)” の例文
私は、百合が仲間はづれになつてゐないのを見てツとした。稍離れた処を見るとユキ子が森の肩に腕をのせて木柵に凭つてゐた。
競馬の日 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
共同水道のような処で水を汲んでいたおばあさんが、「はい帰って参りました」と返事をしてくれたので、私はっとして路地を抜けた。
貸家探し (新字新仮名) / 林芙美子(著)
っとして見ると、再び、探偵作家の星田代二のことが思い出された。愈々いよいよ検事局に廻されて、今日は、検事の第一回訊問の行われる日だ。
自分も後から飛び込むと、初めてっとしたように、扉に掛金をかけました。埃だらけのその板の間に、粗末な段梯子だんばしごが付いているのです。
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
と言いかけてと小さなといき、人質のかのステッキを、斜めに両手で膝へ取った。なさけの海にさおさす姿。思わず腕組をしてじっと見る。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
要点をつかんで、のみこんで下すったことを、私がどんなにっとしたかお察し下さることが出来ようと思います。
「嫌な天氣だな。」と俊男は、奈何いかにもんじきツたていで、ツと嘆息ためいきする。「そりや此樣こんな不快を與へるのは自然の威力で、また權利でもあるかも知れん。 ...
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「空乳首をやって見るとよい。」私がそういうと妻はすぐ空乳首をった。赤児は、っとしたようにそれをしゃぶり、くろぐろとした瞳を静まらせ泣きんだ。
童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
落ち着くところが見つかれば、それがどれほどいぶしいところでも、先ずッと肩をおとすのであった。全く彼女ら女房どもは、測り知れない男の心ひとつに追いすがっていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
起された時は、夏の朝らしい爽々すが/\しい陽が庭に一杯満ち溢れてゐた。彼は夢中で湯槽へ飛び込んで、ツと胸を撫で降した気になつたのだ。
明るく・暗く (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
やっと、っとしました。今いただきに立って、大きな赤松の枝の間から眼を放ったはるかのはずれに、はてしもない海が、真蒼まっさおな色を見せているのです。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
私は自分の二階に横になってっとしたような心持ちをつよく感じ、自分がこのわれらの家をどんなに愛しているかということをはっきり自覚しました。
編輯長の命令で、陸軍大臣の談話をとるために、この三四日、足手摺古木すりこぎに追っかけまわして、やっとつかまえることが出来て、っとしているところだった。
戸外へ出るとつとして、いゝ空気を吸つたやうな気がした。心のうちで、加野をみじめな男だと思つた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
今度は目が覚めつつも、まだ、そのおもかげうち朦朧もうろうとして残ったが、呼吸いきにでも吹遣ふきやられるように、棚の隅へ、すっと引いて、はっと留まって、くなる。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「埃の力は偉大ゐだいだ!」と周三は、ツと歎息ためいきして、少時埃に就いて考へた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
そして、ようやくッと一呼吸入れたのである。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
初めて煙草たばこに火をつけるものもあれば、耳語を交わすものもあり、何かしらっとした空気が座には感じられました。が
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
本当に独特で、私はいつもかんの虫を奥歯でかみしめていたような気分でしたから、マアすこしの間っとします。
私は、光子が現れたので、わけもなくツとしたのである。大袈裟に云ふと救ひの手が現れたやうに思つた。私は雪子のお蔭で酷く神経を疲らされてゐた。
熱い風 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
富岡や自分に対して、現在では何のわだかまりも、持つてゐさうもない文面でもあると、つとした。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
長範をば討って棄て、血刀ちがたな提げて呼吸いきつくさまする、額には振分たる後毛おくれげ先端さき少しかかれり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして魂も凍りつくばかりの戦慄から解放されてっとしたことであったが、脇の下からはまだ冷たいものがたらたらと気味悪くしたたり落ちた。
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
帰って来たら安心してっとした。自分には、Aの父がいやに思われるのもいやなら、彼等林町の一族がいやに思われるのも辛いのだ。笹川春雄氏に会う。
つとしたやうな、また不足のやうな、そして、つまらぬ健やかな苦笑を覚へてならなかつた。
川蒸気は昔のまゝ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
と、といきをつく間もなく、このドアが細目に開いた、看護婦の福崎が、廊下から姿を半ば。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
