いろどり)” の例文
旦那の智恵によると、鳥に近づくには、季節によって、樹木と同化するのと、また鳥とほぼ服装のいろどりを同じゅうするのが妙術だという。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
色はくすんだ赤黄色のもので、よいいろどりを与えます。この窯でかつて長方形の片口のような擂鉢すりばちを作りましたが、惜しいことに絶えました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
黄、淡緑、薄茶、金茶、青、薄紺など、さまざまのいろどりに芽を吹いた老木が香り合って、真昼の陽光に照り栄えていたのである。
(新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
厚きしとねの積れる雪と真白き上に、乱畳みだれたためる幾重いくへきぬいろどりを争ひつつ、あでなる姿をこころかずよこたはれるを、窓の日のカアテンとほして隠々ほのぼの照したる
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そうすると口では言えないいろいろ淫猥いんわいなことが平気にそれからそれへととっぴにいろどりをつけて想像される。それがまた逆に彼の慾情をあおりたてた。
雪の夜 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
卓子を離れるときに、あたりを見廻すと、どの卓子もすでに客は帰ったあとで、白い真四角のクロースの上にいろどりさまざまのパイが、いぎたなく散らばっていた。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
江戸に正月せし人のはなしに、市中にて見上るばかり松竹をかざりたるもとに、うつくしよそほひたる娘たちいろどりたる羽子板はごいたを持てならび立て羽子をつくさま、いかにも大江戸の春なりとぞ。
(これで何がな、風景にいろどりが生じた)だが、芝艸の睡りはさめるとしもない。
(新字旧仮名) / 高祖保(著)
むしろ彼女こそはいろどりすくない私の少年期に幾分の内容を添えてくれたものとして、できるだけのことはしてやったが、彼女もまさかに彼女の不用意な一言が、かくも私の一生を支配していようとは
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
その川を隔てて向うの岸には奇態な岩壁が重なり立って居りまして、その色合も黄あるいは紅色、誠にさわやかな青色、それから緑色、少しく紫がかった色というようにいろいろないろどりが現われて居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ようやくにして水面へ抜きあげ、手網にとって見た虹鱒、銀青色の横腹に紅殻べにがらを刷いたようないろどり、山の魚は美しい。
雪代山女魚 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
様々な布が交るので、しばしば美しいいろどりを示し、白雪一色の冬の暮しを温めてくれます。陸中ではとりわけこの裂織が盛で、特に七戸しちのへ八戸はちのへ地方に多く見受けます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
江戸に正月せし人のはなしに、市中にて見上るばかり松竹をかざりたるもとに、うつくしよそほひたる娘たちいろどりたる羽子板はごいたを持てならび立て羽子をつくさま、いかにも大江戸の春なりとぞ。
黒縮緬くろちりめんひともん羽織はおり足袋たび跣足はだしをとこ盲縞めくらじま腹掛はらがけ股引もゝひきいろどりある七福神しちふくじん模樣もやうりたる丈長たけなが刺子さしこたり。これは素跣足すはだし入交いりちがひになり、引違ひきちがひ、立交たちかはりて二人ふたりとも傍目わきめらず。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
河原の青い玉石も、松の黒い葉も、杉葉の浅緑も、幾十年のいろどりを、晩春の陽のなかへ漂わせていた。
父の俤 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
その他縞と絣とをよく合せ、「手縞てじま」と呼ぶものが好んで織られました。これらの織物類はいろどりの多い点でまたがらうるわしい点で、染物と競うほどの美しさを示しました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
今昇った坂一畝ひとうねさがた処、後前あとさき草がくれのこみちの上に、波に乗ったような趣して、二人並んだ姿が見える——ひとしく雲のたたずまいか、あらず、その雲には、淡いがいろどりがあって、髪が黒く、おもかげが白い。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
尾の端まで紅殻べにがらを刷いたように薄紅うすべにいろどりが浮かび、美装を誇るかに似て麗艶れいえんとなるのである。
楢の若葉 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
俗に流れたものがあろうか。強き質、確かなる形、静かなるいろどり、美を保障するこれらの性質は、用に堪えんとする性質ではないか。器が用を去る時、美をもまた去ると知らねばならぬ。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
毛氈もうせんの赤い色、毛布けっとの青い色、風呂敷の黄色いの、さみしいばあさんの鼠色まで、フト判然はっきりすごい星の下に、漆のような夜の中に、淡いいろどりして顕れると、商人連あきゅうどれんはワヤワヤと動き出して、牛鍋ぎゅうなべ唐紅とうべに
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
中で吾々を悦ばせたのは両側に刺繍ししゅうのある枕(コールピケ)であった。花や鳥や蝶や様々な図柄を色糸でう。朝鮮ではこんなにいろどりの多い品は少い。あれば色を子供らしく無邪気に配る。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)