ここの)” の例文
その一夜の風雨にて、くるま山の山中、俗にここのこだまといひたる谷、あけがたにそまのみいだしたるが、たちまふちになりぬといふ。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
私のここのとおのころでございます、よく母に連れられて城下から三里奥の山里に住んでいる叔母の家を訪ねて、二晩三晩泊ったものでございます。
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
八五郎はここの梯子ばしごを一丁、物置の軒から持って来て、庭の四角な跡にえました。ピタリと梯子の跡が合います。
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
シャロットの女はまなこ深く額広く、唇さえも女には似で薄からず。夏の日ののぼりてより、刻を盛る砂時計のここのたび落ち尽したれば、今ははやひる過ぎなるべし。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
途中万一を思って、娘を送らせた金吾は直ちに戻ることと思っていたが、かれがそこに落着いて、湯浴ゆあみをすまし、服をかえ、ここのどきの時計を聞く頃になっても帰邸しない。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四三管仲くわんちゆう四四ここのたび諸侯をあはせて、身は四五倍臣やつこながら富貴は列国の君にまされり。四六范蠡はんれい四七子貢しこう四八白圭はつけいともがら四九たからひさぎ利をうて、巨万ここだくこがねみなす。
小ぎれもの掻集かきつめ送る菰巻に古綿たたねキャラメルここの
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
やめずにとめずにここのとう
黒い頭 (新字新仮名) / 夢野久作海若藍平(著)
ここのたび歌よみに与ふる書
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ここのゥつの、豆の数より
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
我が藤子ふぢこここのつながら
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
しかも此の霧の中に、野面のづらかへすひづめの音、ここのツならずとおならず、沈んで、どうと、あたかも激流の下より寄せ気勢けはい
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「端渓で鴝鵒眼くよくがんここのつある」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ここのそ。
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ある瞳にきっと射られて、今物語った人とも覚えず、はっと思うと学生は、既に身を忘れ、名を忘れて、ただここのツばかりの稚児おさなごになった思いであった。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
民也はここのツ……十歳とおばかりの時に、はじめて知って、三十を越すまでに、四度よたび五度いつたびたしかに逢った。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここのこだま——ここはね、ここのこだまといふところなの。さあもうおとなにして寝るんです。」
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
蹴飛けとばしやらむ、かきむしらむ、すきあらばとびいでて、ここのこだまとをしへたる、たうときうつくしきかのひとのもとげ去らむと、胸のきたつほどこそあれ、ふたたび暗室にいましめられぬ。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
つのここのつある、竜が、かしらかぶとに、尾を草摺くさずりに敷いて、敵に向ふ大将軍を飾つたやうに。……けれども、虹には目がないから、わたしの姿が見つからないので、かしらを水に浸して、うなだれしおれて居る。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
七八ななやここのツばかり、母が存生ぞんしょうの頃の雛祭ひなまつりには、毛氈もうせんを掛けた桃桜ももさくらの壇の前に、小さな蒔絵まきえの膳に並んで、この猪口ちょこほどな塗椀ぬりわんで、一緒にしじみつゆを替えた時は、この娘が、練物ねりもののような顔のほかは
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)