彗星すいせい)” の例文
毎夜東の空に当って箒星ほうきぼしが見えた。たれがいい出したか知らないが、これを西郷星と呼んで、先頃のハレー彗星すいせいのような騒ぎであった。
思い出草 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
最高の芸術、芸術たる名に恥ずかしからぬ唯一の芸術は、一時の法則を超越してるものである。それは無限界に投ぜられたる彗星すいせいである。
毎晩のように彗星すいせいが空にあらわれて怪しい光を放つのは、あれは何かの前兆を語るものであろうなどと、人のうわさにろくなことはない。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかし彼を乗せた悍馬かんばはいくたびとなく歩兵を蹴ちらし、槍ぶすまを突破して、見るまに郊外十里の外まで彗星すいせいのように飛び去ッていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして鬼才詩人ランボーは、わずかに三年間ほど文壇に居り、少数の立派な詩を書いた後で、直に彗星すいせいのように消えてしまった。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
むかしは彗星すいせいはもちろん、日蝕、月蝕までに種々の妄説を付会したものであった。しかるに今日にては、日蝕、月蝕を妖怪視するものはない。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「……分った、わかった。竜骨星座りゅうこつせいざ生まれのアドロ彗星すいせいだ。もうだめだ。あいつに追っかけられては、もうどうにもならん」
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
それゆえ『片恋』一冊ぎりで再び彗星すいせいの如く隠れてしまうつもりであったが、財政上の必要が『片恋』一冊の原稿料ではたすに足りなかったので
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
山田美妙やまだびみょうのごとき彗星すいせいが現われて消え、一葉いちよう女史をはじめて多数の閨秀作者けいしゅうさくしゃが秋の野の草花のように咲きそろっていた。
科学と文学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
七十四年をへた今日でも、その大きな、かがやいた彗星すいせいとその場面とは、私の眼に映っていて、消えさらない。
私の歩んだ道 (新字新仮名) / 蜷川新(著)
軌道の発見せられていない彗星すいせい行方ゆくえのような己れの行路に慟哭どうこくする迷いの深みに落ちていくのである。
二つの道 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
大熊星座おおくませいざのなかの北斗七星ほくとしちせいのこと、小熊星座のなかの北極星のこと、次には、アンドロメーダ星座、ペルセウス星座、牽牛星けんぎゅうせい織女星しょくじょせい銀河ぎんがのこと、彗星すいせいのこと
山の別荘の少年 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
この場合、白骨温泉に落合った二ツの星が、どちらが惑星わくせいで、どちらが彗星すいせいだか知らないが、二つ共に、一定の軌道をめぐっていないことだけはたしかのようです。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と呻いた左膳の気合いが寸刻早く乾雲くうを切ってバサッと血しぶきが立ったかと思うと、突いてきた一刀が彗星すいせいのように闇黒に飛んで、身体ははや地にのけぞっている。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
近づいてあきらかに今日の彼女を知らなければ心ない噂と、遠目の彼女で全体をつくってしまう恐れがある。折よくも彼女は彗星すいせいのようにわたしたちの目の前に現われた。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
一茶は個人としては立派な作者でありますが、一個の彗星すいせいとして考えるのを至当とします。
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
電燈の届かぬ遠くの方の魚達は、その目の玉ばかりが、夏の夜の川面かわもを飛びかうほたるの様に、縦横に、上下に、彗星すいせいの尾を引いて、あやしげな燐光りんこうを放ちながら、行違っています。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
事物の組成は大異変なしにすますことはできない。彗星すいせいの出現を見れば、天自身も名俳優を必要としてるのだと思えてくる。意外の時に神は、蒼空そうくうの壁上に一つの流星を掲げる。
とうとう千五百頁の最後の一頁の最後の文字まで読み抜けて、そうして期待したほどのものがどこからも出て来なかった時には、ちょうどハレー彗星すいせいの尾で地球が包まれべき当日を
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼が親類縁者を歩きまわるのは、気まぐれな彗星すいせいが軌道をぐるぐるあちこちにまわるようなもので、ある親戚を訪れたかと思うと、次には遠くはなれた別の親戚のところに行くのだった。
西北の空に突然彗星すいせいがあらわれて、はじめ二三尺の長さのものがいつか空いっぱいに伸びて人魂ひとだまの化物のようにのたうちまわったかと思うと、地上ではコロリという疫病が流行はやりだして
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
目がむずがゆいようになると、本を閉じて外を見る。汽車の進行する向きが少し変って、風がけむりを横に吹きなびけるものと見えて、窓の外の闇を、火の子が彗星すいせいの尾のように背後へ飛んでいる。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
正月七日、突如、東方の空に彗星すいせいが現れ、十八日には、光が一段と増した。
聞怯ききおじ、見崩れする奴ほど人間のくずは無いが、さて大抵の者は聞怯じもする、見崩れもするもので、独逸ドイツのホラアフク博士が地球と彗星すいせいが衝突すると云ったと聞いては、眼の色を変えて仰天し
