わけ)” の例文
百にも、おしげにも、わけがわからなかったのである。兄弟子たちは、出てゆく百へうしろ指をさして、手癖てくせがわるいとささやき合った。
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たゞ、あるわけで、私はあの大きな松の木の近所が恐かつただけなんだ。そして用心が、もつと危険の少い場所をさがさせたのだ。
何か深いわけがあるんだ。さあ、土曜日までもう一度静かな気持になって、その『最後の謎』を考えられるだけ考えてみよう
とむらい機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
女はそれでも背後うしろを向かなかった。漁師は不思議でたまらなかったが、何かわけがあるだろうと思って、いて往った。
月光の下 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
此方こちの心が醇粋いっぽんぎなれば先方さきの気にさわる言葉とも斟酌しんしゃくせず推し返し言えば、為右衛門腹には我を頼まぬが憎くていかりを含み、わけのわからぬ男じゃの
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
西宮はわけも分らぬことを言い、わざとらしく高く笑うと、「本統に馬鹿にしていますね」と、吉里も笑いかけた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
『そんなわけとは知らずに——。ごぶさたをしてすみませんでした。早速お訪ねしてお慰めしましょう』
蛇性の執念 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
しかし、今度は逆に考えて、そのわけを知った以上、誰でも米を作れるかと言うと、そうはゆきません。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「しかし虎だぜ。張子の虎を初めとして、斯う虎ばかり鉢合せをするわけもなかろうじゃないか?」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
もとより何故なにゆえというわけはないので、墓石の倒れたのを引摺寄ひきずりよせて、二ツばかり重ねて台にした。
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こういう意味で私はキッパリと謝絶ことわりました。すると沢田氏という人もわけのわかった人とて
しかもお前はその婿を生涯忘れないほどに思つてゐると云ふぢやないか。それに何の不足が有つて、無理にも嫁にかなければならんのだ。天下にこれくらゐわけの解らん話が有らうか。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
駄夫がふつとわけもなく坐り込むのを待ち構えて、顔の場所から静かな声で
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
乃公が恐れるわけがある。
狂人日記 (新字新仮名) / 魯迅(著)
「——一角について、逃げるわけもないし、それを、兄たる丈八郎が、黙って見ておるわけもないと。——ま、一理あるな。そう申しおる」
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうしてわけもなくむしゃくしゃと腹が立って、運転手に渡した五円紙幣までが忌々いまいましくなった。——だが、あの半死の少女を浚って行く泥棒もあるまいじゃないか。
黒猫十三 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
「そんなことはないのですけど、これは、すこしわけがあって、ちょっとでも抜かれないのですもの」
岐阜提灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
もとより何故なにゆゑといふわけはないので、墓石はかいしたふれたのを引摺ひきずりせて、ふたツばかりかさねてだいにした。
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と此方の心が醇粋いつぽんぎなれば先方さきの気に触る言葉とも斟酌せず推返し言へば、爲右衞門腹には我を頼まぬが憎くていかりを含み、わけの解らぬ男ぢやの、上人様はきさまごとき職人等に耳は仮したまはぬといふに
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
このわけを、すこし拡大して譬えによって述べて見ますと、向うに港を出帆して行く汽船があります。岸で二人の人が見ております。一人の人は船暈ふなよいする人ですが、一人の人は船に達者の人であります。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「番頭が嘘をつくわけはない。運転手も然う言ったじゃないか?」
村の成功者 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
武蔵が、七宝寺へも、姉の側へも立ち寄らないわけけた。同時に、息子の又八は帰らずに、彼のみ生きて帰ったことが、いきどおろしかった。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おっと、待ってもらおうか、私は其処の用人だから、毎日詰めていない日はないが、この私が知らない人が、その邸にいるわけがないよ、きっと邸の名前がちがっているのだろう」
貧乏神物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
『はい。一枚もないはずなんでございます。殊にこのお写真はどうしてもこのお邸にあるわけがないのでございます。まさかお写真がひとりで歩いて参ったんでもございますまいに——』
蛇性の執念 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
「君よりも僕の方が愉快だ。そのわけがあるんだ」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「では、聴かせい。どうして拙者の身が、そなたの眼には、すぐ敵に斬られそうなと、そんなもろい未熟なたいに見えるのか。——そのわけを」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「その方は、今、山うばに逢ったな、そのために生命があぶない、どうした、わけを云え」
