大勢たいせい)” の例文
しかしあのたくましいムツソリニも一わんの「しるこ」をすゝりながら、天下てんか大勢たいせいかんがへてゐるのはかく想像さうぞうするだけでも愉快ゆくわいであらう。
しるこ (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
大勢たいせいは思わしくないが、それでも一人や二人は知己がある。前の自称画伯K君もその一人であるが、もう一人小宮(豊隆)さんがある。
画業二十年 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「美しいな」と宗近君はもう天下の大勢たいせいを忘れている。京ほどに女の綺羅きらを飾る所はない。天下の大勢も、京女きょうおんなの色にはかなわぬ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
欧洲の大勢たいせいが行くべき道を歩んで、ゆくべき所へゆき着いたのである。その大勢に押し流された人間は、敵も味方も悲惨である。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
たとえ彼らの首を百人千人斬ったところで、大勢たいせいにはかかわりございません。そのために、故郷の妻子を嘆き悲しませるのは気の毒でございます。
しかし、青年指導について、せんだって私にもらされたご意見から察すると、やはり大勢たいせいはどうにもならないらしいね。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
この際、いかにしてこの王国を守るかということは、いかにして一揆の大勢たいせいをそらすかということでなければならぬ。
「これも大勢たいせいでしょう。福島の本陣へは山村家の人が来ましてね、恭順を誓うという意味の請書うけしょを差し出しました。」
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「いゝや、大勢たいせいは争えませんよ。それで皆途中は背広で行って、役所へ着いてから軍服に着替えるような始末です」
母校復興 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
かれの沈鬱ちんうつはそこにある。また、わしの見解があやまったにしろ、ひとりや二人の人物を助けたとて、大勢たいせいの上にどれほどな違いを来たすものじゃない。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よせばよいのに気の毒な——こう思う者も多かったが大勢たいせいいかんともしがたいので苦い顔をして控えている。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
中には越中次郎兵衞盛次ゑつちゆうのじらうびやうゑもりつぐ、上總五郎兵衞忠光、惡七兵衞景清あくしちびやうゑかげきよなんど、名だたる剛者がうのものなきにあらねど、言はば之れ匹夫ひつぷゆうにして、大勢たいせいに於てもとよりえきする所なし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
我國わがくに國債こくさい状態じやうたいると、今日こんにちすでに五十九億圓おくゑんたつして從來じうらい大勢たいせいもつはかれば年々ねん/\巨額きよがく國債こくさいえるのであつて百億圓おくゑんたつするもあまとほからざることである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
ええ一寸ちょっと一言ご挨拶あいさつもうしあげます。今晩こんばんはお客様きゃくさまにはよくおいで下さいました。どうかおゆるりとおくつろぎ下さい。さて現今げんこん世界せかい大勢たいせいを見るにじつにどうもこんらんしている。
紫紺染について (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
かれは大勢たいせいの既に定まったのを知らずに、己の事情の帰国に適せぬことを縷々るるとして説こうとした。霊肉共に許した恋人のならいとして、いかようにしても離れまいとするのである。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
ただこの時代が文学美術全般の勃興を成したるは文運の隆盛を促すべき大勢たいせいられたる者にして、その大勢なる者はかへつて各種の文学美術が相互に影響したる結果も多かりけん。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
しかるにいま貴様きさまの言を聴けば、それはやはり家老どもの力をらねば、天下が治まらぬというごとき卑怯ひきょうの意志あることを自白するにほかならぬ。そんなことで天下の大勢たいせいがわかるものか
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
照彦てるひこ様は町人の学校へおはいりになりました。私はご指導主事として反対のおもむきをお殿様へも申し上げたのですが、大勢たいせいはなんともいたし方ありません。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
大勢たいせいの順逆は論外として、とにかくこの男は、本当に謀叛をやれる奴だ、謀叛人の卵だ、と白雲が、同行しながら、雲井なにがしに向って舌を捲きました。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
もはや大勢たいせいのいかんともしがたいことを知る時が来て、太政官だじょうかんからの御達おたっしや総督府からの催促にやむなく江戸屋敷を引き揚げた紀州方なぞと同じように
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ひとり悶えたのは、大勢たいせいをここまで引っ張ってきた張松である。彼の立場は当然苦境に落ちる。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
祖母と父とはいつまでも強情にそれを否認していたが、大勢たいせいはもう動かすことが出来なかった。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
濱口内閣はまぐちないかく出來できまへの六ぐわつ三十にち日本内地にほんないち輸入超過ゆにふてうくわは二おく八千萬圓まんゑんであつたが、七ぐわつ濱口内閣はまぐちないかく組織そしきされてから以來いらい段々だん/\ときつにしたがつて輸入超過ゆにふてうくわ大勢たいせい改善かいぜんされて
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
しかし、大勢たいせいは予め知れていて、彰義隊の敗れることには疑い無かった。
甲州鎮撫隊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「この通り一から十まで話が分っているので、士族平民の件は、狐につまゝれたような心持がしましたが、そこは悧巧りこうな人丈けに大勢たいせいを見て取っててのひらかえすように……」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
大勢たいせいが然うなっているようだからかなわない。三輪君の家でも細君が謙一の同伴を三輪君の出発条件のように話していた。謙さんが御一緒なら私も安心ですと頻りに言っている。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)