葬式が済んでしまふと、富岡は重荷を降したやうにつとした。邦子の蒲団や身のまはりのものは、二束三文に売り払つて、死者の思ひ出を、一切合財いつさいがつさい吹き払つてしまつた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
と家内は恥ずかしそうに顔をあからめました。そしてまだ気味悪そうにっと溜息をいているのでございます。
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
日曜以来、すっかりタガをゆるめてしまっていたので、実にいろいろ気をもみ、本当にきょうはっと、よ。
風呂では、きんは、きまって、きちんと坐った太股のくぼみへ湯をそそぎこんでみるのであった。湯は、太股のみぞへじっとたまっている。っとしたやすらぎがきんの老いを慰めてくれた。
晩菊 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
お蝶は、ツとする共に急に胸が一杯になつて直ぐには口が利けなかつた。
お蝶の訪れ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
石の反橋そりはしである。いわと石の、いづれにもかさなれる牡丹ぼたんの花の如きを、左右に築き上げた、めい石橋しゃっきょうと言ふ、反橋そりはしの石の真中に立つて、一息ひといきした紫玉は、此の時、すらりと、も心も高かつた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
(これは別よ)お母さんおかえりになってっとして御褒美頂いて一息いれるつもりでいたら、そちら工合がよいとは云えなくなったので急に気が又張って
これで救われたと思うと重荷を下ろしたようにっとして……、夕立ちがきて涼しくなったのと、雷から解放されて蘇生した喜びとで、人の知らぬ二重の爽快感を
雷嫌いの話 (新字新仮名) / 橘外男(著)
石の反橋そりばしである。いわと石の、いずれにもかさなれる牡丹ぼたんの花のごときを、左右に築き上げた、銘を石橋しゃっきょうと言う、反橋の石の真中まんなかに立って、と一息した紫玉は、この時、すらりと、脊も心も高かった。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
聞いた刹那に彼は、ツとしたのである……ヒロソフアとNが云つたのに無性な羞恥と反感を覚えて顔を赤くしたのであつた。「チエツ! いや驚かないでも好いあんなものは、見るのも厭だよ。」
山を越えて (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「冗談じゃねえよ。あの思いで遙々朝鮮くんだりから還って来てよ、内地へついてっと出来るかと思いゃ、大阪を目の前に見て足どめだ。二日だぜ、もう!」
播州平野 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
私は新聞を置いて、初めてっとしたような気持で眼を窓外へ走らせたが、すでに魂の根柢から驚愕させられ切った今の私には、とんと何ものも眼に入らなかった。
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「おゝ、俺達もこれで漸くつとしたわけだよ。」
円卓子での話 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
国麿は太い呼吸いきとつきて
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と心からっとしたように、祖母はザブリザブリと湯槽ゆおけの中で顔を洗いながら念仏を唱えています。
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
人々はそれでっとしてしまって、腰をおろしナポレオンさんによろしく願ってしまったのね。
ちよつとつとしたかたちです。
趣味に関して (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
溜息ためいきふかく、いて
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
私はやっとっとしましたが、こんなところで、こんな物凄ものすごい犬に襲われようとも思わなければ、馬に乗ったこんな綺麗きれいな女に出逢であおうなぞとは、夢にも思いません。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
この間(二十一日の朝)疲れで顔がはれぼったいようだったのは、宵っぱりの加減ではなく、小母さんたちがマア無事におかえりになってっとして疲れが出たからです。
太き溜息ためいきとつきて
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
八千メートル……八千五百……九千……九千八百メートル……ようやくのことで主砲射程外に逃れ得てっとしたが、その時暮色靉靆あいたいたる左舷西方遥か水平線の彼方に
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
っとしたような安心しきれないような眼つきでサイは机のあたりや戸棚のあたりを眺めた。兵隊に出る年までには商業も出してやるという話で、勇吉は来ているのであった。
三月の第四日曜 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
私は這々ほうほうていで妻の部屋から出て来たが、まったく虎のあぎとのがれたというか、腕白小僧が母親の許から逃げ出して来たというか、っとした気持の中で、さて明日の朝から
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)