希臘ギリシア)” の例文
希臘ギリシアの英雄アキレスはかかとだけ不死身ではなかったそうである。——即ちアキレスを知る為にはアキレスの踵を知らなければならぬ。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
欧羅巴ヨーロッパの通商をさまたげ、かつその平穏へいおんみだせし希臘ギリシア国の戦争をたいらげんがため、耶蘇教の諸大国、魯西亜ロシア国とともにこれを和解、鎮定ちんていせり。
(十六世紀の伊太利詩人タツソオと前七世紀の希臘ギリシア女詩人サツフオオとの傳は今煩をはゞかりて悉く註せず。)看客は皆泣けり。
それでいて鋭い鋼鉄の眼、羅馬ローマ型ではない希臘ギリシア型の、ふるえつきたいような立派な鼻、その口は——平凡な形容だが——全く文字通り薔薇のようだ。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
……博識にしてお心得のある方々は、この趣を、希臘ギリシア羅馬ロオマの神話、印度の譬諭経ひゆきょうにでもお求めありたい。ここでは手近な絵本西遊記でらちをあける。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
七百頁に近い大部なもので、全部四十一章に別れてゐて古代希臘ギリシア羅馬ローマの神話東方北方の伝説が残らず集まってゐる。
新刊紹介:〔伝説の時代〕 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
それはヘロドトスの古希臘ギリシア伝説中の朴野な噴水からアグリッパのこしらえた羅馬ローマ市中百五つの豪壮な噴水、中世の僧院の捏怪ねっかいな噴水、清寂な文芸復興期の噴水
噴水物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
寒月君が希臘ギリシア語で本文を朗読しても宜しう御座いますがといって、そんな物欲しそうなことは言わん方が奥床しくて好いと、苦沙弥先生にやられる所には
猶太ユダヤ宗の人もまたこの日をもって礼拝日となせり。いにし希臘ギリシアの一帝あり、この日をもって神を祭るべきを公布せしより、ついに世間普通の祭日となるに至れり。
日曜日之説 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
女学校の二年生の冬、彼女は兄が贈つて呉れた希臘ギリシア神話を読んだが、そのなかでアフロデイテが海の泡から生れたといふ話が大そう彼女の気に入つてしまつた。
水と砂 (新字旧仮名) / 神西清(著)
この対話にもとづきて、あるいは詩の一新体の発展し来らむも知るべからずとなり。先触已むことを得ず、このことわりを認容して、さて希臘ギリシア神話を呼び出せり。
校長ピロッチイが名は、をちこちに鳴りひびきて、独逸ドイツの国々はいふもさらなり、新希臘ギリシア伊太利イタリア璉馬デンマークなどよりも、ここにきたりつどへる彫工ちょうこう、画工数を知らず。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
けれどもその昔に買つた本を、今日までまだ一度も眼を通した記憶がないのもたしかな事實ですから、私は希臘ギリシアの神話にかけては、あなたよりもはるかに無知識なのです。
『伝説の時代』序 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
への字形に排列した此三山は、体から言えば、希臘ギリシア神話に現れている地獄の怪犬ケルベロスのように一身三頭である。布置から言えば、天蝎宮の心宿に似ている。
秩父の奥山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
仮令たとえ諸君がかの古の希臘ギリシア提燈ランタンを携へて探しまはつても、世間の評判によつて自己の社会上の位置や仕事の上に何等の利害得失を蒙らない人を見付出すことは不可能であらう。
少数と多数 (新字旧仮名) / エマ・ゴールドマン(著)
王国の賛沢な偕調メロデーが部屋を満たして、アングロサクソンの英諾威えいノルウエー人、ケント族の仏伊人、スラブの露墺ろおう人、アイオニアンの血族希臘ギリシア人、オットマン帝国の土耳古トルコ人等に交って
バルザックの寝巻姿 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
迷信深い魯西亜オロシャの水兵どもは、あやに飛びちがう火光を外目にして、祈祷きとう歌を、平然と唱え続けているのだ——それは沈厳な、希臘ギリシア正教特有の、紛う方ない水葬儀だったのである。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その中六ヶ月はマウント・アソスの希臘ギリシア僧院で暮らし、もっぱ静思せいし休養きゅうようにつとめた。
かくて一九一七年に至り、伊太利イタリーの数学者で希臘ギリシア数学史の一方の雄であるローリア博士が、日本の数学史を論じたことがあるが、その中には私の書いたものが引用中の大半を占めて居る。
数学史の研究に就きて (新字新仮名) / 三上義夫(著)
こんなことをいうと希臘ギリシア語なども私は知ってるようだが実はこれだけしけゃ知らない。でこのゾーポリチコンという希語を訳してみると「人は社会的動物なり」ということになるそうだ。
イエスキリストの友誼 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
いや詩経にも希臘ギリシア悲劇にも、恋の別れの悲しさを、歌わない芸術というものは無かった筈ですが、私自身がそれを経験すると、人類の歴史始まって以来の、最初の大悲劇のような気がして
法悦クラブ (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
モオリーは雑木林の向うのアメリカ組の木骨小屋フレームハウスへ、おれは希臘ギリシア人やアルメニヤ人の移民組の天幕と互いに別れ別れになって、こんな狭い土地にいながらめったに逢うようなこともなくなった。
