沓掛くつかけ)” の例文
ある夏、信州の沓掛くつかけの温泉で、先生がいたずらに私の子供にお湯をぶっかけられた所、子供が泣き出した。先生は悲し相な顔をして
作家の像 (新字新仮名) / 太宰治(著)
沓掛くつかけ駅の野天のプラットフォームに下りたった時の心持は、一駅前の軽井沢とは全く別である。物々しさの代りに心安さがある。
浅間山麓より (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
桂から沓掛くつかけ、老ノ坂隧道トンネル——丹波篠村しのむら——千代川、薗部そのべ、観音峠——須知町、山家、綾部——そして舞鶴線に沿って、梅迫うめさこ、上杉
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
追分、沓掛くつかけ、輕井澤あたりの南に面したあたりもいゝが本統に高原らしい荒涼さを持つてゐるのはその裏山にあたる上州路の六里が原である。
須走すばしりは鎌倉街道ではあるが、山の坊という感じで、浅間あさま山麓の沓掛くつかけ追分おいわけのような、街道筋の宿駅とは違ったところがある。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
追分の宿はもとより、軽井沢かるいざわ沓掛くつかけから岩村田へかけて、軍用金を献じた地方の有志は皆、付近の藩からのきびしい詰問を受けるようになった。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
街道を一方へ辿って行けば、俚謡うたに詠まれている関所があり、更に一方へ辿って行けば、沓掛くつかけの古風のうまやじがあった。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
普通の中仙道は松井田から坂本さかもと軽井沢かるいざわ沓掛くつかけ宿々しゅくじゅくを経て追分おいわけにかかるのが順路ですが、そのあいだには横川よこかわの番所があり、碓氷うすいの関所があるので
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
軽井沢の別荘から沓掛くつかけの別荘まで夏草を馬の足掻あがきにふみしかせ、山の初秋の風に吹かれて、彼女が颯爽さっそうむちをふっていたとき、みな灰になってしまった。
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
輕井澤から中山道を自動車で沓掛くつかけ古宿ふるじゆく借宿かりやど、それから追分おひわけと、私の滯在してゐる村まで歸つてきたが
高原にて (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
信濃東筑摩郡東川手村に字矢トコがある。矢掛という地名も諸国にある。掛は掛神かけがみの義で沓掛くつかけと同じく、路傍の木または石に矢を掛けて神を祭ったのであろう。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
映画は、むかしなつかしい大河内伝次郎主演、辻吉朗監督『沓掛くつかけ時次郎』でありました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
乗合バスは満員だつた。軽井沢から沓掛くつかけの駅へ出ると、道はぐんぐん登りになる。
落葉日記 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
あの信州の追分は今ではびれ果ててしまいましたが、昔は中仙道と北国ほっこく筋との追分でしてね。沓掛くつかけや軽井沢と並んで浅間三宿といったのだそうです。大名行列で随分盛んだったでしょう。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
いづればまた曠野ひろのにて燒石やけいし昔し噴出せしまゝなり開墾せんにも二三尺までは灰の如き土にて何も作りがたしとぞ此所こゝは輕井澤より沓掛くつかけ追分小田井の三宿の間なり四里程なれば忽ち小田井に着きて滊車を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
大高、沓掛くつかけ等をも占領した。信長は今度は笠寺を攻めて見たが豊政驍勇ぎょうゆうにして落城しそうもない。そこで信長は考えた末、森可成よしなりを商人に化けさせて駿河に潜入させ、義元に豊政のことを讒言ざんげんさせた。
桶狭間合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
軽井沢から沓掛くつかけまで一里五町、沓掛から追分まで一里三町。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
沓掛くつかけの時次郎 磯目いそめの鎌吉
沓掛時次郎 三幕十場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
四月十五日 沓掛くつかけ千ヶ滝。
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
帰りに沓掛くつかけの駅でおりて星野ほしの行きの乗合バスの発車を待っている間に乗り組んだ商人が運転手を相手に先刻トラックで老婆がひかれたのを
あひると猿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
なぜならば中国道には、老坂おいのさかの分れに限らず、この沓掛くつかけからも、右折すれば、大原野を経て山崎、高槻たかつきへ出ることはできるからであった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「直樹さんと来た時は沓掛くつかけから歩きましたが、途中であぶに付かれて困りましたッけ」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
今日では小石を石の鳥居とりいの上に乗せて見ようとし、または沓掛くつかけといって、馬のくつ古草鞋ふるわらじを投げあげるようにもなっており、子どもや若い者のなぐさみくらいにしか考えられておるまいが
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