山姑の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「お前はどういうわけで、松波博士の令息を殺害する気になったんだ?」
美人鷹匠 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
お通の体があれから急にくなっているというわけはないから、お通がここまで歩いて来たのは、よくよく悲壮な覚悟でなければなるまい。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ああ、そう云やあ、葛西の大旦那は、裏のやぶの中で、わけの判らない死方しにかたをしてたよ」
赤い花 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
春日新九郎? ……聞いたこともない奴。そのわけはそこにある。何でうぬこそ俺の門人、また俺に縁故の深いざる組の金井一角を
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうとも、それで皆判ったろう、これだけわけを話したから、もう歎いてくれるな」
母親に憑る霊 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「でも、おかしいではございませんか、なにかわけがあるのでしょう。隠さないで、はなして下さい。私にいえないことですか」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その仲間と云うのは、洋画家で可成かなり天才があり、絵の評判も好く、容貌も悪い方ではなかったが、どうしても細君さいくんになる女が見つからなかった。その見つからないにはすこしわけがあった。
青い紐 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「そうですよ。光明寺から宅へ謝りに来ましてな。——何かと、わけを聞けば、わしが寄進した大香炉を割ってしもうたとか」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、みると呉の家の小さなげなんが汗を流し息を切らして走ってきた。皆が驚いてそのわけを聞いた。それは呉郎の家もまた同じ日に劫に遇うて、一門の者が倶にたおれたという知らせであった。
嬌娜 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
俥夫しゃふは、茶屋からいいつけられたままで、深いわけは知らないので、彼女に毛布をかけてやるとすぐにかじを上げて走り出した。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(ありゃ、桐島の書生の鬼火ひとだまだ、乗手の判らない自動車にかれて死んだと云うことになってるが、何か込み入ったわけがあるかも判らない、それでなくて、鬼火ひとだまになって出て来るものかね)
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そこには、いろいろなわけがあるが、主なる理由は、天鬼様をあやめた下手人がないことだ。これにはわしも弱ってしもうた
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なに、この薬を飲ますなら、わけはありません、どれ一つやりましょうかね」
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そこで家の子飼からの船頭に、お金をたくさんやって、そのお侍を船底に隠し、斧四郎旦那とお喜代さんを、千鳥聴きに誘い出したというわけですよ
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わけを聞いてみると、三つの時に兇漢きょうかんに刺されて傷があるからだといった。
怪譚小説の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
と、なってしまって、かなり根気よく機をはかっていたが、一昨夜のような失敗に帰してしまったわけだというのであった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほっとして傍へ往くと、蕎麦屋の爺仁おやじわけを聞くので、のっぺら坊の妖怪に逢った事を話すと、爺仁は顔をつるりとでて、こんな顔であったかといった。それも目も鼻もないのっぺら坊であった。
怪譚小説の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それくらいなことは、あの男にはある筈のわけがあるのだ。おぬしらも、ヘタをすれば、首の座に並ぶところじゃったよ。……まあよい、大きななりを
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と云って、それから二人が其処へ来たわけを話した。
円朝の牡丹灯籠 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「いいにくいけれど、娘が出されたわけも、何だか、林助さんの事になるらしい。けれど、おやしきでも、一切、事情を仰っしゃって下さらないし……」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「聞いたと云うわけでもないが、釜礁の事じゃろう」
海神に祈る (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「だれが、嘘を。——何も、死んでゆく俺の身は、三途さんずの渡し賃さえあれやいいわけだが、天下の御通宝を、腐らしちまうなあ、余り、勿体ねえからの」
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「よし。手下にしてやってもいい。——だが、それはわれあかしを立ててからだぞ。さあ、前に云ったことのわけをいえ」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)