南部の鼻曲り (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
さて羅馬をあとにして発つたオーブレイは、希臘ギリシアへ足を向けた。ペニンスラ(イベリヤ半島)を渡ると、やがて程なく身はアゼンスの町にあつた。アゼンスで彼は或る希臘人の家を仮寓と定めた。
さういふ中でも特に念頭を去らないのが、あの下婢の異国風な、いにしえ希臘ギリシアの女を思はせる顔なのである。整ひすぎてゐるために、却つて余程迫力が薄れるやうな思ひがする。この下婢はお妙と言つた。
木々の精、谷の精 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
何事によらず、今の世は遠く古の希臘ギリシア羅馬ロオマの世に及ばずと知り給へ。澆季げうきの世は古に復さんよしもなしと、かこち顏なり。
古代文明の第一位を占める、希臘ギリシアにおいてさえこの信仰は、万人の胸に行き渡っていた。アポロは男性のそれであり、ヴィナスは女性のそれなのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「今日の科学を盛るべき容器は既に希臘ギリシアの昔に完成してそれ以後には何等の新しきものを加えなかった」
復一の何ものにもとらわれない心は、夢うつつに考え始めた——希臘ギリシアの神話に出て来る半神半人のいきものなぞというものは、あれは思想だけではない、本当に在るものだ。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
私は希臘ギリシアの神話にいて、あそこを少し、こゝを少し、と云つた風にうろ覺えに覺えてはゐますが、系統的には研究もせず、批判もせず、漫然と今日まで經過して來た事を
『伝説の時代』序 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
次に逍遙子は千八百八十四年に無名氏が作りしシエクスピイヤ論に見えたるプラトオが理想を擧げて、この希臘ギリシア古儒の理想を逍遙子自家の所謂理想と山房論文の理想とに比べたり。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
希臘ギリシア商人が自転車で忙がしく商取引所方面に疾走し出すころ、マダム・レムブルグが瀝青れきせいの浮いた黒襦子くろじゅすの着物をつけて朝のミルクのなかで接吻をすると、海峡を船脚はやく航行する汽艇
地図に出てくる男女 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
また英文学もその富を挙ぐとも、決して希臘ギリシア文学に優れりということ能わず。
我が教育の欠陥 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
しか希臘ギリシア彫刻の傑作に見るが如き貴き素朴と沈静なる偉大とを兼ね備えた山の前には、私の神経細胞の中に生じつつあった少量の醗酵素は、自己を危くするまでに毒素を分泌するに至らずして
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
畢竟鴎外先生は軍服に剣を下げた希臘ギリシア人である。
侏儒の言葉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ロオザが兄なる醫師くすしは、我を養ひて子となし、希臘ギリシアにてみまかりし子の名を取りて、我をマリアと呼びぬ。
これは希臘ギリシア擬古狂詩ぎこきょうしの断片をざっと飜訳したものだそうだ。それと同じような意味を父の敬蔵けいぞう老荘ろうそうの思想から採って、「渾沌未分の境涯きょうがい」だといつも小初に説明していた。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
今の人の手にする文學書にはヸーナスとかバツカスとかいふ呑氣のんきな名前はあまり出て來ないやうです。希臘ギリシアのミソロジーを知らなくても、イブセンを讀むにはほとんど差支さしつかへないでせう。
『伝説の時代』序 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しかし人間の思考の「型」少くとも現代人の科学的な思考の「型」は、すでに希臘ギリシアの哲学者によって作り出され、それより一歩も出ていないような気がすると、よく先生は言っておられた。
西洋で言って見ると希臘ギリシアの倫理が Platonプラトン あたりから超越的になって、基督クリスト教がその方面を極力開拓した。彼岸に立脚して、馬鹿に神々こうごうしくなってしまって、此岸しがんがお留守になった。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼等はマダム・レムブルグの家でアングロ・サクソンの英諾威えいノルウェー人、ケント族の仏伊人、スラブの露墺ろおう人、アイオニアンの血族希臘ギリシア人の商人、オットマン帝国の土耳古トルコ人等と夜食を共にするのであった。
地図に出てくる男女 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
かつて学校で見た石膏模造の希臘ギリシア彫刻の円盤投げの青年像が、その円盤をさし挟んだ右腕を人間の肉体機構の最極限の度にまでさし伸ばした、その若く引緊った美しい腕をちらりと思いうかべた。
家霊 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
羅馬ローマ人は薔薇ばらaffectアツフエクト するといてある。何の意味だか能く知らないが、大方おほかたこのむとでも訳するんだらうと思つた。希臘ギリシア人は Amaranthアマランス を用ひると書いてある。是も明瞭でない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)