生返事なまへんじ)” の例文
気のなさそうな生返事なまへんじをした叔母は、お金さんが生温なまぬるい番茶を形式的に津田の前へいで出した時、ちょっと首をあげた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
博士の鼓膜こまくに、その声が入ったのか、博士は生返事なまへんじをした。生返事をしただけで、彼はなおも飾窓の青いペパミントの値段札に全身の注意力を集めている。
もっとも庄造も、女房の景気のいゝ時だけ忠実振りを発揮して、だん/\出るものが出なくなると、現金に態度を変へ、浮かぬ顔をして生返事なまへんじをする癖があるのだが
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
朝之助とものすけころんで愉快ゆくわいらしくはなしをかけるを、おりきはうるさゝうに生返事なまへんじをしてなにやらんかんがへて樣子やうす、どうかしたか、また頭痛づゝうでもはじまつたかとかれて
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「もうきだ。よつぽどまへにEはしわたつたからな‥‥」と、わたしねむたさをこらへながら生返事なまへんじをした。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
生返事なまへんじをするほかなかった。始めて口をきく幾人もの男の前で、とっかは物をいうのがさすがに億劫おっくうだった。興録は事務長の意向を読んで取ると、分別ふんべつぶった顔をさし出して
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
と役人たちはみな言い合せたように、妙な懐疑的の生返事なまへんじである。いうまでもなく、西門慶とは公私にわたって、昵懇じっこんな者ばかりなのだ。いや官と政商の腐れ縁といったほうがいい。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうかも知れないよ。」どうだかと思いながら私は生返事なまへんじをしました。
鳥をとるやなぎ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
生返事なまへんじすると、金五郎は、あわてて、ピストルを、寝巻の懐に隠した。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
と恭一は生返事なまへんじをしたが、すぐ
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
奥さんからもお嬢さんからも、K自身からも、起きろという催促を受けた私は、生返事なまへんじをしただけで、十時ごろまで蒲団ふとんかぶって寝ていました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
勿体もつたいなきこととはりながららうへの待遇もてなしきのふにはず、うるさきとき生返事なまへんじして、をとこいかればれもはらたゝしく、おらぬものなら離縁りゑんしてくだされ、無理むりにもいてはとたのみませぬ
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
すこあるかないか」と代助がさそつた。平岡もくちいそがしくはないと見えて、生返事なまへんじをしながら、一所にはこんでた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
津田は生返事なまへんじをした。白い巻紙と無地の封筒さえあれば、必ず自分の希望が成功するという訳にも行かなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「さっきから二人で大待ちに待ったところなんだ。早速願おう、なあ君」と主人を見る。主人もやむを得ず「うむ」と生返事なまへんじをする。寒月君はいそがない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ちつと散歩さんぽでもらつしやい」とつた。しか其時そのとき宗助そうすけたゞうんと生返事なまへんじかへしただけであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
好い加減をいうとすぐあとから実行をせまられそうな様子なので、津田は生返事なまへんじをしたなり話をほかへそらした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なにしろ知らない女なんだから、すこぶる躊躇ちゅうちょしたにはしたが、断然断る勇気も出なかったので、まあいいかげんな生返事なまへんじをしていた。そのうち汽車は名古屋へ着いた。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
Kの生返事なまへんじ翌日よくじつになっても、その翌日になっても、彼の態度によく現われていました。彼は自分から進んで例の問題に触れようとする気色けしきを決して見せませんでした。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けれども、さうこゝろよく引き受ける気にもならなかつた。何しろ知らない女なんだから、頗る蹰躇ちゅうちょしたにはしたが、断然断わる勇気も出なかつたので、まあい加減な生返事なまへんじをして居た。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
奥さんはそれじゃ私の知ったものでも呼んで来たらどうかといい直しましたが、私も生憎あいにくそんな陽気な遊びをする心持になれないので、い加減な生返事なまへんじをしたなり、打ちやっておきました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかしその時は宗助がただうんと云う生返事なまへんじを返しただけであった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ええ——まあ——」と生返事なまへんじをした時、甲野さんは背を引いて腕を組んだ。同時に洋卓の下で、右足の甲の上へ左の外踝そとくろぶしを乗せる。母の眼からは、ただゆきの縮んだ卵色の襯衣シャツの袖が正面に見える。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
主人も「うむ」と生返事なまへんじをする。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)