気象きしょう)” の例文
旧字:氣象
交際下手な夫を持った妻は、相手の人が夫の気象きしょうみ込むまで、妻自身がまめまめしく客にかしずき、その場の調和をたもつこと。
良人教育十四種 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
お前は活溌な生れ付きで、気象きしょうもしっかりしているから、きっと、あらゆる艱難辛苦かんなんしんくに堪えて、身分を隠しおおせるだろうと思う。
死後の恋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
政吉 おなかさん、お前そんなにムキになる処まで、死んだおさんの気象きしょうの通りだ。ええい、文太、間誤つかねえで早く縛れ。
中山七里 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
主人の日頃の気象きしょうを知り抜いて居る上、溺愛されるお鳥に対して、おおうことの出来ない反感が、用人から端女はしたの末まで行亘いきわたって居る為でした。
裸身の女仙 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
丑五郎は馬に食いつかれながらも馬の腿の肉をみ取ったという気象きしょうり、この故に馬食うまくらいという綽名あだながついていました。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
諏訪因幡守いなばのかみ忠頼の嫡子、頼正君は二十一歳、冒険敢為かんい気象きしょうを持った前途有望の公達きんだちであったが、皆紅の扇を持ち、今船首へさきに突っ立っている。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
六月朔日ついたち以降、二日も三日も、京都及び近畿地方はほとんど晴天で、照りつける暑さだったが、中国地方の気象きしょうは、概して晴曇せいどん半ばしていた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
当時、中村さんは新進な画家で、独立の気象きしょうに富んだ美術家でしたが、さすがに大成するくらいの人は若い時からちがったところがありました。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
気象きしょうによっては、こんな男と言葉を交すのでさえも見識けんしきにさわるように思うのであるに、この女は、それと冗談口じょうだんぐちをさえ利き合って平気でいます。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
平生僕がのあたりに見ているあの柔和にゅうわな母が、どうしてこう真面目まじめになれるだろうと驚ろくくらい、厳粛な気象きしょうで僕を打ちえる事さえあった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なまじお辰と婚姻を勧めなかったらかくも、我口わがくちから事仕出しいだした上はわが分別で結局つまりつけねば吉兵衛も男ならずと工夫したるはめでたき気象きしょうぞかし。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ややもすると世の中ではほとんど目的もなく騒ぎ散らすをもって、熱心があるとか、気象きしょうがさかんだとか、あるいは勇敢ゆうかんだとか、痛快つうかいだなどと称する。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
構いませんわ、あの人は気象きしょうしっかりした人ですから、きっとそれ相当な働きをしますわ。
セメント樽の中の手紙 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
奮発するさ奮発を、これさこれ藻西さんお前も男じゃ無いか、わししお前なら決して其様にしおれては居無いよ、男の気象きしょうを見せるのは此様な時だろう、何でお前は奮発せぬ
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
今年こそきっといいのだ。あんなひどい旱魃かんばつが二年つづいたことさえいままでの気象きしょう統計とうけいにはなかったというくらいだもの、どんな偶然ぐうぜんあつまったって今年まで続くなんてことはないはずだ。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
なぜなら、どんな高いところへあがっても平気なほどしっかりした気象きしょうでしたから、一番つよかったのですし、またちゃんとみちをこしらえておくほど用心深ようじんぶかかったから、一番かしこいのでした。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
何しろ人間一生のうちで数えるほどしかない僅少きんしょうの場合に道義の情火がパッと燃焼した刹那せつなとらえて、その熱烈純厚の気象きしょうを前後に長く引き延ばして
文芸と道徳 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
細君の選択には往々おうおうにして媒介者ばいかいしゃの言に一任し、しかして結婚の式を挙げたのち、始めて両者の気象きしょうの合わぬことを発見し、離婚する場合がはなはだ多い。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
