突拍子とっぴょうし)” の例文
「それや僕もそう思うなあ。僕だってふかになりたい、と思ったことがあるもんなあ」と、波田は初めて、その突拍子とっぴょうしもない口をきった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
したがって突拍子とっぴょうしもない偉い人間すなわち模範的な忠臣孝子その他が世の中には現にいるという観念がどこかにあったに違ない。
文芸と道徳 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そういう突拍子とっぴょうしもない思いが湧き上って来たのであります。そうです、はっきりと調和という言葉を私は聞いたのであります。
蝶が飛ぶ 葉っぱが飛ぶ (新字新仮名) / 河井寛次郎(著)
彼は食い荒されたにしんの背骨をひとさらせていたが、おくへ通ずるドアを後ろ足で閉めながら、突拍子とっぴょうしもない声でいきなり
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
掴み上げて二三度、目の前でクルクルと廻していたが、やがて我慢が出来ないというように、突拍子とっぴょうしもない笑声が爆発した。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
うん、急に逢いたくなくなった。僕はそんなに突拍子とっぴょうしも無い幸福に酔おうとは思わないよ。あのゴミゴミした東京で、妻を
火葬国風景 (新字新仮名) / 海野十三(著)
突拍子とっぴょうしもなくいきなり問いかけた。それを聞くと葉子の心は何という事なしに理不尽な怒りに捕えられた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
内省とか羞恥しゅうちとか、いわば道徳的観念とでも呼ばれるものに余程標準の狂ったところがあって、突拍子とっぴょうしもない表出には莫迦だか悧口りこうだか一見見当もつかなかった。
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「おっ! 何を? 何を?……」西谷はびっくりして、突拍子とっぴょうしな声を上げながら、作業台を覗き込んだ。
仕丁 (揚幕あげまくうちにて——突拍子とっぴょうしなるさるの声)きゃッきゃッきゃッ。(すなわ面長つらなが老猿ふるざるの面をかぶり、水干すいかん烏帽子えぼし事触ことぶれに似たるなりにて——大根だいこん牛蒡ごぼう太人参ふとにんじん大蕪おおかぶら。 ...
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「やあ、突拍子とっぴょうしもねえ、高い声で歌い出しやがった——聞き取れるよ、文句が聞き取れるよ、じっとしていてみな、おいらの耳でも立派に、歌の文句が聞き取れるよ」
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
子供達は、不思議な風琴のキイをいじくっていた。ヴウ! ヴウ! この様に、時々風琴は、突拍子とっぴょうしな音を立てて肩をゆする。すると、子供達はまめのようにはじけて笑った。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「このごろでは始終造花を売っておられるんですか。」彼は突拍子とっぴょうしもなくこんなことをきいた。
今聴いてさえも余り突拍子とっぴょうしもなくて、初めて聞くものには作り咄としか思われないだろう。
……どんな男だったかなあ。小説家かい? 画家じゃないか。ヴェラスケス。ちがう。ヴェラスケスって、なんだい。突拍子とっぴょうしないじゃないか。そんなひと、あるかい? 画家さ。
八十八夜 (新字新仮名) / 太宰治(著)
癇癪かんしゃくの強いらしいその目が、どんよりした色に濁って、調子が相変らず突拍子とっぴょうしであった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
とつぜん彼の頭裡には、鎌倉の一ツの辻と或る女の姿が、突拍子とっぴょうしもなく思い出された。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは金属性を帯びた、突拍子とっぴょうしもない甲高かんだかい声であった……が……その声は私に、過去の何事かを思い出させる間もないうちに、四方のコンクリート壁に吸い込まれて、消え失せてしまった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
どうもこんなところに来ている外人には突拍子とっぴょうしもない奴がいるものだな。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
実は拙者、貴様のその、突拍子とっぴょうしもない度胸が、惜しくなったのだ。それに、貴様の、必死必殺の気組の底には、ただ喧嘩慣れた、無頼漢ならずものには、ふさわしからぬ、剣気がかくされているような気がする。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
是はいかなる突拍子とっぴょうしもない話し家でも、高座こうざあがった早々そうそうからおかしいことをいう者が無いと同じで、むしろ最初はさりげなく、やがて高調してくる滑稽こっけいを、予想せしめただけでよいのであった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
いくらなんでも、火星の生物が、この地球にやって来るなんて、そんな突拍子とっぴょうしもないことは考えられないからである。
