旋風つむじ)” の例文
そして、うろたえ騒ぐ刑吏や獄卒をけちらして、一瞬の旋風つむじの如く、盧のからだを奪い去った。肩にかついで逃げ出したものである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
千葉が亡くなつた事は、留学生の仲間には旋風つむじのやうに伝はつて往つたが、肝腎の孔雀女にだけは誰一人知らさうとする者が無かつた。
朴の鍔をつけた竹の刀は、大手の辻々を吹きめぐってきた一陣の旋風つむじに巻きこまれ、「あれよ」という間もなく、虚空高く舞いあがった。
ボニン島物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そしてその風は追々に強く烈しく旋風つむじのように捲きあがって、とうとう無惨な赤沢脳病院の最後へ吹き当ってしまったのだ。
三狂人 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
「好い馬ですよ。わたくしが乗り馴らしました。どんな競馬馬と駈競をさせても好いのです。旋風つむじのやうに走りますよ。」
半纒はんてんを冠つた澤庵石も、それつきりで市が榮えるかと思つた頃、八五郎の『大變』が旋風つむじに乘つて飛んで來たのです。
それを退けると、物質的供給の杜絶がしきりに踊りくるつた。それが影をかくすと、三千代の未来がすさまじく荒れた。かれあたまには不安の旋風つむじが吹き込んだ。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それを取り鎮めようとしていると、俄かに旋風つむじがどっと吹いて来て、あたりは真っ暗、そのあいだに次郎兵衛のすがたが見えなくなってしまったと云うのです。
蒼空あおぞらなかばおおうた黒い鳥、片翼およそ一間余りもあろうと思うわしが、旋風つむじを起して輪になって、ばッと落して、そのうつぎの花に翼を触れたと見ると、あッという人の叫声。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
烈風は櫓楼をしょうのようにうならせ、それが旋風つむじと巻いて吹き下してくると、いったん地面に叩き付けられた雪片が再び舞い上ってきて、たださえほの暗い灯の行手を遮るのだった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
お島は頭脳あたまが一時にかっとして来た。女達の姿の動いているあかるいそこいらに、旋風つむじがおこったような気がした。そしてじっとうつむいていると、体がぞくぞくして来て為方しかたがなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
海岸通りの砂塵を上げ、それに旋風つむじを巻かせ、ごおっと唸って潮騒の音を消した。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
夜風の旋風つむじなし入るおぞや我酒出させ早やとうちころびぬる
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
けれど、その速度にも、楽器の音階のように、じょきゅうがあった。風が加われば急になり、地の雪を捲いて旋風つむじになると、破を起す。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あくる朝、御納戸町へ行って、もう少し詳しく聴くつもりでいると、例のガラッ八が、旋風つむじのように飛込んで来ました。
しかし自身がそのきょくに当れば利害の旋風つむじき込まれて、うつくしき事にも、結構な事にも、目はくらんでしまう。したがってどこに詩があるか自身にはしかねる。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
久太夫の竹光は、雪もよいの低い雲の下で、旋風つむじ風道かざみちにしたがって生き物のように高く低く舞い遊んでいたが、濠を越え、吹上の御苑のあるあたりで、ふっと見えなくなってしまった。
ボニン島物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
一体どうしたのだろう、大地震か旋風つむじかと、みんなが顔を見合わせていると、その隙をみて重兵衛は表へ飛び出しました。表の垣根は倒れてしまったんですから、自由に往来へ出られます。
半七捕物帳:50 正雪の絵馬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
墓原の遲き月夜の石だたみ山茶花ちらし止む旋風つむじあり
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
そこらの角丸太かくまるたかなづち、切れ物などを、手当り次第に持つと、あわや一かたまりの旋風つむじになって、あとを追いかけようとした。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一人が立ち上がると、五六人ゾロゾロいて行く。慾と慾が、家の中へ旋風つむじを巻いているようなもので、あんないやなお通夜は見たこともありませんよ。
だから、今日の会見は、理知の作用から出た安全の策と云うよりも、むしじょう旋風つむじき込まれた冒険の働きであった。其所に平生の代助と異なる点があらわれていた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
墓原の遅き月夜の石だたみ山茶花ちらし止む旋風つむじあり
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
その細道をいま、旋風つむじのような馬けむりが、わき目もふらず駈けて行った。もちろんそんな方向は耕す人のほか往来する道ではなかった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
