快楽けらく)” の例文
旧字:快樂
これを北に攻むれば虚に乗じて劉邦が直ちに頭を擡げやうとする……朕は苦しまぎれに暴政を用ひ、酒池の快楽けらくに耽けつてゐるのだ。
悲しき項羽 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
だが、この快楽けらくるには、あの血みどろのレールの上に、呪われたカーヴの上に鋼鉄の列車を操つらなければならなかった。
鉄路 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
歎息の呼吸いき涙の水、動悸どうきの血の音悲鳴の声、それらをすべて人間より取れ、残忍のほか快楽けらくなし、酷烈ならずば汝らく死ね、暴れよ進めよ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
におう涙をたたえては、たえかなでを男にさせ、罪ふかく、魔性でさえある者として、快楽けらくの戯れに抱くことしかしてくれない。
現実の快楽けらくを禁じられた人々の脳裡には、妄想の翼によつて、妄想のみが達しうる特殊な現実が宿ります。その現実を夢とよぶ人もあるのでした。
破戒の罪におののきながらも煩悩の火の燃えさかるまま、終いには毒食わば皿までもと住職の眼を掠めては己が部屋へ引き入れ、女犯にょぼん地獄の恐しい快楽けらく
何分にも奴にむかって芸人の浮気沙汰ざたとして許すが、不義の快楽けらくは厳しくいましめたほどの亀吉、そうした話を聴くと汚ないものに触れたように怒った。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
人間万事あとかたも無きものとこそ思ひ悟りて、腕にまかせ、心に任せて思はぬ快楽けらくを重ね来りしわれなりしか。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
おんあるじ、大いなる御威光ごいこう、大いなる御威勢ごいせいを以て天下あまくだり給い、土埃つちほこりになりたる人々の色身しきしんを、もとの霊魂アニマあわせてよみ返し給い、善人は天上の快楽けらくを受け
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私は家庭にっては、いつも冗談を言っている。それこそ「心には悩みわずらう」事の多いゆえに、「おもてには快楽けらく」をよそわざるを得ない、とでも言おうか。
桜桃 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そして、彼女は人間の情事もまた、軽業と同じ様に、胸をワクワクさせる快楽けらくの一種であることを悟った。
江川蘭子 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
快楽けらくの夢を結んだ床は血の地獄と変る。芹沢は股、腕、腹に数カ所の深傷ふかでを負うたがそれでも屈しなかった。力を極めてとうとう屏風を刎ね返して枕元の刀を抜いて立った。
おんみかぐろい快楽けらくよ、七戒を破る蛮気をいとしさに混ぜ合はさうとて、悔恨に満ちたわたくし死刑執行人は、七本のやいばを研ぎすまし、いと深いおんみの愛をとつてつかとなし
赤い色の着物をた女や、紺地の股引ももひき穿いた男や、白い手拭てぬぐいを被った者が一つのまたたきする蝋燭ろうそく火影ほかげを取り巻いて、その下で博打ばくちをした。また不義の快楽けらくふけったりしたのである。
凍える女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
海軍機関学校に居る頃から、彼は外川先生に私淑ししゅくして基督を信じ、他の進級、出世、肉の快楽けらくにあこがるゝ同窓青年の中にありて、彼は祈祷きとうし、断食だんじきし、読書し、瞑想めいそうする青年であった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
わしは快楽けらくに渇しておるのじゃなくって、悲しみと涙を求めておるのだからな!……やい、亭主、きさまはこの小瓶がわしの楽しみになったと思うかい? わしはこの底に悲しみを求めたのだ
はらみ女の腹をく。鬼女とも悪魔とも譬えようもない極悪ごくあく非道の罪業ざいごうをかさねて、それを日々の快楽けらくとしている。このままに捨て置いたら、万民は野に悲しんで世は暗黒の底に沈むばかりじゃ。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一切の快楽けらくを尽し、一切の苦患くげんに堪へて
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
己を快楽けらくすかすことが君に出来たら
快楽けらくの池に汲んだのだらうか?
限りない狂想と快楽けらくの猟場。
はばたきぬ、快楽けらくのうたは。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
快楽けらくを欲する人間の流す
無題 (新字旧仮名) / 富永太郎(著)
そして今し、彼女の枕なき枕もとには快楽けらくの国がうつつと入れ代りに降りていた。とつぜん、金蓮の飛魂ひこんのすすり泣きは、西門慶を狂猛にさせた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もしわれにして、汝ら沙門の恐るる如き、兇険無道の悪魔ならんか、夫人は必ず汝の前に懺悔こひさんの涙をそそがんより、速に不義の快楽けらくに耽って、堕獄の業因ごういんを成就せん
るしへる (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
神も仏もしまさぬ此世に善悪のけぢめ求むべき様なし。たゞ現世の快楽けらくのみこそ真実ならめ。人の怨み、そしりなぞ、たゞ過ぎ行く風の如く、漂ふ波にかも似たり。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「然し汝よりも数等醜い妖魔共が到る処に王となつて、ほしいまゝ快楽けらくに耽つてゐるではないか。」
闘戦勝仏 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
肌の流しが取り持つ縁で二人はいつしか割りない仲となり、久松留守の札で良人の不在を知らせては、幸七を忍ばせて、おみつは不義の快楽けらくに耽っていたのだったが、昨夜も昨夜とて——。
おもてには快楽けらくをよそい、心には悩みわずらう。
渡り鳥 (新字新仮名) / 太宰治(著)
下界の快楽けらくを飛び越して来たものだ。
接吻くちつけ非命ひめい快楽けらく
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
刹那的な快楽けらくい、そして虚無観にとらわれ、その風潮は、今日の民力を、どんなに弱めているか知れない。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
またおこたり快楽けらくさそうて1600
人のわざわいや苦しみを傍観して、自分の快楽けらくに供する変質人である、そういう者は、盗賊をするとか、横領するとかいう型の如き悪人よりは、もっとたちのわるい
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれは一ぺんに酒気もさまし、宵の快楽けらくも、あとの悩みも、消し飛ばして、夜風の中を、逃げていた。
小我の快楽けらくに過ぎず。家来朋友と程々に楽しむを以つて最なるものとし、独味飽慾どくみはうよくはいやしむべし。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けたる女の身を、放恣ほうし快楽けらくし、女の一生を、ひたすら、自由な性愛の野に遊ばせて、ひとりの恋人や、良人おっとや、乳のみ児の、ありなしなどに、かえりみていない風潮ふうちょうもつよい。
光子てるこの御方はまた、自分の快楽けらくの為に、一念に、新九郎を堕落の淵へ淵へと導く。かれが大望を忘れて、放縦救うべからざる人間になり切るのを、御方はひたすら望んでまぬのである。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高時をも味方にいれて、道誉はねばねばとその悪戯いたずらごころを快楽けらくするように。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
瞑想の快楽けらくも手伝って、風雨のたけびさえ耳から忘れていたのである。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
快楽けらく、娯楽、きりのない人間の慾心。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)