冤罪えんざい)” の例文
「これを見ても、郁次郎の冤罪えんざいなることは明白じゃ。あれはわしの子だ! 塙江漢の子だ! そんな極悪人であろうはずがない!」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも天子様はイクラお側の者がいましめてもぬかに釘どころか、ウッカリ御機嫌に触れたために、冤罪えんざいで殺される忠臣が続々という有様だ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
木村が文芸欄を読んで不公平を感ずるのが、自利的であって、そしられれば腹を立て、褒められれば喜ぶのだと云ったら、それは冤罪えんざいだろう。
あそび (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「それほどの人が、御金蔵破り? そりゃ冤罪えんざいであろう、我々の力でどうかしてその冤罪を晴らしてやる工夫はないものかな」
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「妻は睡っていてかえられたものです、実に不思議ですが、その理由がわからないのです、僕が殺したというのは冤罪えんざいです」
陸判 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
人に狐をけるなどという事が一般に信ぜられていたに乗じて、他の者から仕組まれてせられた冤罪えんざいだったかも知れない。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
どこをどう歩いているのか解らずに、ただやたらに足を動かしていた彼は、しばしば「冤罪えんざいだ! 実に恐ろしい冤罪だ!」
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
一朝冤罪えんざいをこうむる場合には、これによりて良心の光明を点じ、いよいよ臨終に迫らば、これによりて安心瞑目めいもくするように心掛くるがよろしい。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
冤罪えんざいこうぶッてはこれを弁解する必要が有る。だからこのまま下へ降りる事は出来ない。何故痩我慢なら大抵にしろと『忠告』したのが侮辱になる。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
もう一つ若杉さんの心理に動いていた感情は、どんなことがあっても、冤罪えんざいの人を作ってはならぬという考えでした。
若杉裁判長 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その熱心な奔走の結果、翌日の新聞紙の広告欄には、二段抜きで、知事令夫人以下十四五名の貴婦人の連名で早月親佐さつきおやさ冤罪えんざいすすがれる事になった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
つまり自分の妻を奪われた上に、その妻の父親が自分の家臣である故を以て、連累者と目されたのであるから、此のくらい馬鹿々々しい冤罪えんざいはない。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
わたくしの致した事を、もし不断の尺度で、日常生活の尺度で量って下さいましたら、それはわたくしのためにひどい冤罪えんざいになるのでございますから。
彼は息子が冤罪えんざいとばかりかたくなに信じているので、思い出せばやり場のない憤怒と絶望の念を抑え得ぬのである。
土城廊 (新字新仮名) / 金史良(著)
自分は冤罪えんざいによってどんなことが過去にあったというようなことを少しでも仰せになることはございません。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
これは少し冤罪えんざいであった。勿論もちろんこの銀行員の風采は、伯爵中尉と比べることは出来ない。しかし世間並せけんなみから言えば、かなりの男振りで、立派に通用するのである。
ないしょに急いで古島雛こじまびな男雛おびなを一つ、——ようござんすか、ここがだいじでもあり、あたしの冤罪えんざいの晴れる急所でもございますから、よくお聞きくださいましよ。
飛んだ冤罪えんざいこうむったものだ。こいつは滅多めったれないと三毛子にはとうとう逢わずに帰った。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
飽くまで尊攘の名義を重んじ一橋慶喜の裁断に死生を託し宍戸侯の冤罪えんざいを晴らさないことには済まないと考える武田とは、最初から必ずしも同じものではなかったのだ。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかし裁判は決定して、佐藤君は不敬罪の方でも有罪となり、我々はみな一緒に千葉に送られた。ところで我々の問題が起こった。佐藤君は冤罪えんざいを着ているのではないか。
赤旗事件の回顧 (新字新仮名) / 堺利彦(著)
尋ねて見ようにも言葉は通ぜず、さもさもそんな事は冤罪えんざいであるかのごとく、平気な顔をして一日中その樹の下を飛びまわって、もう次の日にはいずれへか出発してしまった。
狐が化けるなどは、狐にとって、とんでも無い冤罪えんざいであろうと思う。もし化け得るものならば何もあんな、せま苦しいおりの中で、みっともなくうろうろして暮している必要はない。
女人訓戒 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「そうですよ。こりゃ、たしかに冤罪えんざいですな。……ひょろ松、お前の意見はどうだ」
そうして彼はたった一つのカフスボタンのために、冤罪えんざいの悲運に陥るのであろう。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
それは冤罪えんざいです、全く冤罪です。昨日も云う通り、僕はった一度彼家あすこへ行ったりで、あの女と何等の関係も無いんです。先方むこうではう思っているか知らんが、此方こっち清浄しょうじょう潔白です。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
