客人まろうど)” の例文
さふらへど、この日は浪やや高く、こと昨日きのふより今日けふまで一日一夜いちにちひとよの静止ののちさふらへば、客人まろうど達は船酔ひがちに食事も進まぬやうさふらひき。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「あ。……今日はまた、お客人まろうどを招いて、御宴楽の折とみえる。……な、ほれ。あの舞楽の曲が、洩れ聞えてくるだろうが」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今宵こよひ家例かれいり、宴會えんくわいもよふしまして、日頃ひごろ別懇べっこん方々かた/″\多勢おほぜい客人まろうどまねきましたが、貴下こなたそのくみくははらせらるゝは一だん吾家わがや面目めんもくにござる。
しめしは江戸四宿の内只此品川のみ然れば遊客いうきやくしたがつて多く彼の吉原にもをさ/\おとらず殊更ことさら此地は海にのぞみてあかつきの他所ほかよりも早けれど客人まろうど後朝きぬ/″\
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ほどもなく入り来る洋服扮装いでたちの七分は髯黒の客人まろうど、座敷に入りてしばらくは打ち潜めきたる密議に移りしが、やがて開きて二側ふたかわに居流れたるを合図として
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
そう思って差控えていた際であったのに、はからずもその人が自ら望んで客人まろうどになろうと云い出したのであった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
まず客人まろうどは、英皇太后メアリー陛下の御弟エースローン公、ドイツはモスクワ駐劄ちゅうさつ大使シュレンバーグ伯、またエジプトの女王ナズリ陛下、イタリアは皇甥スポレート侯爵。
人外魔境:10 地軸二万哩 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「しばしがほどなり。余りにれて客人まろうども風や引き玉はむ。またふるびたれどもこの車、いたく濡らさば、主人あるじいかりはむ。」といひて、手早く母衣打掩うちおおひ、また一鞭ひとむちあてて急ぎぬ。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「急ぐ事あるをりに長言ながごとする客人まろうど」、「ことなる事なき男の、ひき入れ声して艶だちたる」というごときをあげるとともに、その場に「墨の中に石こもりて、きしきしときしみたる」
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
むらさきのはすに似ませる客人まろうど荷葉かえふの水に船やりまつる
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
大阪生れの者にや梅やんとか云ふ優名やさなを呼ばれる人がと可笑をかしくさふらひき。ボオイの仲間ばかりならず白人の客人まろうども多く負かせしとかにさふらふ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
客人まろうどにもの申す。末座にまかりある者ゆえ、わざと御挨拶をひかえていましたが、お目にとまったようにござれば、かくは推参すいさん申してござる。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どつと陽氣やうきに騷ぎ手輕てがるあそんで立出つゝ別れ/\に歸りけり偖も小夜衣は今日けふはからずも千太郎の相方に出しより何となく其人のしたはるゝまゝ如何にもして彼の客人まろうど
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
客人まろうどの席のうしろをかこっていた屏風びょうぶが邪魔になって見えにくかったのであるが、故意にか偶然にか、追い/\騒ぎがはげしくなり、人々がったり居たりするにつれて
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
『いえ。おかくしなさいますな。兄者人の影を、中御門家の近くで見たお人もあるのですから。……その客人まろうどが、父上にも、話しておりました』
さるはこの船の客人まろうどの中に花嫁となり給ふために海渡る人六人むたりありと云ふことを三重の君語り給ひしを知ればにもさふらふべし。食事は邦人のコツクの手になる日本料理をこの日より船室に配らせさふらふ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
枕に付せけるが翌日長庵は早々支度をし麹町を立出吉原さしていそぎけり爰に吉原江戸町二丁目の丁字屋ちやうじや半藏と云る遊女屋いうぢよやは其頃での繁昌はんじやうの家にて貴賤きせん客人まろうどひききらされば此丁字屋方へ賣込うりこまんと傳手つて
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「そうか。客門の辺りばかりでなく、客人まろうどの駒をつなぐうまやなども清めたろうな。厩の不精ッたいのは、嫌なものだ」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おおやけではさらさらないが、夜に入らば、そっとここへ見える客人まろうどがあるはずです。というて公儀には仔細ないお方だ。ごゆるり名残りを惜しまれるがよい」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『十九でおざるよ。……もうすぐ二十歳はたちともなるのに、客人まろうどのまえでは、よう、ものもいわぬ方でなあ』
『姉君のお婿さまに、いいお祝を上げようか。きょうのお客人まろうどたちへ、馳走ちそうしてあげるといいからね』
「ひかえろ」と、太公は息子を叱って——「客人まろうど。……どうもせがれめが、とんだご無礼をいたしましたが、このとおりな田舎いなか育ちじゃ、ま、堪忍してやってくだされい」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ただ今、僧正のお居間へ、おひきあわせ申したい客人まろうどがお見えになりましたから、お食事がおすみ遊ばしたら、もいちど、お越しくださるようにとの仰せでござる」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうだな。客人まろうどにお気づまりをさせても悪い。いっそ、そなたの手でこれへてまいらぬか」
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お客人まろうど。あらためて、とくとお話し申したいことがおざる。茶なと煮て、わしのへやでお待ちしておりますぞ。おそれいるが、伜めを連れて、あとよりお越しくださらぬか」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お父さま、いま御門の外へ、きれいな女の客人まろうどが来ましたよ。笠を持った旅の女のひとが」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お客人まろうどには、失礼じゃが、かえってここが親しかろう、どうぞべりへ」と席をすすめた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お客人まろうどに、何の御馳走もなさすぎますから、せめて尼の琴なりおきかせしましょうか」
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「こよいの客人まろうどは、姫の生命いのちの親じゃ、粗略がないように」と、月輪の館では、禅閤ぜんこうを初め、家族たちや召使の端までが、細かい気くばりをもって、かどを清掃して、待っていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
客人まろうどの御眼には、この男、いたく小男のように御覧ぜられたかのようなれど、父母より賜える五体、幸いにして、五尺ほどはこれあり、今日までの戦場においても、いまだいかなる強剛に会うも
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いやしくない客人まろうどだ。温雅なお人だ。ご親切なお方だ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あいや客人まろうど。お膝をおくずしくだされい。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「佐々木殿には、なにぶん、ここは路傍のこと。ごあいさつもなりかぬれば、自身はお客人まろうどの先導として、一と足さきに屋形へ駈けん。……陽もまだ高し、後よりゆるゆる御案内して参れよとの仰せでおざった。いざ、お供いたしましょうず」
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)