傍見わきみ)” の例文
藤吉郎は、彦右衛門と他一人を連れたのみで、煙にまぎれて、城壁の内側を西へ西へ傍見わきみもせず走り、やがて七曲り口の木戸へくると
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「下座は一人休んで、半助とお百という夫婦が忙しく働いている。綱渡りが始まると、女房の三味線に亭主のかね傍見わきみもできない」
そして、何事もなかつたやうな又何事もないやうな顔で、その汚い垢だらけの顔面から小さい眼だけをきらつかせ傍見わきみをして近づいて行く。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
傍見わきみもせずに足にまかせてそのあとにいて行った彼は、あやうく父の胸に自分の顔をぶつけそうになった。父は苦々しげに彼を尻目にかけた。
親子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
虫が知らすとでも云うのか、何だかこう、傍見わきみをしているすきに何事か起り相で、どうも外へ目を向けられなかったのだ。
D坂の殺人事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
当座こちらではじめてから毎晩、毎晩来て下すって、あの可愛らしい顔をして傍見わきみもしないで見ていて下さるじゃありませんか。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白石は、ときどき傍見わきみをしていた。はじめから興味がなかったのである。すべて仏教の焼き直しであると独断していた。
地球図 (新字新仮名) / 太宰治(著)
傍見わきみなんかしてちゃアいけません。その箱を下に置くんですよ。それがすんだら、お前達は向うへ行くんですよ。」
その青年を国王の目の前に連れてきた大尉は、その本が焼かれる時、ふと国王が傍見わきみせられた隙に、手早く火の中から一冊を抜きとって懐中ふところへ隠した。
傍見わきみをせずたゞ一心に、忠実に、自己の道に進むといふ、さう云ふ、決心を絶えずゆるめないで引きしめてゐる、私の頭の中を幾度となく、私が両親を欺いて
日記より (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
(それは四つ五歳いつつのころのことだが——)私は父が傍見わきみをしながら猪口おちょこを口にはこんで、このわたが咽喉のどにつかえたのを見てから、いつもはさみをもって座っていた。
「それは、よく見届けませんでしたが、二人がこうして傍見わきみをしているかいない間に、もうあすこまで一飛びに飛んで行ったんですから、おおかた羽が生えたんでしょう」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
緑の上衣の若者を一寸ハムレットかと思うたら、そうではなくて、少し傍見わきみをして居た内に、黒い喪服もふくのハムレットが出て来て、低い腰掛こしかけにかけて居た。余は熟々つくづくとハムレットの顔を見た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
松の浮根に乗っていた小供は、源吉がそうして一心になって傍見わきみもしないのを見きわめると、手をあげて皆を招くようにしておいて、先ずじぶんで爪立ちながら跫音のしないようにして歩きだした。
放生津物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その眼がたまたまぬすみ視したところが、それは別に意味も無い傍見わきみに過ぎないと、かの女は結論をひとりでつける。そして思いやり深くその労役ろうえきの彼等を、あべこべに此方こちらから見返えすのであった。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
おしゃべりをしたり傍見わきみをしたりするようなこともなかった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ひたいに汗をにじませ、酒も少し手伝っているらしい顔色をして、本位田又八は、五条から三年坂へ傍見わきみもせず駈けて来た。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
暫く傍見わきみをしていて、ひょいと目を元に戻すと、いつの間にか、窓の鉄棒のうしろに、胸から上の、二つの顔が並び、四本の手が鉄棒を掴んでいた。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ぐにのこつたのに醤油したぢをつける。ほとんくうで、やつこは、あひだれいの、をきよろつかせる、はなをひこつかせる、くちびるをへしげる。石頭いしあたまる、ごすりをする、傍見わきみをする。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
無心そうにあちこち傍見わきみなどなさりながら、ひらりひらりと、まるで小さな翼のようにスプウンをあつかい、スウプを一滴もおこぼしになる事も無いし、吸う音もお皿の音も
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
久助は傍見わきみをしていたが、馬上のお雪ちゃんは、ハッキリとそれを認めて
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
儂自身東京から溢れ者の先鋒でありながら、滅多な東京者に入りまれてはあまり嬉しい気もちもせぬ。洋服、白足袋の男なぞ工場の地所見に来たりするのを傍見わきみする毎に、儂は眉をひそめて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
さて、傍見わきみをしないで、急ぎましょう。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
弘一君が黯然あんぜんとして云った。私は答えるすべを知らなかった。母夫人は傍見わきみをして目をしばたたいていた。
何者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「そうだ」馬場はことさらに傍見わきみをしながら、さもさもわざとらしい小さなあくびをした。
ダス・ゲマイネ (新字新仮名) / 太宰治(著)
おのずから肩の嬌態しな、引合せた袖をふらふらと、台所穿ばきをはずませながら、傍見わきみらしく顔を横にして、小走りに駆出したが、帰りがけの四辻を、河岸の方へ突切ろうとする角に、自働電話と
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
傍見わきみばかりしているなッ」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これよりさき雪枝ゆきえ城趾しろあと濠端ほりばたで、老爺ぢいならんで、ほとん小学生せうがくせい態度たいどもつて、熱心ねつしんうをかたちきざみながら、同時どうじ製作せいさくしはじめた老爺ぢい手振てぶりるべく……そつ傍見わきみして、フトらしたとき
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
傍見わきみがてら、二ツ三ツ四ツ五足に一ツくらいを数えながら、靴も沈むばかり積った路を、一足々々踏分けて、欽之助が田町の方へ向って来ると、鉄漿溝おはぐろどぶが折曲って、切れようという処に、一ツだけ
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
傍見わきみをしながら
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)