座頭ざがしら)” の例文
座頭ざがしら太夫はもと船頭で、からの国へ漂流いたし、その節この玉乗りを習い覚えて帰ったとかいううわさじゃが、まさかにうそではあるまいな」
彦三郎が座頭ざがしらの位地と人気をたのんで、脚本改竄かいざんの我儘を主張したが為である。彦三郎といえども黙阿弥には敵し得ない。
寄席と芝居と (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
此地こつち與力よりき贅澤ぜいたくだと、かね/″\いてゐたが、しかしこれほどだとはおもはなかつた。おかげ但馬たじま歌舞伎役者かぶきやくしや座頭ざがしらにでもなつたやうながする。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「全く笑いごとじゃあねえ、親方にいいところを買って出られて、こっちはまるっきりもうからねえ役廻りだが、そのなかでも、兄いが儲からねえ方の座頭ざがしらだ」
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
小左衛門の一座もそれで、座頭ざがしらの小左衛門は別に住居を持っておりますが、一座の者は全部合宿で、その貧しい汚ない楽屋裏に、当のお夢は住んでおりました。
興行主は彼女を仲間といっしよにそこへ泊まらせ、ただ座頭ざがしらの女優だけを、町一流の旅館に入れていたのである。クリストフは乱雑な小さな客間に案内された。
公園の浪花踊という見世もの、阪東なにがしという女役者の座頭ざがしらのうちがありましたが、じき越して行ってしまいました。始終表の戸を閉めて簾をかけていました。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
豪宕ごうとうな左団次(今の左団次のお父さん)が時流に合って人気を得ていた時で、その左団次が座頭ざがしらであり、団十郎が出動し、福助(今の歌右衛門)が女形おやまだというので
しかしわたくしがこの楽屋をおとずれる時、入って休むところは座頭ざがしらの部屋でもなく、声楽家の控所ひかえじょでもなく、わかい踊子がごろごろ寝そべっている大部屋に限られている。
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
近頃は一向流行はやらないが、探偵劇というものも悪くないね、この怪美人には座頭ざがしらの百面相役者がふんした。怪美人は警官その他の追跡者をまく為に、目まぐるしく変装する。
百面相役者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ええ、その太夫元というのは名前だけで、一座と一緒に歩いているわけではございません。御覧の通りな、頭数の少ない一座、手前が名前人やら奥役やら座頭ざがしらやら、すべてを
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
揃いも揃って言語道断に芸が下手へたで、座頭ざがしららしい唯一の老練な中老人がそれをひどく気にしながら、然し、心底から一座の人々をいたわる様子が痛々しいような一行もあった。
日本文化私観 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
貧血のさがなりしゆえ、幾月か心づかでありけん。座頭ざがしらよりは休むことのあまりに久しければ籍を除きぬと言いおこせつ。まだ一月ばかりなるに、かくきびしきはゆえあればなるべし。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
一座の座頭ざがしらとなりて後も、舞台にはげしきはたらきしては、楽屋に倒れて、その弟子と、その妹と、その養うと、取縋り立蔽たちおおいて回生剤きつけを呑ませ呼びけたる、技芸の鍛錬積りたれば
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その当座と云うものは、私はよく動作を間違えたり、台詞せりふが誤ったり気の短い座頭ざがしらから、よく『間抜め! 気を付けろ!』と云ったようなはげしい言葉を浴びせかけられたりしました。
ある恋の話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それが世間の問題になりかけた時、マニラ生れの日本人だと云う歌劇の一座が来たのです、私は性懲しょうこりもなくまたその座頭ざがしらだと云う女優に眼をつけて、それに関係をつけたのですが
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
三崎座といっても今の人には解りませんが、歌扇という女役者が座頭ざがしらで男の立役を演じ、なかなか人気があっていわゆる民衆的な劇場として、三崎座のファンは相当多かったものです。
学校に文学会のあった時、捨吉は一緒に余興に飛出し、夢中に成って芝居をして騒いだことがある。夢から醒めたような道化役者は牛乳の罐を提げて通る座頭ざがしらの姿を見るにも堪えなかった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「小町桜」や「天竺徳兵衛韓噺てんじくとくべえいこくばなし」では、座頭ざがしらの里虹が、目まぐるしい吹き換えを行い、はては、腹話術なども用いたというほどであるから、自然と観客は、血みどろの幻影にうかされてしまって
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それからと云うものはこの家にあやしい事が度々たびたびあっておどろかされた芸人も却々なかなか多いとの事であるが、ある素人連しろうとれんの女芝居を興行した際、座頭ざがしらぼうが急に腹痛をおこし、雪隠せっちんへはいっているとも知らず
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
この芝居へも母に連れられて見に行ったものの、平土間ひらどまはもとよりどの桟敷も超満員で、その上に入り込むだけの余裕がない。なんでも座頭ざがしらの席とかで、正面の高いところへ無理に押し上げられた。
ヤケに白粉おしろいを叩きつけているのは、座頭ざがしら阪東米八であった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
