-
トップ
>
-
檣頭
>
-
しやうとう
と、
高き
調は
荒鷲の、
風を
搏いて
飛ぶごとく、
低き
調は
溪水の、
岩に
堰かれて
泣く
如く、
檣頭を
走る
印度洋の
風、
舷に
碎くる
波の
音に
和して、
本艦々上、
暫時は
鳴も
止まなかつた。
檣頭高く日を射す
提督旗。——
遠き
島は
近く
見え、
近き
船は
却て
遠く
見え、
其爲に
數知れず
不測の
禍を
釀して、
此洋中に
難破せる
沈沒船の
船體は
既に
海底に
朽ちて、
名殘の
檣頭のみ
波間に
隱見せる
其物凄き
光景を
吊ひつゝ
室外には
舷に
碎くる
浪の
音、
檣頭に
走る
風の
聲、
艦橋に
響く
士官の
號令。