こう)” の例文
「そうなりますと、絶体絶命、こうに受けるより手がなくなりました。上手うわてに向っての劫は大損でございますが、仕方がありません」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それが研究所での実験の一頓挫いちとんざと同時に来た。まだ若く研究にこうの経ない行一は、その性質にも似ず、首尾不首尾の波に支配されるのだ。
雪後 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
うぬ贔屓ひいきに目がくらんで、今までは知らなかったが、海に千年、川に千年、こうを経た古狸、攫出つかみだしておつけの実にする、さあせろ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「……寿限無寿限無五こうのすり切れ、海砂利水魚の水行末すいぎょばつ雲来末うんばつ風来末ふうらいばつ、食う寝る所の住む所、やぶら小路藪柑子やぶこうじ……」
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
それがだんだんにこうじて来て、庄兵衛は袂に小さい壺を忍ばせていて、斬られた人の疵口から流れ出る生血なまちをそそぎ込んで来るようになった。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
こうた下女——それもちょいと爪外れの良い年増と、美しい後添のちぞえの女はどんなものか、親分にも見当はつくでしょう。
ことにこの地方ではさるこう経たものとか、狒々ひひとかいう話が今でも盛んに行われて、一層人の風説を混乱せしめる。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
きけばきくほどこうをへた獣の怨霊の執念深さには、ほとほとおそろしさを感ぜずにはいられません。
亡霊怪猫屋敷 (新字新仮名) / 橘外男(著)
身にんだ罪業ざいごうから、又梟に生れるじゃ。かくごとくにして百しゃう、二百生、乃至ないしこうをもわたるまで、この梟身をまぬかれぬのじゃ。つまびらかに諸の患難をこうむりて又尽くることなし。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
積もり重なってこうを経た万年雪は、自重と圧力で、青味を帯びた厖大な氷になってゆらぎだし、地表に大破壊を加えながら、傾斜のあるかぎりどこまでも流れ下ってくるが
白雪姫 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そういう竹を誰でも探しに行く。少し釣がこうて来るとそういうことにもなりまする。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
夜深うしてこうを行ふ彼何の情ぞ 黒闇々中刀に声あり 圏套けんとう姦婦の計を逃れ難し 拘囚こうしゆう未だ侠夫の名を損ぜず 対牛たいぎゆう楼上無状をす 司馬しば浜前はままえに不平を洩らす 豈だ路傍狗鼠くそ
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
浮体ふたいの法、飛足ひそく呼吸いき遠知えんちじゅつ木遁もくとんその他の隠形おんぎょうなど、みなかれが何十年となく、深山にくらしていたたまもので、それはだれでもこうをつめば、できないふしぎや魔力ではない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大方おおかたこうを経たかわおそにでもだまされたのであろう。』などとわらうものもございました。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
『談海』十二に山神の像を言いて「猿のこうをへたるが狒々ひひという物になりたるが山神になる事といえり」、『松屋筆記』に『今昔物語』の美作みまさかの中参の神は猿とあるを弁じて、参は山の音で
あなたは紀伊様のお姫様、お妾腹しょうふくとはいいながら、立派なご身分でございますよ。が、今では木地師の娘、で、だんだんとこうを経て、私たち仲間と同じように、お駕籠なんかに乗りっこなし。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
こうても滅びはすまい。
その時こうを滅す
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
これを亡ぼすのは、さのみむずかしいとは思わぬが、ただ恐るべきはかの妲己という妖女で、彼女かれの本性は千万年のこう金毛きんもう白面はくめんの狐じゃ。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
人の跫音あしおとがするとね、ひっそりと、飛んでかくれるんです……この土手の名物だよ。……こうの経たやつは鳴くとさ
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「何んにもありませんね。もっとも、あの下女のお友というのは出戻りだそうで、世帯の苦労も情事いろごとの苦労もこうが経て居ますから、妙なところへ眼が届きますよ」
「わしは怨霊じゃろと見ている。怨霊も怨霊、よほどこうをへた獣の怨霊じゃな」
亡霊怪猫屋敷 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「小狩衣なぞを着こみ、南蛮頬までつけている。したたかこうを経た狸とみえる」
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
大悲心を発し寂然定じゃくねんじょうに入りて過去無数こうの事を見、帰って師に語るらく、われ昔願あり千身を捨てんと、すでにかつて九百九十九身を捨てたれば、今日この虎のために身を捨てて満願すべしと
それがだんだんにこうじて来て、お元ばあやの止めるのをきかずに、お刺身や洗肉あらいをたべる。天ぷらを食べる。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
こうわたくしどもでさえ、向面むこうづらへ廻しちゃあ気味の悪い、人間には籍のないような爺、目をふさいで逃げますまでも、きついことなんぞわれたものではございませんが
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
下女のお徳も相模女さがみおんなこうを経たので、色恋とは関係もなく、主人を殺した犯人とも思われません。
今日書物で読んでさも自分がり出したように、科学の学識のと誇る事どもも皆過去無数こうの間不文の衆人が徐々に観察し来った功績の積もった結果だから、読書しない人の言を軽んずべきでなく
「——世の中——と来たぜ。お前のお談義だんぎも、だんだんこうを経て、近頃は少し怖くなったよ」
かの大猿はすでに八百年のこうを経て居ります。それで、残念ながら彼に敵することが出来なかったのでございます。しかし我々は人間に対して決して禍いをなすものではございません。
「八五郎の嫁になりたいという茶汲女でもあるのかい。こうたのはいけないよ」
素敵だ、化物退治にそんな筋のがあるぜ、——血の跡を慕って行くと、洞穴ほらあなの中に、狒々ひひこうを経たのが、手傷を受けて唸っていたとね——ところが、こいつはそんな都合には行かないよ。
してくれ。俺はまだ人に拝まれるほどこうちゃいねえ」