暗中に葬り去られた場合をおもんぱかって、かつ又、有力なる其筋の刑事によって証明せられた事実を裏切る私の陳述が、仮令たとえ採用せられたとしても、事後に於て我が尊敬する、富田博士の冤罪えんざい
一枚の切符 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
誓って冤罪えんざいはおせ申しません。どれ、そんなら、雲をつかんで、裁判しようか。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「今度のことは全然冤罪えんざいですから、どうか皆さんにそう言って下さい。」
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
これは併し冤罪えんざいである事は、後世の歴史家が既に証明している。
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「うむ」と左伝次は顔を曇らせ、「しかもそれが冤罪えんざいでな」
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それでも、犬死でないと思うか。真に、師の冤罪えんざいそそごうと思うならば、まずおまえ自身から身をそそいで見せねばなるまい。——それを
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、何とかして、側面から、お角が急を訴えている冤罪えんざいの者の助命をしてやらなければならぬ。新撰組なるものの威力が、果して間に合うだろうか。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
……嘘です……嘘です……間違いです……この手錠を取って下さいッ……冤罪えんざいです。僕は無罪です。……僕はあの女を知ってます。けども関係はありません。
冗談に殺す (新字新仮名) / 夢野久作(著)
冤罪えんざいこうむって漂泊してまわる運命を自分が負ったことも、この姫君が明石で生まれるためなのであった。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
その中には、死後永く冤罪えんざいをこうむり、地下にありてめいすることのできないものもありましょう。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
吉田兼好けんこうを色法師と謂うのは冤罪えんざいだそうなが、とにかく平生へいぜいの練習があればこそ代作も頼まれるので、現に同じ時代の頓阿とんあの集などを見ると、逢恋別恋の題詠が幾らでもある。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
おかげで僕たちが、ほら、いつか、冤罪えんざいをこうむった事があったじゃありませんか。
眉山 (新字新仮名) / 太宰治(著)
これぞ余が冤罪えんざいを身に負いて、暫時の間に無量の艱難かんなんけみし尽くすなかだちなりける。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
すると佃は、自分にかけられた冤罪えんざいに驚いたと云うように
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
綾子はあくまで冤罪えんざいの恨みごとを言い立てる。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それを牢舎ろうやに下げるには、どんな軽罪な者でも、即座に「仮吟味かりぎんみ」を開き、一応、奉行自身が冤罪えんざい偽構ぎこうの事件であるかないかを確かめた上、奉行の口から
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雲助にとっては大きな冤罪えんざいであるが、その事は後に談ずることとし、とにかく、この場に於ける二人のたくましい雲助は、この地点までまっしぐらに走って来たが
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
冤罪えんざいのために、思いも寄らぬ国へ漂泊さまよって来ていますことを、前生に犯したどんな罪によってであるかとわからなく思っておりましたが、今晩のお話で考え合わせますと
源氏物語:13 明石 (新字新仮名) / 紫式部(著)
その物品の形状色彩に似たる児の生まるべき事、必ずしも不合理にあらざるべきを、例を挙げ証を引いて説明せしかば、王のうたがいようやくにして解け、王妃と黒奴との冤罪えんざいも残りなく晴れて、唯
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
初めて、将門の冤罪えんざいを解いて、その神田祭りを、いっそう盛大にさせた人は、烏丸大納言光広であった。寛永二年、江戸城へ使いしたとき、その由来をきいて
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さらしにかけたのは、こいつならば、よし冤罪えんざいに殺しても、後腹あとばらの病まない無籍者だから、時にとっての人柱もやむを得ないと、当人ではない、役人たちが観念して
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
冤罪えんざいであるという自信を持って京に留まっていますことも朝廷へ済まない気がしますし、今以上の厳罰にあわない先に、自分から遠隔の地へ移ったほうがいいと思ったのです
源氏物語:12 須磨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「む、む、そうじゃろう。誰かの、悪戯にちがいない。おまえにとっては、まったくの冤罪えんざいだろう。もし、そんなものを、承知しながら流布するならば、警察の力を借りて」
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みすみす冤罪えんざいで陥れられるものもあるのだから——そう絶望するがものはない。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「それはみんなトリックです、私の、何かの写真を盗んで、悪戯いたずらをしたんです、冤罪えんざいです」
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)