中に座頭ざがしらと見ゆる端の舞手まひてはわが風呂を世話する男にさふらふ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
座頭ざがしらと花形俳優やくしや10・25(夕)
粂八はその後、三崎座で四、五年ほども打ちつづけていたが、一座の座頭ざがしらたるに適しないらしい彼女の性格がるいをなして、一座の者に離反された。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかも、舞台にきらびやかな大身のやりを擬しながら、槍六法を踏んでいたのは、まぎれもない座頭ざがしら嵐三左衛門でした。
右門捕物帖:23 幽霊水 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
小左衞門の一座もそれで、座頭ざがしらの小左衞門は別に住居を持つて居りますが、一座の者は全部合宿で、その貧しい汚ない樂屋裏に、當のお夢は住んで居りました。
「いゝえ、今度の由良一座の解散した……若宮さん座頭ざがしらの一座の新規に出来た……」
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
大蛇だいじゃかごに入れてになう者と、馬にまたがりて行く曲馬芝居の座頭ざがしらとを先に立てて、さまざまの動物と異形の人類が、絡繹らくえきとして森蔭もりかげに列を成せるそのさまは、げに百鬼夜行一幅の活図かっとなり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
座頭ざがしらへむかって、仮にも、狂言方が、そんな、いけぞんざいな言葉がいえるはずはないのだが、台助は九女八の夫で、しかも、九女八にれ込んで、大問屋の旦那が、家も子も女房も捨て
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「仙十郎しっかり頼むぜ。式三番と言えば、お前、座頭ざがしらの勤める役だぜ。」
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼は『ヰクトリア』座の座頭ざがしらなり。彼がかかえとなりしより、はや二年ふたとせなれば、事なくわれらを助けんと思いしに、人の憂いにつけこみて、身勝手なるいいがけせんとは。われを救いたまえ、君。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
飛んだ火事騒ぎから座頭ざがしらの染之助や女形おやま袖崎市弥そでざきいちやなどが天領役所へ引ッぱってゆかれてしまうし、なけなしの衣裳小道具もだいぶ焼いたし、眉毛まゆげのない残党どもと、とぼとぼ落ちてゆきましたが
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「で、座頭ざがしらは何んというんだ?」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この一座がその当時の顔ぶれを思い出すままに書いてみると、まず川上音二郎が座頭ざがしらで——ここでは座長といっていた——次は藤沢浅二郎である。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
座頭ざがしらの明石村右衞門は、四十過ぎの立ち役で、これはなか/\の達者、女形をやまの大磯虎三郎は、名前に似ず不景氣な役者ですが、二枚目の小磯扇次といふ、白塗の若侍は、なるほど
と——座頭ざがしらの親方を失ったための善後策に夢中のあまりにか、それとも事件に対するおどろきと狼狽ろうばいからか、犯行のあった女親方の一室は、死骸しがいから何からまだそのままでしたから
君をこゝまで導きし心なさを。君は善き人なるべし。我をばよも憎み玉はじ。明日に迫るは父のはふり、たのみに思ひしシヤウムベルヒ、君は彼を知らでやおはさん。彼は「ヰクトリア」座の座頭ざがしらなり。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
神田の三崎町みさきちょうの三崎座に女役者の座頭ざがしらになってしまったりする。
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「手前が座頭ざがしらの染之助でございますが……」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
田舎の小屋の楽屋ではあるが、座頭ざがしら格の役者を入れる四畳半の部屋があって、仲のいい紋作と冠蔵とはその部屋を占領して一つ蚊帳かやのなかに眠った。
半七捕物帳:38 人形使い (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
座頭ざがしらの天童太郎の藝達者と、娘太夫つばめの美しさで、暫らくは人氣の中心になり、一日何杯かの客を鮨詰すしづめにしましたが、その日の晝過ぎ、つばめ太夫が傷ついて、客の目當てを失つたために
で、一座の座頭ざがしらにもわけを話して、座頭と太夫元の二人から六三郎にむかってくれぐれも意見をしました。
子供役者の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
座頭ざがしらの李香がいなくなっては芝居を明けることは出来ない。無理に明けたところで観客の来る筈もない。
女侠伝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
盛元座の座頭ざがしらは市川団升、高砂座は坂東勝之助で、団升も勝之助も大芝居から落ちて来た俳優であった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
座頭ざがしらの小三が和藤内に扮して、お粗末な縫いぐるみの虎を相手に大立ち廻りを演じていた。それだけを見物して、半七はもう帰ろうとしたが、また思い直して次の一幕を見物した。
半七捕物帳:54 唐人飴 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
子供芝居の座頭ざがしらなり。
明治演劇年表 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)