かこい)” の例文
旧字:
が、すぐ町から小半町引込ひっこんだ坂で、一方は畑になり、一方は宿のかこいの石垣が長く続くばかりで、人通りもなく、そうして仄暗ほのくらい。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
建武中、飛騨の牛丸摂津守の居城敵兵に水の手を切られ苦しんだ時、白米で馬を洗い水多きように見せて敵を欺きかこいを解いて去らしめた。
同時にヒーと泣き出す女の声、私はぞっとして夫人にり添いながら、かこいの破れ目から楽屋の中を覗いて見た。
鉄の処女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
第四「馬の間」の襖は応挙、第五「孔雀くじゃくの間」は半峰、第六「八景の間」は島原八景、第七「桜の間」は狩野かのう常信の筆、第八「かこいの間」には几董きとうの句がある。
と勧められるから新吉は、幸い名主に逢おうときましたが、少し田甫たんぼを離れて庭があって、かこいは生垣になって、一寸ちょいとした門の形が有る中に花壇などがある。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
最もはだか蝋燭だから半紙でかこいを作って、左手に高く捧げては、此処は曲りだ、大きな石がある、すべるぞ、と絶えず種々な掛声をして先に立つT氏の労は普通ひととおりではない。
武甲山に登る (新字新仮名) / 河井酔茗(著)
しかし全く自由になったつもりでいても実はやはり別の世界に移ったのでなくて何処までも自分のかこいから出た訳ではなく、ただ自分の Spielraum を得たというに過ぎない
そしてそれは私には、もっと現実的に——あたかも図案家が単にありきたりのかこいあるいは後光でないように、しかしよく見ると真の魚であるように故意にしたものであるように見えました。
この年父信虎信州佐久のうんノ口城の平賀源心を攻めたが抜けず、かこいを解いて帰るとき、信玄わずか三百騎にて取って返し、ホッと一息ついている敵の油断に乗じて城を陥れ、城将源心を討った。
川中島合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
行子は三階の閣室で、おなじ年ごろの高根たかねという侍女を相手に、のどかな顔で双六の骰子を振りながらいろいろと画策していた。こうまで取固とりかためたかこいのなかへひきこむにはどうすればいいのか。
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「めッそうもない。じつはその折、わが眼の前ですぐいたせとの大御所の仰せつけに、やむをえず、公卿三名と、舎人とねり雑色ぞうしきなど七、八名をかこいから解いて、お座所の内へ入れたような次第でして」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
質屋の前にまばらなかこいをして、その中に庭木が少し植えてあった。三本の松は、見る影もなく枝を刈り込まれて、ほとんど畸形児きけいじのようになっていたが、どこか見覚みおぼえのあるような心持を私に起させた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大仏の姿が屋根にもかこいにもなるが、内側では胎内くぐりの仕掛けにしてひざの方から登って行くと、左右のわきの下が瓦燈口かとうぐちになっていて此所ここから一度外に出て、いんを結んでいる仏様の手の上に人間が出る。
「誰でもよいからかこいを乗り越し、内の様子を探って来い」
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かばかり堅固なるかこいの内よりそもいかにして脱け出でけん、なお人形のうしろより声をいだして無法なる婚姻をとどめしも、なんじなるか。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
右左におおきな花瓶がすわって、ここらあたり、花屋およそ五七軒は、かこいの穴蔵を払ったかと思われる見事な花が夥多おびただしい。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
手入をしないかこいなぞの荒れたのを、そのまま押入につかっているのであろう、身を忍ぶのはあつらえたようであるが。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
禰宜 人妻にしては、艶々つやつや所帯気しょたいげ一向いっこうに見えぬな。また所帯せぬほどの身柄みがらとも見えぬ。めかけ、てかけ、かこいものか、これ、霊験あらたかな神の御前みまえじゃ、明かに申せ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その内、湯に入ると、うっすりと湯槽ゆぶねの縁へ西日がさす。のぞくと、空の真白まっしろな底に、高くから蒼空が団扇うちわをどけたような顔を見せて、からりと晴れそうに思うと、かこいの外を
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
誰もさえぎる者はなかつたさうだけれど、それが又、敵のかこい蹴散けちらしてげるより、工合ぐあいが悪い。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「しかし貴客あなた、三人、五人こぼれますのは、旅籠はたごやでも承知のこと、相宿でも間に合いませぬから、廊下のはずれのかこいだの、数寄すき四阿あずまやだの、主人あるじ住居すまいなどで受けるでござりますよ。」
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
思切って、ずかずかと立入って、障子を開けますと、百日紅さるすべりが、ちらちらと咲いている。ここを右へ、折れ曲りになって、七八間、ひさしはあるが、かこいのない、吹抜けの橋廊下が見えます。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その女学校の門を通過ぎた処に、以前は草鞋わらじでもら下げて売ったろう。葭簀張よしずばりながら二坪ばかりかこいを取った茶店が一張ひとはり。片側に立樹の茂った空地の森を風情にして、如法にょほうの婆さんが煮ばなを商う。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
細竹一節のかこいもない、酔える艶婦えんぷの裸身である。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)