しかし、米友の気象きしょうとして、一時は力を落しても、そのまま引込んでいることはできないのであります。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「正式に申込んで見て、しそのお母さんが町人の息子に娘はやれないと仰有るようなら、お父さんの気象きしょうですもの、お前が何と言って騒いでも、もう駄目ですよ」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
妹のおとよは一つ違いの十八歳、姉に優る美しさと、辰巳たつみっ子らしい気象きしょうを謳われましたが、役人の目をはばかって、寄り付く親類縁者も無いのに業を煮やし、柳橋から芸者になって出て
礫心中 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
そんなあだ名を取るくらいの人ですから、後には東京に出て暮らすようになりましてからも、養子を助けてよく働いたけなげな気象きしょうの婦人でありました。この人が吉村よしむらのおばあさんです。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そうしてその悪魔みたいな頭のよさと、牡牛のような辛棒強さとで、妾の気象きしょうを隅から隅まで研究しながら、妾の心を捉える機会を、毎日毎日、一心にねらい澄ましていたにちがいない。
ココナットの実 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
気象きしょうも夏、気温も夏、夏はすっかり本格になった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「もっとも崇高なる天地間の活力現象に対して、雄大の気象きしょうを養って、齷齪あくそくたる塵事じんじを超越するんだ」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かく理想の減じゆきて実際的になるのをもってただちにこれを着実と呼び賞賛する者もあるが、わが輩から言わせるとこれは俗化して若き気象きしょうがなくなるのである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
お君はこの米友を忘れてしまったのか、あんな仲間へ入っているうちに気象きしょうが変って、俺らのことなんぞはどうでもいいことにしてしまったんじゃあるまいか、どうもおかしい。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
気象きしょうっ張りだから、君は余っ程しっかりしなければ駄目だろう」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「こんな一筆ひとふでがきでは、いけません。もっと私の気象きしょうの出るように、丁寧にかいて下さい」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
実際の腕は文之丞がとうてい竜之助の敵でないことを玄人くろうとのなかの評判に聞いて、お浜の気象きしょうでは納まり切れずにいたところを、このたび御岳山上の試合の組合せとなってみると
この姉小路という人は、体質は弱い人であったけれども、十九ぐらいの時に夜中やちゅう忍び歩いて、関白以下の無気力の公卿を殺そうという計画を立てたほどの気象きしょうの荒っぽい人であった。
気味が悪いとは思ったが、何しろ自由行動のとれる身体ではなし、精神は無論独立の気象きしょうそなえていないんだから、いかに先輩だって逃げていい時分には、逃げてくれるだろうと安心して
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかしながら自分にやましいことはない——今は弁解しても駄目であるが、おのずから事情のわかる時がある、事情がわかれば勇の気象きしょうはカラリと晴れる。そのことをよく呑み込んでいるので
従来の徳育法及び現今とても教育上では好んで義務を果す敢為邁往かんいまいおう気象きしょうを奨励するようですがこれは道徳上の話で道徳上しかなくてはならぬもしくはしかする方が社会の幸福だと云うまでで
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「わしらのかく画はそれで沢山じゃ。気象きしょうさえあらわれておれば……」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夫にこう仕向けられて今更お浜が口惜しがるわけはないはずです、文之丞がもしも一倍かぬ気象きしょうであったなら、お浜の首を打ち落して竜之助の家に切り込むほどの騒ぎも起し兼ねまじきものをです。
純粋な気象きしょうを受けて生れた彼女の性情からも出るので、そこになるとまた僕ほど彼女を知り抜いているものはないのだが、単にそれだけでああ男女なんにょ牆壁しょうへきが取りけられる訳のものではあるまい。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
どうして、先生の気象きしょうでじっとしていられるものではありません。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
土方歳三もかねて島田のうわさは聞いていたが、これほどの人とは思わなかった。しかしこうなっても、持って生れた気象きしょうは屈することなく、かさず斬り込んで来た度胸どきょうには島田虎之助も感心しました。