洒落しゃ)” の例文
中の口から廊下へ上ると、富田弥六といっしょになったから、「おい、おまえの名前はとんだやろうとも読めるが、洒落しゃれてるなあ」
評釈勘忍記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
が、大井は黒木綿の紋附のたもとから、『城』同人のマアクのある、洒落しゃれた切符を二枚出すと、それをまるで花札はなふだのように持って見せて
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いかにも小説の主人公らしい洒落しゃれていて敏感で親切で、うっかりすると毒婦などには、思い込まれそうな岡っ引なのであった。
半七雑感 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
(○註に、けわいざか——実は吉原——近所だけか、おかしなことばが、うつッていたまう、)と洒落しゃれつつ敬意を表した
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
奥多摩生れの女の言葉が、「日影者になつてしまひましたわねえ」なんぞは、なかなか洒落しゃれている。時代論のほかに、なおそこに興味を感ずる。
中里介山の『大菩薩峠』 (新字新仮名) / 三田村鳶魚(著)
下手へたであるのを洒落しゃれた書き方で紛らしてある字の品の悪いものだった。の前にいた夜の顔も連想れんそうされるのである。
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
しかし私の場合は、そういう趣味が枯れて来たなどという洒落しゃれた話ではなく、もっと現実な理由があるのである。
南画を描く話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「や政夫さん。コンチャどうも結構なお天気ですな。今日は御夫婦で棉採りかな。洒落しゃれてますね。アハハハハハ」
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
帰途かえりに電車の中でも、勢いその事ばかりが考えられたが、此度のお宮に就いては、悪戯いたずらじゃない嫉妬やきもちだ。洒落しゃれた唯の悪戯は長田のしそうなことではない。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
柳橋あたりの洒落しゃれたある家のことをよく口にしたものであったが、今度も多分その辺だろうかとも思われた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
石川二右衛門——その名も洒落しゃれている。為替を組むためには、名が必要なので、偽名を使ったのであろうが、五右衛門から三右衛門少いところが面白い。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「坊やちゃん、元禄が濡れるから御よしなさい、ね」と姉が洒落しゃれた事を云う。そのくせこの姉はついこの間まで元禄と双六すごろくとを間違えていた物識ものしりである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
英夫の家へ行く、路地の曲り角に、低い石の透垣すかしがきをまわした、洒落しゃれた家がある。——二、三年前まで、英夫の同級生の、祥子しょうこたち一家の住んでいた家だった。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
時とすると、洒落しゃれた気持になって、冬は焼栗やきぐりや夏は一つかみの桜実などを、レーネットへもって来た。
洒落しゃれたお弁当が食べられ、なにがしかずつ心付けの銭さえ貰えるこの手伝いの役は彼をよろこばした。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ところがチェーホフの場合はまるで違う。彼は嘘をつきたいなどという洒落しゃれた情熱には一度だって襲われたことはあるまいし、間違っても嘘だけはつけぬ男であった。
この機会にお梅を連れて、伊豆の熱海の温泉へ、湯治と洒落しゃれ込むことに了簡をきめたのです。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
早坂勇は外套を引っかけると、洒落しゃれた鳥打帽を、頭の上の釘から取りました。
笑う悪魔 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
とあるネクタイ屋のショオウィンドに洒落しゃれたネクタイが飾ってあるので近づいて行って、覗こうとしたら、何処からか犬が私たちにえついた。あたりを見廻しても、犬なんかいないのだ。
旅の絵 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
母屋へは「く」の字なりに中途で一つ曲っている長い長い渡り廊下でつながっており、此処だけは多少数寄屋風すきやふうを取り入れた、洒落しゃれた作りになっていたけれども、決して悪く華奢きゃしゃにはならず
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
マーキュ (笑って)なんと、かう洒落しゃれのめしてゐるはうが、れたの、れたのと呻吟うめいてゐるよりはましであらうが? 今日けふこそは、つッともう人好ひとずきのする立派りっぱなロミオぢゃ、今日けふこそは正面しゃうめん
小さな洒落しゃれた荷札がついているのであった。
三の字旅行会 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