火星兵団 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それにしても、いくら都会のジャングルだといって、東京の浅草公園を、熱帯動物の豹がノコノコ歩いていたなんて、あまりに突拍子とっぴょうしもない話ではないか。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
今時いまどきは投節を面白く歌うて聞かせる芸子もなければ、それを聞いてよろこぶ客もない。あんなガサツな流行唄はやりうたや、突拍子とっぴょうしもない詩吟で、廓の風情ふぜいも台なし、いよいよ世は末じゃて
お品は与吉がいうことの余り突拍子とっぴょうしなのを、笑うよりもず驚いたのである。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
突拍子とっぴょうしもなくいった。あまりの不意に細君は目を見張って顔をあげた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
と、老先生は、突拍子とっぴょうしもない声で、だしぬけにさけんだ。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そういう突拍子とっぴょうしもないことをいうのは、帆村荘六自身がもう神経衰弱になっているのではないかと思ったのだ。
宇宙戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
さすがの明智も、まったく予期しなかった人物との、突拍子とっぴょうしもない再会に、愕然がくぜんとしないではいられなかった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
田山白雲が、ようやく筑水の詩をうたいはじめた途端に、向うの方で、突拍子とっぴょうしもない声で
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と、突拍子とっぴょうしもない声で、自分の存在を誇示するように
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
突拍子とっぴょうしもない話である。日本人の名誉にかかわるとはいかなる事件が起きたのか、私には皆目かいもくのみこめない。
暗号音盤事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
だが、余りと云えば突拍子とっぴょうしもない言草いいぐさではないか。一体全体何の理由があって、何の恨みがあって。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
突拍子とっぴょうしもなく大きな声で怒鳴りました。近所の人はその声に夢を破られたのもあったけれど、すぐにまた例の道庵先生かと思って、わざわざ起きて様子を見届けようとするものもありませんでした。
突拍子とっぴょうしもない大声である。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
暗闇の竹藪の中では、それが滑稽に見えるどころか、何ともえたいの知れぬ奇怪なものに感じられた。現実の出来事というよりは、悪夢の中の突拍子とっぴょうしもない光景であった。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
やっとしてから、二郎の突拍子とっぴょうしもない大声が、庄太郎を飛上らせた。そして、彼はそのまま、二階の方など見向きもしないで、外の広っぱへと駈け出して行く様子であった。
灰神楽 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
突拍子とっぴょうしもない声でわめいたかと思うと、見る見る、額の血管を恐ろしい程ふくらませ、顔中を筋だらけにして、無残な泣き顔になったが、いきなりギュンと歯を噛みしめて
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この世には、時々、何とも解釈のつかぬ、夢の様な、突拍子とっぴょうしもない事柄が、ヒョイと起ることがあるものだ。地球のわずらう熱病が、そこへ真赤な腫物しゅもつとなって吹き出すのかも知れない。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
気がつくと、目の前の群衆の中に、突拍子とっぴょうしもない色彩のものが、まじっていた。
女妖:01 前篇 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
幸吉は気でも違ったのではないかと思われる様な、突拍子とっぴょうしもない声で叫んだ。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
未亡人の実兄や女中をとらえて、二人の人物に心当りはないかと尋ねたが、洋服の紳士の方は余り漠然としていて見当がつかぬし、矢絣の娘の方は、そんな突拍子とっぴょうしもない風体の女は全く知らない
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そいつの顔は恐ろしいどころか、実に突拍子とっぴょうしもない滑稽こっけいなものであった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼はそんな突拍子とっぴょうしもないことを尋ねたりしました。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)