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
円い物は十丈あまりも空にあがったが、中から漏れる光が虹のように下にした。そしてっていくように落ちていったが、空をかすめてゆく彗星すいせいのようで、そのまま水の中へ落ちてしまった。
汪士秀 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
明治四十三年五月にかの有名なハリー彗星すいせいが太陽に近づき、遠くその尾をひいて、それがわが地球にも触れると言われたとき、先生はちょうどその折りにできあがった茶室唯真閣ゆいしんかくに我々を待って
左千夫先生への追憶 (新字新仮名) / 石原純(著)
毎夜東の空に当って箒星ほうきぼしが見えた。誰が云い出したか知らないが、これを西郷星さいごうぼしと呼んで、さき頃のハレー彗星すいせいのような騒ぎであった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それを彗星すいせいの如く出でて突如挫折ざせつを加えたものが孔明であった。また、着々と擡頭たいとうして来た彼の天下三分策の動向だった。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彗星すいせいの表現はあまりにも真実性の乏しい子供だましのトリックのように思われたが、大吹雪おおふぶきや火山の噴煙やのいろいろな実写フィルムをさまざまに編集して
映画雑感(Ⅳ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
艇員は、気がついて、ガンマ星とアドロ彗星すいせいの姿を天空にもとめた。ところが、ふしぎなことに、それらしいものは何にも見えなかった。どうしたのであろうか。
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
漢書かんじょ』哀帝建平二年、王莽おうもうが漢室を奪ったときに彗星すいせいが現出し、『後漢書』安帝永初二年正月、大白星昼現れたるは、とう氏盛んなりたる兆しなりといい、また『続漢書』に
妖怪学一斑 (新字新仮名) / 井上円了(著)
彗星すいせいと遊星とが、近づく時は圏内けんないに入り、離れる時は何千万里の大空をそれて行くように。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彗星すいせいのような尾をつけたたこが、畑の上高く空中に動いていた。鶏が黄色い敷きわらを狂気のようにかき回していた。風がその羽を、老婦人の裳衣しょういに吹き込むように、吹き広げていた。
蒼空そうくうのうちにおける彗星すいせいの運動を一滴の水のうちにおける滴虫の旋転に従属させる。
彗星すいせいや流星についての推論や、世界はまちがいなくぐるぐる廻っているので、彼女たちも一日の半分はひっくりかえしになっているという驚嘆すべき事実を語っておどろかしたものである。
近ごろあの彗星すいせいの尾が、太陽の方へ引きつけられべきはずであるのに、出るたびにいつでも反対の方角になびくのは光の圧力で吹き飛ばされるんじゃなかろうかと思いついた人もあるくらいです
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その間にも、月日はいつか過ぎて、三年ばかり経った頃、加賀国かがのくにの生れだと名乗る一人の年若い白拍子が、彗星すいせいのように現れた。ほとけという変った名前を持つ、まだ十六歳のうら若い乙女おとめであった。
その人達の仕事の全量がある。その人々や仕事を取り囲んでいた大きな世界もある。或る時にはその上を日も照し雨も潤した。或る時は天界をはてから果まで遊行する彗星すいせいが、そのれなる光を投げた。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
彗星すいせい的な風雲児、江東の小覇王孫策そんさくは、当年まだ二十七歳でしかないが、建安四年の冬には、廬江ろこうを攻略し、また黄祖、劉勲りゅうくんなどを平げて恭順を誓わせ
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうしてそんなことが起ったかというと、そのとき、月のごく近くを、かなり大きい彗星すいせいがすれちがった。そのとき月の表面へ、はげしく彗星の一部分が衝突した。
三十年後の世界 (新字新仮名) / 海野十三(著)
第一のテーマは楽譜の形からも暗示されるように、彗星すいせいのような光斑こうはんがかわるがわるコンマのような軌跡を描いては消える。トリラーの箇所は数条の波線が平行して流れる。
踊る線条 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その原因は不明なれども、その年の初めに彗星すいせいが見えたことがある。多分これについて、右ようの俗説を生み出したかと思わる。いずれにしても、迷信家の多いのには驚かざるを得ない。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
その時群集を上から見おろしたら、彗星すいせいのような形になっていたに違いない。
空に尾を彗星すいせいの何となく妙な気になる。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彗星すいせいのように現われた彼の名声は、ただ秘伝口伝や門流のからにかくれて、偉そうな切銘と見てくれで無事泰平な鈍刀なまくらばかり叩き馴れて来た無数の刀鍛冶たちへ
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それはムーア彗星すいせいにある超放射元素で、ムビウムという非常に貴重な物質を採ることであった。
大宇宙遠征隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彗星すいせい、日蝕、地震等の天変あるときは、人事上の吉凶禍福の前兆なりとなす。
妖怪学 (新字新仮名) / 井上円了(著)
奈良から、朝夕に、早馬が入洛したり、六条為義の兵が、万一のため、宇治方面へ出て行くのを見たりしたので、夜々の彗星すいせいは、なおさら、あやしい予告に見えた。
それは彗星すいせいではない。その星の動きぐあいから考えると、その星は自由航路をとっている。つまり、その星は、飛行機やロケットなどと同じように、大宇宙を計画的に航空しているのだ
三十年後の世界 (新字新仮名) / 海野十三(著)
│天文学的妖怪(彗星すいせい、流星のごとき天文に属するもの)
妖怪学 (新字新仮名) / 井上円了(著)