のん)” の例文
月々の支払が満足に出来て、月に二三回のんびりした気持で映画を見るとか、旅行するとか、その位の余裕があればそれで十分だつた。
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
彼女の関節ふしぶしが楽々しだした。彼女はいつにないのんびりした気分で、結婚後始めて経験する事のできたこの自由をありがたく味わった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こういうとひどくぶまで品の下ったように思えるが実際はそれとまったく反対で、ひじょうにおおらかでのんびりした感じがあふれていた。
ひやめし物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
のんびり拡がった命宮のところから、一筋に日本人には珍しく、透き徹った鼻の尊大な気象と意思の力。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
摂津せつつの大掾の女房かないのおたか婆さんといふと、名代の口喧くちやかましい女で、弟子達の多くが温柔おとなしい大掾の前では、日向ぼつこの猫のやうにのんびりした気持でゐるが、一度襖の蔭から
骨太なわりには、痩肉そうにくの方である。あぎとのつよい線や、長すぎるほど長い眉毛だの、大きな鼻梁びりょうが、どこかのんびり間のびしているところなど、これは西の顔でもなし、京顔でもない。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お母上のお手紙は、この間はじめてどことなくのんびりした調子でかかれてあったので、よかったと思いました。お話のあった手続のこと、私の分だけはもうすみました。御安心下さい。
で、どうせ、それは、蜘蛛くもの巣だらけでは有ったろうけれど、兎も角も雨露うろしのぐに足る椽の下のこもの上で、うまくはなくとも朝夕二度の汁掛け飯に事欠かず、まず無事にのんびりと育った。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ちぐさはおくてのうえに、のんびりした生れつきで、まだ女らしい気持になっていない。結婚などはもっとさきのことだ、と思っていた。
三十代の夫婦の外に、七つになる女の貰い子があるきり、老人気としよりけのないこの家では、お島は比較的気がのんびりしていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
宗助そうすけおほ方角はうがくいて早足はやあしうつした。今日けふ日曜にちえうも、のんびりした御天氣おてんきも、もうすで御仕舞おしまひだとおもふと、すこ果敢はかないやうまたさみしいやう一種いつしゆ氣分きぶんおこつてた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
何だか籠のような狭隘せせこましい処から、茫々と広い明るい空のような処へ放されて飛んで行くようで、何となく心臓の締るような気もするが、又何処かのんびりと、急に脊丈が延びたような気もする。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
上座の中央を避けて坐った益山税所は、いつもの煮えきらないのんびりした人に似合わずかなり貫禄かんろくのあるおちついた態度をみせていた。
いさましい話 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ちよつと凄味のあるその年増女は芸者といふよりも女郎と言つた方が適当らしかつたが、吉原の花魁などとは気分がちがつて、どこかのんびりしてゐた。
佗しい放浪の旅 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
宗助もの多い方角に向いて早足に歩を移した。今日の日曜も、のんびりした御天気も、もうすでにおしまいだと思うと、少しはかないようなまたさみしいような一種の気分が起って来た。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いつものんびり構えていたし、暇さえあれば隣り近所のかみさんたちを集めて、にぎやかにティー・パーティーをひらいた。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
何か無風帯へでも入つて来たやうなのんびりした故郷の気分が私のしやうに合はないのか、私は故郷へ来ると、いつでも神経がいらつくやうな感じだが、今もいくらかその気味だつた。
町の踊り場 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
いくら明かでも、いくらのんびりしていても、全く実世界の事実となってしまう。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その男は悠くりと、いちど店の前を通り過ぎ、また戻って来て、元のほうへと、のんびり通り過ぎた。月代さかやきがうすく伸び、たくましいあごにも無精髭ぶしょうひげがみえた。
夕靄の中 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
雪乃は五尺二寸ほどあるゆったりした躯つきで、立ち居のおちついた、口のききかたなどものんびりした娘であった。
つばくろ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「その縁談はきまったんじゃねえか」と倉なあこがのんびりと云った、「おらもうきまったように聞いただがね」
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「その縁談はきまったんじゃねえか」と倉なあこがのんびりと云った、「おらもうきまったように聞いただがね」
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「さあね、あのまま伝右衛門の家にいるか、それともまた船を繋いで、独りでのんびり暮しているでしょうな」
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
生垣の手入れをしていたのだろう、片手ではさみの音をさせながら、のんびりした調子で、徳次郎に話しかけた。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あやは五人きょうだいの三番めであり、唯ひとりの女だったから、きびしいしつけとともに、あまやかされて育った明るさと、のんびりした楽天的なところをもっていた。
十八条乙 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「木更津に遠い親類がいるんだよ」政は徳利を振ってみて、残り少ないのを盃に注ぎながら云った、「そこへいって半年か一年、のんびりくらして来てえと思うんだ」
あすなろう (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「二十日の余ものんびり寝たうえ、まだ半月ちかくも寝ていろっていうじゃない、あたしゃものごころがついてこのかた、こんな仕合せなめにあったのは初めてだよ」
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
話しぶりものんびりしていた。怒っているときでも、動作や言葉づかいに変りはなかった。よほど怒ったときでもふくれるだけで、大きな声を出すようなことはなかった。
秋の駕籠 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
枡平を出たとき戸外はれていた。風はないので、合羽かっぱかさをつけた二人は、雪の中をのんびりあるきだした。危なかったなあ、と十太夫が云って、可笑おかしそうに笑った。
饒舌りすぎる (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
印半纏しるしばんてんに足は裸で、頬かぶりをし、両手をうしろ腰に組んだまま、ひどくのんびりと歩いているのである。そこは脛の半ばぐらいまで水があり、男はその水の中で立停って振り返った。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
一発だけするどい射撃音が起こり、それがのんびりとこだまして、消えた。
親子で大洗おおあらいさまへいきました、弁当を持って半日、親子でのんびり海を見て来ましたが、あとにもさきにもあんなに気持の暢びりした、たのしいことはありませんでしたよ、生れてっから今日まで
赤ひげ診療譚:06 鶯ばか (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
祝言しゅうげんをすれば世帯しょたいじみてしまうんだ」と直衛は云った、「家庭の煩瑣はんさなきずなからはなれ、二人だけでのんびり食事のできるのはいまのうちだからな、他人の眼なんか気にするのはばかげた話だよ」
改訂御定法 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「おまえのしたかったことを、かよにさせるがいい、侍の子だなどという考えは捨てて、町人の娘らしく、のんびりと気楽に育てるのだ、私たちにできなかったことを、かよにはさせるようにしよう」
「そんなことはない、あれは側女そばめなどに嫉妬するような、ふたしなみな女ではない、おれは娘時代のあれを知っているが、おうようでのんびりした、とうてい嫉妬などをするような性質ではなかった」
のんびりと山歩きか」とべつの一人が云った、「風雅なことです」
失蝶記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
万三郎はのんびりと云った。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
万三郎はのんびりと云った。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)