翌る朝、御納戸町へ行つて、もう少し詳しく聽く積りで居ると、例のガラツ八が、旋風つむじのやうに飛込んで來ました。
だから、今日けふの会見は、理知の作用からた安全の策と云ふよりも、寧ろ情の旋風つむじまれた冒険のはたらきであつた。其所そこに平生の代助と異なる点があらはれてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
と、不意ふいをくったとんぼぐみ小姓こしょうたちは、旋風つむじにまかれたの葉のように、睥睨へいげいする大鷲おおわしはらの下で、こけつ、まろびつ、悲鳴ひめいをあげて
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平次のカンの素晴らしさに圧倒されて、そのまま飛出しましたが、間もなく、旋風つむじのように飛んで帰りました。
其晩は火の様に、熱くて赤い旋風つむじなかに、あたまが永久に回転した。代助は死力を尽して、旋風つむじなかからのが出様でやうと争つた。けれども彼のあたまは毫も彼の命令に応じなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
迷いにとらわれて、一つ所に人馬の旋風つむじを巻いていた。そこへ後ろから馬を飛ばしてきた仲達が、口々にいうたんを聞いて、さてはと悟り顔に
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
八五郎は素直に歸つて行きましたが、それから五六日經つと、『大變』の旋風つむじを起してやつて來ました。
彼の頭には不安の旋風つむじが吹き込んだ。三つのものがともえの如く瞬時の休みなく回転した。その結果として、彼の周囲がことごとく回転しだした。彼は船に乗った人と一般であった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ウム。……旋風つむじでもないな。……ほう、先のひとかたまり、また、あとからの一群ひとむれ。——何だろう、たしかに人数だ」
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
八五郎は素直に帰って行きましたが、それから五六日経つと、「大変」の旋風つむじを起してやって来ました。
その晩は火の様に、熱くて赤い旋風つむじの中に、頭が永久に回転した。代助は死力を尽して、旋風の中から逃れ出ようと争った。けれども彼の頭はごうも彼の命令に応じなかった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
雷横の刀術に、おおとりがいがあれば、赤髪鬼の野太刀にも、羽をつ鷹の響きがあった。赤髪の影が旋風つむじに沈めば、迅雷じんらいの姿が、彼の上を躍ッて跳ぶ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十分、二十分、三十分、やがて小一時間も経つと思う頃、玄関から廊下が急に騒がしくなって、勢よく開いたドアの蔭から、二人の男女が旋風つむじのように飛込んで来ました。
女記者の役割 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
まるで旋風つむじでも立つように、彼はたちまち号令して陣屋を畳ませ、馬具兵糧のととのえもあわただしく、すべてを打ち捨てて本軍のあとを追った。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こんな途方もないことを言ひながら、相變らず旋風つむじのやうに飛んで來たのは八五郎でした。
銭形平次捕物控:239 群盗 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
大勢が旋風つむじになって戦うなかでは、突き合うよりは、なぐり合うのだった。れた槍からも、白い虹が無数に立った。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こんな途方もない事を言いながら、相変らず旋風つむじのように飛んで来たのは八五郎でした。
銭形平次捕物控:239 群盗 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
白い旋風つむじを巻いて「いくさ」がけてくる。——五十年めの大雪だという雪かぜと共に、薩摩さつまと肥後の国境を越えて。
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
八五郎の『大變ツ』が、旋風つむじを起して、明神下の平次の家へ飛び込んで來たのです。
常に、敵国のさぐりに対して、領民はよく訓練されていたので、驚きはしなかったが、逃げまわる山伏を追い争ったために、一時は旋風つむじのようになった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ガラツ八の八五郎が旋風つむじのやうに飛んで來たのは、その翌る日の朝です。
そこで、物凄い音が、二ツに分れて斬り合いながら、旋風つむじのように二階の屋根から戸外おもての方へ飛び降りて行った。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其處へ時折子分の八五郎が、旋風つむじのやうに飛び込んで來るのです。
徒士かちや小者は、勿論、落伍してしまった。騎馬の家臣ばかりが信長の前後を約二十騎ほど包みながら、一陣の旋風つむじが移って行くように、丹下村へはいった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
八五郎が相變らず大變の旋風つむじを起して飛び込んで來たのです。
群衆の残して行った竹の皮や紙屑が、ただ小さい旋風つむじに吹かれていた。権之助は、ゆうべ床几しょうぎを借りて寝た犬茶屋の土間の中を、そっとのぞきながら通った。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)