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しやうとう
と、
高き
調は
荒鷲の、
風を
搏いて
飛ぶごとく、
低き
調は
溪水の、
岩に
堰かれて
泣く
如く、
檣頭を
走る
印度洋の
風、
舷に
碎くる
波の
音に
和して、
本艦々上、
暫時は
鳴も
止まなかつた。
檣頭高く日を射す
提督旗。——
遠き
島は
近く
見え、
近き
船は
却て
遠く
見え、
其爲に
數知れず
不測の
禍を
釀して、
此洋中に
難破せる
沈沒船の
船體は
既に
海底に
朽ちて、
名殘の
檣頭のみ
波間に
隱見せる
其物凄き
光景を
吊ひつゝ
室外には
舷に
碎くる
浪の
音、
檣頭に
走る
風の
聲、
艦橋に
響く
士官の
號令。
海面より
高き
白色の
光は
海上法に
從ひ
甲板より二十
尺以上高く
掲げられたる
檣燈にて、
今や、
何等かの
船は、
我が
弦月丸の
後を
追ふて
進航しつゝ
來るのであつた。
安全進航の
表章となるべき
球形の
檣燈が、
何かの
機會で
糸の
縁を
離れて、
檣上二十
呎ばかりの
所から
流星の
如く
落下して、あはやと
言ふ
間に
船長が
立てる
船橋に
衝つて、
燈は
微塵に
碎け