「あるいは百尺竿頭一歩ひゃくせきかんとういっぽを進めて、同じく屁を垂れるから、君も彼等と甲乙のない天才だと号するのも洒落しゃれているぜ。」
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
洋燈ランプ台下暗しで、(とおおい洒落しゃれて、)さっぱり気が付かなかった。君ンとこへもちょいちょい遊びに来るんだろう。」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
魚金は一ぜんめしと居酒を兼ねた繩のれんであるが、造作もちょっと気取っているし、いつも掃除がゆき届いていて、さっぱりとした洒落しゃれた感じの店であった。
秋の駕籠 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そのあたりは、そんな種類の女の住んでいる祇園町に近いところで、三条の木屋町でなければ下河原しもがわらといわれて、祇園町の女の出場所になっている洒落しゃれた土地であった。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
しかし頭髪が出来あがった葉子が、いつまで待っていても上がって来ないので、降りて行ってみると、彼は椅子いすのうえにりかえって、マニキュアと洒落しゃれているのだった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
此処で申し上げて置きますが、この時の私の服装は、背広などという洒落しゃれたもので無く、苦力クリーの服装をしていたことで、そうして鳥打をまぶかに冠り、顔をかくすようにしていました。
ぴん助なんかな事を云ったらこの馬鹿野郎とすましておれば仔細しさいなかろう。何でも昔しの坊主は人にり付けられた時電光影裏でんこうえいり春風しゅんぷうを斬るとか、何とか洒落しゃれた事を云ったと云う話だぜ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ウフフ、新婚旅行なんて、そんな洒落しゃれたもん、あたしたちのような貧乏人の働人はたらきどがする柄じゃないですよ。あれは、金持のするもんやわ。それに、もう、三年も経って、子供まで出来るというのに、新婚でも、ありゃせん」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「うん、風呂敷包みを抱えている女さ。あいつはこの夏は軽井沢にいたよ。ちょっと洒落しゃれた洋装などをしてね」
歯車 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
表側は二階造りで、裏には五つばかり座敷のある平屋が付いていた。もとは料理茶屋でもしていたのだろう、中庭もかなり広く、洒落しゃれた配置の樹石のあいだに腰掛なども見えた。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
此店ここで草履を見着けたから入ったが、小児こどものうち覚えた、こんな店で売っている竹の皮、わらの草履などは一足もない。極く雑なのでも裏つきで、鼻緒が流行のいちまつと洒落しゃれている。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
六畳の座敷は南向みなみむきで、拭き込んだ椽側えんがわはじ神代杉じんだいすぎ手拭懸てぬぐいかけが置いてある。軒下のきしたから丸い手水桶ちょうずおけを鉄のくさりで釣るしたのは洒落しゃれているが、その下に一叢ひとむら木賊とくさをあしらった所が一段のおもむきを添える。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
のみならず彼の洒落しゃれるよりもむしろ己惚うぬぼれるのを愛していたことは、——少くともその経済的意味を重んじていたことは事実である。しかし本を読まなければならぬ。
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
皀莢小路の洒落しゃれた家を一軒買い、我が世の春とばかりにおさまっている。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
就いては場所——場所は麻布あざぶ——狸穴まみあなではなく——二の橋あたり、十番に近い洒落しゃれた処ゆえ、お取次をする前に、様子を見ようと、この不精ものが、一度その辺へ出向いた、とお思い下さい。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
寮のような造りの洒落しゃれた家で、老人夫婦だけしかいなかった。つなはその家で不安な一夜を明かした。彼女にはこれからどうなるのか、まるで五里霧中だったし、老人夫婦もなにも云わなかった。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
和尚さんも、貧地の癖に「木魚」などと洒落しゃれている。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ふん、土匪も洒落しゃれたもんだね。」
湖南の扇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と尼刀自が洒落しゃれた。が、この洒落はにくくない。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「——うん、洒落しゃれていますね」
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「やあ、洒落しゃれてるなあ。」
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)