり人可懷ひとなつかしさうにからまつて來る。
絶望 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)
愛情はまだ参木の後姿にからまったまま、沈み出した。すると、お杉は通りかかった黄包車ワンポウツを呼びとめて、参木の面前をけ抜いた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
喬生の手首には金蓮の手がからまってきた。喬生はその手を振り放して逃げようとしたが逃げられなかった。金蓮は強い力でぐんぐんと引張った。
牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
Kはキラキラと輝く光線の中にその白い素足の小さく、しかも割合に早く、浴衣の裾にからまるやうにして動いて行くのをじつと見詰めながら徐かに歩いた。
浴室 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
おもひながら瓜井戸うりゐど眞中まんなかに、一人ひとりあたまから悚然ぞつとすると、する/\とかすみびるやうに、かたちえないが、自分じぶんまはりにからまつてねこはう
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
孔明自身の四輪車すら、煙に巻かれ、炎に迷い、あやうく敵中につつまれからまるところを、関興、張苞に救われて、ようやく死中に一路を得たほどであった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かく言捨てて蒲田は片手しておのれの帯を解かんとすれば、時計のひも生憎あやにくからまるを、あせりに躁りて引放さんとす。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
彼にからまる記憶が一族の将来に対して何事かを暗示していたような気がしてならないのである。
三等郵便局 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
文錦あやにしきやさしきまゆに切り結ぶ火花の相手が、相手にならぬと見下げられれば、手を出す必要はない。取除者とりのけものを仲間に入れてやる親切は、取除者の方で、うるさくからまってくる時に限る。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一言ひとこと、手早く尻をからげてザブ/\と流れる小供の後を追ふ。小供は刻々中流おきへ出る、間隔は三間許りもあらう。水は吉野の足にからまる。川原に上つた小供らは声を限りに泣騒いだ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
もう往来で凧を揚げるなと断られたから、乃公達は教会の後手うしろで空地あきちへ行った。暫時しばらくは工合が善かったが、しまいには乃公の凧が木にからまってしまった。いくら引張って見ても取れ様としない。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
今日となツては、父子爵は最早もはや猶豫ゆうよして居られぬと謂ツて、猛烈もうれついきほひで最後の決心けつしんうながしてゐる。で是等の事情がごツちやになツて、彼の頭にひツかゝり、からまツてはげしい腦神經衰弱なうしんけいすゐじやく惹起ひきおこした。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
途中で道を失って、何時いつまでっても出られない、何処どこをどう歩いたものか、この二時間あまりというものは、草を分けたりつるからまったりして、無我夢中で道を求めたが、益々ますます解らなくなるばかり
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
喬生の手首には金蓮の手がからまって来た。喬生はその手をり放して逃げようとしたが逃げられなかった。金蓮は強い力でぐんぐんと引張った。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
からまったパイプのつるの間から、凄艶な工女がひとり参木の方を睨んでいた。参木は彼女の眼から狙われたピストルの鋭さを感じると高重に耳打ちした。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
おもひながら、瓜井戸うりゐど眞中まんなかに、一人ひとりあたまから悚然ぞつとすると、する/\とかすみびるやうに、かたちえないが、自分じぶんまはりにからまつてねこはう
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
水は吉野の足にからまる。川原に上つた子供らは聲を限りに泣き騷いだ。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
転がる人の上を越す足と、起き上る頭とが、同時に再びからまって倒れると這い廻った。踏まれた蓬髪に傾いた頭が、疾風のように駈ける足先に蹴りつけられた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
やがて登は、月の光のような微暗うすぐらいたへやで女と寝そべって話しているじぶんに気がいた。彼の手には女の手がからまっていた。彼はまた酒のことを思いだした。
雑木林の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
小褄こづまを取った手に、黒繻子くろじゅすの襟が緩い。胸が少しはだかって、褄を引揚げたなりに乱れて、こぼれた浅葱あさぎが長くからまった、ぼっとりものの中肉が、帯もないのに、嬌娜しなやかである。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼女たちは矢車草の紫の花壇と薔薇の花壇の間を朗かに笑いながら、朝日にからまって歩いていった。噴水は彼女たちの行く手の芍薬しゃくやくの花の上で、朝の虹を平然と噴き上げていた。
花園の思想 (新字新仮名) / 横光利一(著)
女はって出て往った。登は出て往く女の紫色の単衣ひとえものからまった白い素足すあしに眼をやりながら、前夜の女の足の感じをそれといっしょにしていた。彼はうっとりとなって考え込んでいた。
雑木林の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)