木乃伊みいら)” の例文
斯う見ては竜次郎、如何どうしても見殺しには出来なかった。併し木乃伊みいら取りが木乃伊に成るという事を考えずにはいられなかった。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
古甲冑こかっちゅう土偶どぐう木乃伊みいら、弓、矢の根、古い錦襴、銅板、鉄牌てっぱい古瓦こが、化石というような物が、整然と分類されて置かれてあった。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
で、何処どこでも、あの、珊瑚さんご木乃伊みいらにしたような、ごんごんごまは見当らなかった。——ないものねだりで、なおほしい、歩行あるくうちに汗を流した。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
血をしぼってなしあげた穏密覚え書の一帖も、江戸の大府だいふへ送り届ける頼りはなし、このまま木乃伊みいらとなる肋骨あばらぼねに、抱いてゆくより道はないのである。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鷲鼻で、口を一文字に結んで、猫のような眼をして、薄気味の悪い微笑を浮かべて、木乃伊みいらのような顔色をしている、痩形の小男を想像してごらんなさい。
木乃伊みいらとか、とにかくそんなような、そしてまったく感応性なんてもののない……そうだ、つまり亡者もうじゃだね
遁走 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
死んでゐる波、手足の硬直してゐる波、波の木乃伊みいら、川岸の竝木は僕たちよりもずつと大きな影を持つてゐる。僕たちの影はときどきその中にはひつて消される。
眠れる人 (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
不気味と云へば倫敦ロンドンの博物館の数室で見た埃及エヂプト木乃伊みいらの幾十体の方が何程どれほど不気味であつたか知れない。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
この媼は初め微笑ほゝゑみつゝ我を見しが、俄に色を正して、我面を打ちまもりたるさま、傍なる木に寄せ掛けたる木乃伊みいらにはあらずや、と疑はる。暫しありていふやう。
これは徹底的に小田原北条氏を討滅することが、直ちに関東奥羽全体の処分を定むる所以であることを述べたのである。我が古い俗諺ぞくげんに、「木乃伊みいらりが木乃伊になる」
国号の由来 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
行儀よく五体が、湯槽の中に蔵められたところは、そぞろに古代埃及エジプト木乃伊みいらを思い起させる。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
ここに言うノウトルダムの妖怪がそれである。木乃伊みいら取りが木乃伊みいらになるように、この妖怪に取りかれた彼らは、いつの間にかその妖怪の一つに化し去ってしまうのだ。
と誰かいうと、このお旗本は、杯口ちょくを下のぜんの上において、痩身そうしんの男が、猫のように丸めた背中をくねらし、木乃伊みいらみたいに黒い長い顔から、つまみよせた小さな眼を光らせて
そんなからびた木乃伊みいらみたいな了簡だから、せがれが云う事を聴かないでうちを飛出すのだぞ
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あの祖父じじいに、あの摂政時代と執政内閣時代との木乃伊みいらに、あの古めかしい洒落者しゃれもの
木乃伊みいらには毛髪の着いているのもあるが、この乞食の頭は、木乃伊とそっくりな上に髪の毛さえも見当らぬのだ。広く見える額には眉毛がなくて、突然目の窪が薄黒い洞穴ほらあなになっていた。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
四千年以上もたつた大昔のエジプトの木乃伊みいらは、リンネルの帯で巻いてある。
やがて、彼女が、駆逐艦に発見された時、船の中には、「これじゃ船が動く道理がない」と、船会社の社長が言った半馬鹿、半狂人の船長と、木乃伊みいらのような労働者と、多くの腐った屍とがあった。
労働者の居ない船 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
しづかに 錆びついた 戀愛鳥の木乃伊みいらであつた。
青猫 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
関野博士と木乃伊みいら7・27(夕)
それは木乃伊みいらの夢であつた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
剣山に行きついて、剣山の土になるのは、いわゆる、木乃伊みいらとりの木乃伊みいらになるのたぐいで、弦之丞がここまでの苦艱くかんも、結果は、無意味なものに帰してしまう。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この錠前だと言うのを一見に及ぶと、片隅に立掛けた奴だが、大蝦蟆おおがまの干物とも、河馬かば木乃伊みいらともたとえようのねえ、しなびて突張つっぱって、兀斑はげまだらの、大古物のでっかい革鞄かばんで。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
エジプト産の人間の木乃伊みいら、薬を入れた大小黄袋きぶくろ、玻璃に載せられた朝鮮人参、オランダ文字の異国の書籍、水盤に入れられた真紅の小魚……もちろんいちいちそれらの物が
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
魔の踏切が汽車をおびやかしたりするはまだしも、大奈翁だいなおうの幽霊がアメロンゲン城の壁を撫でて、老カイゼルに嘆息して聞かせたり、ツタンカーメン王の木乃伊みいら埃及エジプト探検家にたたったりする。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しづかに 錆びついた 戀愛鳥の木乃伊みいらであつた。
定本青猫:01 定本青猫 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
背皮に「木乃伊みいら」と記されていた。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「小宰相どの。男と女というものはまたべつだ。木乃伊みいら取りが木乃伊になるようなことはよもおざるまいな」
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仁王門の柱に、大草鞋おおわらじが——中には立った大人の胸ぐらいなのがある——かさなって、稲束の木乃伊みいらのようにかかっている事は、かれ小児こどもの時に見知ったのも、今もかわりはない。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
言い換えるとそれは埃及に於ける木乃伊みいらの持っている香である。
木乃伊の耳飾 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ふしぎの魚のやうに生きてゐる木乃伊みいらよ。
定本青猫:01 定本青猫 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
土の色は黒から赤に変じましても、石のひつも出て来なければ、ピオの木乃伊みいらもあらわれません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まして、大王だいわうひざがくれに、ばゞ遣手やりて木乃伊みいらごとくひそんで、あまつさへ脇立わきだち正面しやうめんに、赫耀かくえうとして觀世晉くわんぜおんたせたまふ。小兒衆こどもしうも、むすめたちも、こゝろやすくさいしてよからう。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
また、その人体は、人間の化した死蝋しろうでも木乃伊みいらでもありません。生まれながら霊魂も肉体も持たない素焼すやき土偶でくで、きわめて原始的な工法で焼かれた赤土の埴輪はにわであります。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)