円顔まるがお)” の例文
旧字:圓顏
美髪のどちらかといえば円顔まるがおの眉の凛々しくつまって、聡明な眼の、如何にも切れそうな態度でいい。余程よほどのラジオ狂らしい。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
長い顔にも円顔まるがおにもそれぞれに特長があります。そしてそれらは皆それぞれに美人の資格となることが出来ると思います。
朝顔日記の深雪と淀君 (新字新仮名) / 上村松園(著)
念のためにもう一度繰り返すと、顔は美人と云うほどではない。しかしちょいと鼻の先の上った、愛敬あいきょうの多い円顔まるがおである。
お時儀 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
気がつくと、もう黄色い朝暾あさひに浴びた末弟の虎吉が、若々しい声と一緒にニコニコした円顔まるがおを窓からのぞかせていた。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
別にいい女ではないが、円顔まるがおの非常に色の白いことと、眼のぱっちりして、目に立つほど睫毛まつげの濃く長いことが、全体の顔立を生々いきいきと引立たせている。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
入口の処に小間使こまづかい風のわかい女が用ありそうに立っていた。山西はまた怪しい小女こむすめではないかと思って好く見たが、それは十八九に見える円顔まるがおの女であった。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
色の白い愛嬌あいきょうのある円顔まるがお、髪を太輪ふとわ銀杏いちょう返しに結って、伊勢崎の襟のかかった着物に、黒繻子くろじゅすと変り八反の昼夜帯、米琉よねりゅうの羽織を少し衣紋えもんはおっている。
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
またなんという画家の手に成ったものか、角のないその字体と感じのまるで似た、子供といえば円顔まるがおの優等生のような顔をしているといったふうの、挿画のこと。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
かおはどちらかといえば円顔まるがおるからにたいそうお陽気ようきで、お召物めしものなどはいつもおもった華美造はでつくり、丁度ちょうどさくらはなが一にぱっとでたというようなおもむきがございます。
身体からだも大きく、心持も大人おとなびて居りますが、信子はまだほんの十六になったばかり、可愛らしい円顔まるがおにお河童かっぱで、碧色あおいろの勝った、更紗さらさボイルの洋服も、又なくハイカラですが
天才兄妹 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
円顔まるがおのくるりとしたおとこが、しろ上着うわぎて、ただ一人ひとりひかえていましたが、めったにきゃくはいっているのをませんでした。なんとなく、みすぼらしく、それに狭苦せまくるしいかんじがしたからでしょう。
子供の床屋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
夢の再現のうちに映ずるのは、そんな表情をもった円顔まるがおの少女である。
「京葉さんはいますか。」ときくと、直に家の内から、小づくりの円顔まるがお。髪はつぶしにたけながを結んだ女が腰の物一枚、裸体のまま上框あがりがまちへ出て来て
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それからまたある円顔まるがおの女生徒が好きになったのも覚えている。ただいかにも不思議なのは今になって考えてみると、なぜ彼女を好きになったか、僕自身にもはっきりしない。
追憶 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
島田にって弱々しく両肩のさがった小作りの姿と、口尻くちじりのしまった円顔まるがお、十六、七の同じような年頃とが
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
平吉は、円顔まるがおの、頭の少し禿げた、眼尻に小皺こじわのよっている、どこかひょうきんな所のある男で、誰にでも腰が低い。道楽は飲む一方で、酒の上はどちらかと云うと、まずいい方である。
ひょっとこ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「へえ。君江さんが……。」と小松といわれた男は円顔まるがおの細い目尻にしわをよせて笑う。年はもう四十前後。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
マダム、シュールは西洋の老女にはよく見るような円顔まるがおの福々しくほおの垂れ下った目の細い肥った女である。日常の日本語は勿論もちろん不自由なく、漢文も少しは読める。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
眼のふち小皺こじわ雀斑そばかすとが白粉で塗りつぶされ、血色のよくないくちびるべにで色どられると、くくりあご円顔まるがおは、眼がぱっちりしているので、一層晴れやかに見えて来るばかりか
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ひたいと目尻に深いしわが刻み込まれた円顔まるがおには一杯油汗をかいていながら、禿頭はげあたまへ鉢巻をした古手拭ふるてぬぐいを取ってこうともせず、人のさそうな細い目を絶えずぱちくりさせている。
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
つぶしに大きな平打ひらうち銀簪ぎんかんざし八丈はちじょう半纏はんてん紺足袋こんたびをはき、霜やけにて少し頬の赤くなりし円顔まるがお鼻高からず、襟白粉えりおしろい唐縮緬とうちりめん半襟はんえりの汚れた塩梅あんばい、知らざるものは矢場女やばおんなとも思ふべけれど
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)