御旗みはた)” の例文
「では残りおしいが、伊那丸いなまるどの、また会う機会もあるであろう。その宝物の御旗みはた、その楯無たてなしよろいが、かがやく日をお待ちするぞ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見れば背後の床ノ間に、日月を金銀で打ちつけたところの、錦の御旗みはたが一流れ尊厳そのもののごとく森然と、霊気を含んで立ててあるではないか。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「今度はもうそんなに、こわい御通行じゃない。なんにも恐ろしいことはないよ。今に——にしき御旗みはたが来るんだよ。」
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
老人は大きな眼をみはりながら叫んだ、「……にしき御旗みはたが、……砲煙の向うに、やりや刀がきらきらと光っている向うの方に、あかい朱い、美しい錦の御旗が見える」
春いくたび (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
さるを骨肉こつにくの愛をわすれ給ひ、八五あまさへ八六一院崩御かみがくれ給ひて、八七もがりの宮に肌膚みはだへもいまだえさせたまはぬに、御旗みはたなびかせ弓末ゆずゑふり立て宝祚みくらゐをあらそひ給ふは
というにしき御旗みはたが、握りしめていた手からすっぽりと引っこ抜かれ、がっちり両手で握っていたものの正体がじつは透明な空白だったことに否応いやおうなく気づかされたぼくは
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
みな白錦しろにしき御旗みはたでございます。つるぎやうなものもいくらもまゐりました。うち御車みくるま曳出ひきだしてまゐりまするを見ますると、みな京都きやうとの人は柏手かしはでを打ちながら涙をこぼしてりました。
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
つまり、それは錦の御旗みはたを描いたもので、大和錦はこの御旗の地模様をつくり、ただ、図面と異なるのは、それに金銀の日月が打ってあるのと、ないのとの差であります。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
大佐たいさいまより二年にねん以前いぜんその一行いつかうともこの海岸かいがん上陸じやうりくしたときに、第一だいいちこのしまを「朝日島あさひじま」とめいじ、永久えいきゆう大日本帝國だいにつぽんていこく領土りようどたること宣言せんげんし、それより以來いらい朝日あさひかゞや御旗みはた
毘廬遮那ビルシャナのり御旗みはたの流れかと
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「さらさら、存じのほかです。一つ御旗みはたの下、まして今、外敵をひかえ、さような違和を内に持ってよいものではございませぬ」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「この儀ならぬとのごじょうにませば、ご紋の御旗みはたいただきたく、さすればこれを証拠の品とし、関東方へ引き渡し、合戦いたせしと申しちんじまする」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
百三十日あまり前に東山道軍の先鋒隊せんぽうたいや総督御本陣なぞがにしき御旗みはたを奉じて動いて行ったのも、その道だ。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
三三あまさへ去年こぞの秋、三四京家の下知として、三五美濃の国郡上ぐじやうぬし三六とう下野守しもつけのかみ常縁つねより三七御旗みはたびて、三八下野の領所しるところにくだり、氏族しぞく三九千葉ちば実胤さねたねとはかりて四〇むるにより
錦の御旗みはたじゃ
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
御旗みはた楯無たてなしの宝物が欲しさに、慾に目がくらんで、わたしのような少女にまんまとだまされた! オホホホホ……やッとお気がつかれましたか」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御旗みはたが我らをお守りくださる。……いや我らが御旗を捧げて、まつろわぬ者どもを折伏しゃっぷくするのだ」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
菊の御紋のついた深紅色のにしき御旗みはたの続くさかんな行列を想像し、惣萌黄そうもえぎ股引ももひきを着けた諸士に取り巻かれながらそれらの御旗を静かに翻し行く力士らの光景を想像した。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
と、くやしそうに忍剣が石櫃を引っくりかえすと、なかからごろごろところがりだしたのは、御旗みはた楯無たてなし宝物ほうもつに、ても似つかぬただの石ころ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かくて、さしも新羅三郎しんらさぶろう以来二十幾世という御旗みはた楯無たてなしの名家も、いつのまにか、二流国に下がってしまった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……身は石屋だし、手には鑿を持っているが、おなじ御旗みはたもとにいる兵士のような気になりましてね。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御旗みはたもとはしる気にもなれず、きょうの戦いにも、平家方の陣におりましたが、深く考えてみると、折角のお旗挙げが、ここで挫折ざせつしたら、腐ったままの世の中が
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして今日、源氏の御旗みはたの下に、こうして、あなた様のお姿を拝し……欣しくて……何か夢のようで
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御旗みはた楯無たてなしも照覧あれ、あすこそは、織田、徳川の二軍をむかえ、一戦に雌雄しゆうを決してみせる」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
菊水きくすい御旗みはたの下で、働かせていただきたい、大義の兵となって、あなたの馬前で死にたいと——ほとんどすべての捕虜が、誓って、小楠公の手についてしまったということだ。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いえ、楠木はさような者ともみえませぬ。思うに、何か仔細があって、御旗みはたの下に、参じかねているのでしょう。——御使みつかいをつかわし給わば、かならずまかるものと存じられます」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お身たちの、案じてくれるはうれしいが、勝頼とて、今日の大事はぞんじておる。——しかも早、今朝、御旗みはた楯無たてなしを拝し、誓ってったものを、いまさら思いとどまることはならぬ」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いやです。私は帰りません。正儀様の御旗みはたの下に踏みとどまります」
日本名婦伝:大楠公夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これより出立いでたちまする。父君の御遺訓、母うえが日常の御庭訓ていきん御旗みはたに生かしてひるがえす日は今です。ふたたび、お膝の許に、正行が身、生きては還りますまい。長いおいつくしみ、死してもわすれませぬ。
日本名婦伝:大楠公夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)