武術の修行というのではなく、例によっての風来坊、漫然と旅をしたまでだが沓掛くつかけの宿で一夜泊まった。明月の夜であったので、わしは宿やどを出て宿しゅくを歩き、つい宿外れまでさまよって行った。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
信越線の沓掛くつかけ駅からせんたき行というバスが出ている。
光は影を (新字新仮名) / 岸田国士(著)
石本松沢山口三氏はその日二時十五分沓掛くつかけ発の列車で帰京し坪井氏は三時五十三分で立ち、自分だけ星野温泉に居残った。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
この辺は、西浅井の沓掛くつかけ、集福寺、柳ヶ瀬など、山また山へ続く間道だ。しかも柴田軍の主陣地をなす行市山ぎょういちやまから中尾山の警備区域内でもある。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
斯の骨の折れる山道を越して、やつとのことで峠の下まで歩いて行きますと、澤深い温泉宿のやうな家々の灯が私の眼に嬉しく映りました。そこが中仙道の沓掛くつかけであつたかと覺えて居ます。
山丈・山姥の鞋という話は、我々の持っていた沓掛くつかけの習俗、すなわち浅草仁王門の格子こうしの木にむやみな大わらんじの片足をぶらさげた行為などと比較して考えて見るべきものかと思う。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
沓掛くつかけから大高へ真ッ直に前進と、敵には思わせて、わざと道をかえ、桶狭間からこの間道へと迂回うかいなされたが、晩までには、そこへ御到着の予定。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
信州しんしゅう沓掛くつかけ駅近くの星野温泉ほしのおんせんに七月中旬から下旬へかけて滞在していた間に毎日うるさいほどほととぎすの声を聞いた。
疑問と空想 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
沓掛くつかけまできましたら、やうやくそのへんから中仙道なかせんだうかよ乘合馬車のりあひばしやがありました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
筆捨ふですて沓掛くつかけなどの山坂へかけて四つの休み茶屋があるところから、この辺を総称して、地名的にそう呼ぶのである。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
去年の夏信州しんしゅう沓掛くつかけ駅に近い湯川ゆかわの上流に沿うた谷あいの星野温泉ほしのおんせんに前後二回合わせて二週間ばかりを全く日常生活のわずらいから免れて閑静に暮らしたのが
あひると猿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その燈火あかりのついてるところが、沓掛くつかけ温泉宿をんせんやどでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
十時過ぎの汽車で帰京しようとして沓掛くつかけ駅で待ち合わせていたら、今浅間からおりて来たらしい学生をつかまえて駅員が爆発当時の模様を聞き取っていた。
小爆発二件 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「駿河の大軍は、碧海郡あおみごおり宇頭うがしら、今村を経て、夕刻早くも、沓掛くつかけに押し迫って来る様子とござりますが」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
六八 沓掛くつかけ温泉宿をんせんやど
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
七月十七日朝上野発の「高原列車」で沓掛くつかけに行った。今年で三年目である。駅へ子供達が迎いに来ていた。
高原 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
侍側の家臣たちも、気にしてはいたが、わざとそのゆえを問わなかった。今朝、沓掛くつかけの城を出て発向はっこうする折、義元は、どうしたのか駒の背から振り落されて落馬した。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なるほど、星野でも千が滝でも沓掛くつかけでも軽井沢でもまだ一匹も猫の姿を見ない。それが東京のうちの付近だと、一町も歩くうちにきっと一匹ぐらいは見つかるような気がする。
軽井沢 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ここはまだ山腹の沓掛くつかけの部落である。僅か十数戸の山樵やまがつや炭焼の小屋があるにすぎない。にもかかわらず、中軍の警戒は甚だきびしく、ふもとの方にも、過ぎて来た道の方にも忽ち哨戒隊しょうかいたいが配置された。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、その少し前にこの夏泊った沓掛くつかけの温泉宿の池に居る家鴨あひるが大きな芋虫を丸呑みにしたことを想い出していた。それ以外にはどうしてもそれらしい聯想の鎖も見付からないのである。
KからQまで (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
左に降りれば、沓掛くつかけ桂川かつらがわをこえて、道はそのまま京へ入る。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしやはり前日家人と沓掛くつかけ行きの準備について話をしたとき、今度行ったらグリーンホテルで泊まってそこでたまっている仕事を片付けようと思う、というようなことも言った覚えがある。
三斜晶系 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
二度目に沓掛くつかけへ来たのが八月十三日である。
沓掛より (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)