森蔭もりかげ)” の例文
稲が深々と実って、稍々やや低地に建てられた農家をおおうばかりである。それが鬱蒼うっそうたる森蔭もりかげにまでつづいた豊かなしかも寥々りょうりょうたる風景を私は好む。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
私達は諏訪神社の森蔭もりかげで休息した上、諏訪池から帰ったが、その夕べ今度は千々岩ちぢわ灘の入日いりひを見るべく絹笠山にのぼった。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
肉体にくたい通例つうれい附近ふきん森蔭もりかげ神社やしろ床下ゆかしたなどにかくき、ただいたたましいのみを遠方えんぽうすものでござる。
懇談こんだんくださる場所は、いちおう本館の各室をそれぞれ割り当てておきましたが、天気もこんなにいいことでありますし、森蔭もりかげや草っ原をご利用くださるのも一興いっきょうかと思います。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
大阪兵燹へいせん余焔よえんが城内の篝火かがりびと共にやみてらし、番場ばんばの原には避難した病人産婦の呻吟しんぎんを聞く二月十九日の夜、平野郷ひらのがうのとある森蔭もりかげからだを寄せ合つて寒さをしのいでゐる四人があつた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
大蛇だいじゃかごに入れてになう者と、馬にまたがりて行く曲馬芝居の座頭ざがしらとを先に立てて、さまざまの動物と異形の人類が、絡繹らくえきとして森蔭もりかげに列を成せるそのさまは、げに百鬼夜行一幅の活図かっとなり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
幼児をさなごだまつて、あたしをつめてくれた。この森蔭もりかげはづれまであたしは一緒いつしよつてやつた。此児このこふるへもしずにあるいてく。つひにそのあかかみが、とほひかりえるまで見送みおくつた。
小暗こぐら森蔭もりかげに連れ込まれて、あわや狼藉ろうぜきというところへ飛び出したのが僕だった。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あるいた道程みちのりは一あまりでございましょうか、やがて一つの奥深おくふか入江いりえ𢌞まわり、二つ三つ松原まつばらをくぐりますと、そこは欝葱うっそうたる森蔭もりかげじんまりとせる別天地べってんち
男の児たち やあ、ころぶない。弱虫やい。——(かくて森蔭もりかげにかくれ去る。)
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
また小泉のあたりを過ぎるとき、はるかな丘陵のふもと森蔭もりかげに法起寺と法輪寺の三重塔がくすんでみえ、やがて法隆寺の五重塔が鮮かな威容をもって立ちあらわれる状景には、いつも心を躍らされる。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
彼所あそこなんぶか……つまり籠城中ろうじょうちゅうにそなたがかくれていた海岸かいがん森蔭もりかげじゃ。いまでも里人達さとびとたちは、とおむかしことをよく記憶おぼえていて、わざとあの地点ところえらぶことにいたしたらしい……。