禿山はげやま)” の例文
兎だの、亀だの、そのほか五六ごろく匹の動物は、その時ちょうど森のはずれの小高い禿山はげやまの上にいたので、すぐ火事を見つけることが出来ました。
兎と亀 (新字新仮名) / ロード・ダンセイニ(著)
下りが急になって、笹もかやも人丈を没する程に伸びている。今迄禿山はげやまであったのが此辺から木立が現れて来た。殊に西側の方が繁っている。
美ヶ原 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
それがまた非常に佳い景色のように感ぜらるるものですからもちろん山の形などは巌窟いわや禿山はげやまばかりで面白くも何ともないが
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
丘を越えると、行手の山道は、灰色の岩に深くジグザグに刻み込まれ、血が流れて赤黒くかたまったように、遠い禿山はげやまの山腹まで続いている。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
貴方あなたが越えておいでになった周防山すおうやまの、もう少し右手寄りに、禿山はげやまがあるの、御存知? 今日はそこへいきましたの。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
この島よりも、もつと無人な島へ、いま自分は行きつゝあるのだと、富岡は、呆んやり、近くなつてゆく島の港を見てゐた。禿山はげやまのやうな島である。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
富岡老人はそのまま三人の者の足音の聞こえなくなるまで対岸むこう白眼にらんでいたが、次第に眼を遠くの禿山はげやまに転じた、姫小松ひめこまつえた丘は静に日光を浴びている
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
君の顔を見た瞬間に、故郷の禿山はげやま彷彿ほうふつとして眼前に浮んだね。イヤ。禿げているから云うんじゃない……アハハハ。今夜はこの風をさかなに飲み明かそうじゃないか。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
神戸の山々が禿山はげやまなのを見て最初雪が積っているのかと思った。土佐の山には禿山はないからである。
此方こなたの岸から水の真中へかけて、草も木もない黄色の禿山はげやまが、曇った空にそびえて眺望をさえぎっている。
放水路 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
禿山はげやまで、いただきには樹木も無い。草花が所々懸崕けんがいの端に咲いてゐる。私の傍には二人の小兒こどもが居た。
(旧字旧仮名) / 吉江喬松吉江孤雁(著)
管弦楽では山の妖異よういの夜宴を描いた「禿山はげやまの一夜」が面白い。きわめて怪奇なものだが、手頃な交響詩だ。コロムビアのパレー指揮のレコードがすぐれている(J八三六五)。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
船の上から見た大泊の町は、禿山はげやまの低い連山を背景にもった、荒れた色の港町であった。
ツンドラへの旅 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
伊香保より水沢みさわ観音かんのんまで一里あまりの間は、一条ひとすじの道、へびのごとく禿山はげやまの中腹に沿うてうねり、ただ二か所ばかりの山の裂け目の谷をなせるに陥りてまたい上がれるほかは
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
そんな頑丈な身體をしてるし、辛抱強いのに、机の前でいぢけてるのは詰まらないぢやないか。先日こなひだ山から見た島を借りて桃を栽ゑても、後ろの禿山はげやまひらいても何か出來さうぢやないか。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
石巻ノ衰ヘタ原因ハ如何いかニモ明白デアル、水ニさけまぐろガアル、陸ニ石、糸ガアル、長十郎梨ガアル、雄勝ノ硯石すずりいしモアル、渡ノ波ノ塩ハ昔カラ名高イ物デアル、アタリノ禿山はげやまニ木ヲ植ヱ
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
杉かひのきか分からないが根元ねもとからいただきまでことごとく蒼黒あおぐろい中に、山桜が薄赤くだんだらに棚引たなびいて、しかと見えぬくらいもやが濃い。少し手前に禿山はげやまが一つ、ぐんをぬきんでてまゆせまる。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大森の奥の奥沢おくさわというところに、松ばかりの広大な植木溜があった。赤土の禿山はげやまや谷をそのままあしらった松の溜場には、姿を生かしてどんな松でも、おもうように選ぶことができていた。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
せっかく尾州藩で保護して来た鬱蒼うっそうとした森林はたちまち禿山はげやまに変わるであろうとの先入主となった疑念にでもとらわれたものか、本山盛徳は御停止木の解禁なぞはもってのほかであるとなし
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
山はどこも彼処かしこむせかえるような若葉が鬱蒼うっそうとしていた。せた菜花なたねの咲いているところがあったり、赭土あかつちの多い禿山はげやまの蔭に、瀬戸物を焼いているかまどの煙が、ほのぼのと立昇っていたりした。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
林が途切れて禿山はげやまとなった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
雪舟と禿山はげやま5・11(夕)
石磧いしかわら禿山はげやまの中で生れた人間が多いのですから景色の趣味を解することが出来ぬと見える。絵でもチベット固有の景色を描いたものは一枚もない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そん伍長は、軽機関銃を持った一分隊を率いて、この街の上にのしかかる禿山はげやますその褐色の、丘を登って行った。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
湖の向う側の、林の上にそびえているあかちゃけた禿山はげやまに、じいっと彼女は、眼を留めているようです。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
はとが幾羽ともなく群をなして勢いこんで穀倉のほうから飛んできた、がフト柱を建てたように舞い昇ッて、さてパッといっせいに野面に散ッた——アア秋だ! 誰だか禿山はげやまの向うを通るとみえて
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
霧と云えば霧と云われるくらいなかすかな粒であるが、四方の禿山はげやまめ尽した上に、筒抜つつぬけの空を塗りつぶして、しとどと落ちて来るんだから、うちの中に坐っていてさえ、ぬかよりも小さい湿しめ
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まあ水のあるような所には草がえその外は全く石の禿山はげやまといってよい位。しかしその平原地になって居る所には水も溜って居り幾分か草も生えて居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
その不調和な音が切っ立った石垣に突き当って、うしろ禿山はげやまに響いて、まだやまないうちに、じゃららんとまた一組があとから鳴らし立てて現れた。たと思うとまた現れる。今度は金盥を持っていない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)