山門さんもん)” の例文
かくては今日東京市中の寺院にして輪奐りんかんの美人目じんもくを眩惑せしむるものは僅に浅草の観音堂かんのんどう音羽護国寺おとわごこくじ山門さんもんその二、三に過ぎない。
しかし、このあたりには、それほどに大きな、りっぱなご門は、あみだでら山門さんもんよりほかにはないはずだが、と法師ほうしはひとり思いました。
壇ノ浦の鬼火 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
宗助そうすけ老師らうしこの挨拶あいさつたいして、丁寧ていねいれいべて、また十日とをかまへくゞつた山門さんもんた。いらかあつするすぎいろが、ふゆふうじてくろかれうしろそびえた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
山門さんもんと三井寺とは年来の確執じゃ。その三井寺に参詣して法師ばらをそそのかし、世の乱れを起こそうとてか」
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
禅家には、御承知のとおり葷酒くんしゅ山門さんもんに入るを許さず——という厳則がござりますが、各〻方もおつかれの御様子故、ただ今、粗酒を一こんいいつけておきました。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
株立ちのひくい桜は落葉し尽して、からんとした中に、山門さんもんの黄が勝った丹塗にぬりと、八分の紅を染めたもみじとが、何とも云えぬおもむきをなして居る。余は御室が大好きである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
エヽ猿若座さるわかざ開業式かいげふしきでことふきのとう、二十四かうたけ山門さんもん五三のきぼしり、うすゆきの三にんわらび、たい十の皐月さつき政右衛門まさゑもんのたゝみいわし、なぞトふところでございます。
狂言の買冠 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「そうだそうだ。葷酒くんしゅ以外の者は何人もこの山門さんもんに入る可らず。取りに行ってやる。」
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
ところが、ちょうど十時過ぎ、山門さんもん鋪石道しきいしみちにガラガラと車の音がした。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
ほととぎす山門さんもんのぼる兄のかげ僧服そうふくなれば袖しろうして
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
山門さんもん仁王にわうあか幻想イリユウジヨン……
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
麹町日枝神社こうじまちひえじんじゃ山門さんもんの甚だ幽邃ゆうすいなる理由を知らんには、その周囲なる杉の木立のみならず、前に控えた高い石段の有無うむをも考えねばなるまい。
それから逆戻ぎやくもどりをして塔頭たつちゆう一々いち/\調しらべにかゝると、一窓庵いつさうあん山門さんもん這入はいるやいなやすぐ右手みぎてはうたか石段いしだんうへにあつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
然し葷酒くんしゅ(酒はおまけ)山門さんもんに入るを許したばかりで、平素の食料しょくりょうは野菜、干物、豆腐位、来客か外出の場合でなければ滅多に肉食にくじきはせぬから、折角の還俗げんぞくも頗る甲斐かいがない訳である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
宗助そうすけ一封いつぷう紹介状せうかいじやうふところにして山門さんもんはひつた。かれはこれを同僚どうれう知人ちじんなにがしからた。その同僚どうれう役所やくしよ徃復わうふくに、電車でんしやなか洋服やうふく隱袋かくしから菜根譚さいこんたんしてをとこであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
宗助そうすけは一封の紹介状をふところにして山門さんもんを入った。彼はこれを同僚の知人のなにがしから得た。その同僚は役所の往復に、電車の中で洋服の隠袋かくしから菜根譚さいこんたんを出して読む男であった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
誰が敲くのだか分らない。僕は寺の前を通るたびに、長い石甃いしだたみと、倒れかかった山門さんもんと、山門をうずめ尽くすほどな大竹藪を見るのだが、一度も山門のなかをのぞいた事がない。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)