風丰ふうぼう)” の例文
中に一人、清く痩せて、脊のすらりとした三十歳ばかりの、色の白い、明眸の道士が芥川龍之介さんの風丰ふうぼうを聯想させるのであつた。
現代の教養があまねく深くその風丰ふうぼうに浸潤しているので、早く世を去って現代の風にあたる事なく終った団十郎よりは複雑である。
九代目団十郎の首 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
何の事はない、緑雨の風丰ふうぼう、人品、音声、表情など一切がメスのように鋭どいキビキビした緑雨の警句そのままの具象化であった。
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
南条、五十嵐のほかのもう一人は、やはり同じようにもとどりをあげた壮士でありまして、才気風丰ふうぼう、おのずから凡ならざるものがあります。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その人物は、後々のちのちまで、この物語に重大な関係を持っているので、ここにやや詳しくその風丰ふうぼうしるしておく必要がある。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これは明末みんまつの人の雑筆に出てゐるので、其の大分に複雑で、そして其談中に出て来る骨董好きの人〻や骨董屋の種〻の性格風丰ふうぼうがおのづと現はれて
骨董 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
風丰ふうぼうにおいて性行において大いに類似を示した兄には、そうした大志を自分はいかにもふさわしく考えるのである。
茶の本:01 はしがき (新字新仮名) / 岡倉由三郎(著)
皮肉屋だけれど、風丰ふうぼうは整っている方だから、女性に思いをかけられないとは断言出来ない。あの野郎何を吐かすかという興味から、会が又開かれた。
妻の秘密筥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ほんとに三重にたたまってたれている顎を七面鳥の肉髯のようにふるわしながら流暢りゅうちょうな日本語で話すクラウデの風丰ふうぼうは、そのみがきのかかり工合といい
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
先方へ行くと、驚いたことに、隠居の老婦人は、奥座敷の坐蒲団ざぶとんの上に端然として坐って居ました。けれども、私が一層驚いたのは、隠居さんの風丰ふうぼうです。
血友病 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
確に彼にそんなにも饒舌らせた屋敷の風丰ふうぼうが軽部の心をそのとき浮き上らせてしまったのにちがいないのだ。
機械 (新字新仮名) / 横光利一(著)
貞固は好丈夫こうじょうふ威貌いぼうがあった。東堂もまた風丰ふうぼう人に優れて、しかも温容したしむべきものがあった。そこで世の人は津軽家の留守居は双璧そうへきだと称したそうである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
今の帝大学生は既に先生の風丰ふうぼうを知らず、在りし日の面影をしのぶよすがもないから、あの銅像が本尊に似なくても、何等の痛痒を感ぜぬだらうが、少しでも
浜尾新先生 (新字旧仮名) / 辰野隆(著)
白い顔に薄い紅味あかみを帯びて、見るから色艶のいい、頬の肉の豊かな、ちっとも俗人と変わらないみずみずしい風丰ふうぼうを具えているのが、村の若い者の注意をひいた。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
僕はそれからしばらくののち、この中学生と電車に乗り、偶然その先生の風丰ふうぼうに接した。するとそれは、——僕もやはり文章ではとうてい真実を伝えることはできない。
追憶 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
少し仰向いて四方あたり睥睨へいげいする男——このカリカチュアで、戸田樹一の風丰ふうぼうを想像して下さい。
ここと言って指すわけには行かないが、風丰ふうぼうが何処となくいかつい。また、腹の両側に開いた双の鰭の間に、臍に似た瘤が隆起しているのを特徴とする。色は、真紅ではない。
葵原夫人の鯛釣 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
あんなに無粋ぶいき肩幅かたはばのある人とは思わなかった。あんなに角張かくばったあごの所有者とは思わなかった。君の風丰ふうぼうはどこからどこまで四角である。頭まで四角に感じられたから今考えるとおかしい。
長谷川君と余 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
天下みな非とするもこれを疑わざる自信力、みずから造化の寵児ちょうじを以て任じ、天民の先覚を以て居る大抱負、その荘容そうよう森貌しんぼうにして、巍々ぎぎ堂々たる風丰ふうぼう、その古今に通じ天人を極めたる博学精識
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
そして、根府川の千鳥ヶ浜で、剣と剣とをもって生死の境に面接した時の彼よりも、遙かに脅迫的な日本左衛門のむッつりした風丰ふうぼうが今も自分の背中に、こびりついているように感じられる。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実に悲しくも滑稽こっけいにして颯爽さっそうたる風丰ふうぼうは今でも記憶に新たである。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
弾正太夫の風丰ふうぼう
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
六十七歳で眠るが如く大往生を遂げた。天王寺墓域内、「吉梵法師」とろくされた墓石は今なお飄々ひょうひょうたる洒脱の風丰ふうぼうを語っておる。
大学助手の越智の格子戸のはまったささやかな家、その上金銭に関して鷹揚とも思えない風丰ふうぼうの越智。
二つの庭 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それに依って私はイヴロバッツ氏の示教を受け、且、遥かに氏の学者的な風丰ふうぼうを想う傍ら、更らに彼の友であり、真の革命家であるFの面影をも偲ぶよすがにしたいと思った。
二人のセルヴィヤ人 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
余が親しく風丰ふうぼうを見た人物のうちでは救世軍の開祖ウイリヤムブース大将を以て最大不朽なる人物とする、日本へ来戦された当時東京座に於てブース大将の演説会が開かれた時
生前身後の事 (新字新仮名) / 中里介山(著)
も一ツ古いはなしをしようか、これは明末みんまつの人の雑筆に出ているので、その大分に複雑で、そしてその談中に出て来る骨董好きの人〻や骨董屋の種〻の性格風丰ふうぼうがおのずと現われて
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
わたしがひそかに想像していた桜痴居士その人とは、その風丰ふうぼうも態度もよほど違っていて、初対面から親しみやすい人のように感じられたのを、わたしはなんとなく嬉しく思った。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そのお連れである近衛信尹のぶただというのは、光広よりは年も十ほどは上であろう。どこか重々しい風丰ふうぼうがあり、眉もひいでているが、豊かに浅黒いその頬に薄あばたのあるのが世間並にいえばきずである。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かつて維新革命前の故老を訪い、以て彼が風丰ふうぼうを聴くを得たり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「紅子戯語」には当時の硯友社の生活がけるが如くに描かれ、幹部の八人の風丰ふうぼう動作が紙上におどり出している。
そのしょうを知らんとするものは、明史みんし及び明朝紀事本末みんちょうきじほんまつに就きて考うべし。今たゞ其概略がいりゃくと燕王恵帝の性格風丰ふうぼうを知るきものとを記せん。燕王もと智勇天縦ちゆうてんしょうかつつとに征戦に習う。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
大庄屋の親分といったような家康の風丰ふうぼうが眼の前にちらついて来る。
武州喜多院 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ゆるぎなきリアリストという風丰ふうぼうです。
かえって当の美妙斎よりはその時美妙に紹介された同席の中根香亭の清癯鶴せいくづるのような表々たる高人の風丰ふうぼうが今でもなお眼に残っている。香亭は幕人であった。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
邦人にして独逸ドイツ語を以て独逸人の前で演説したのは余を以て嚆矢こうしとすというような論鋒ろんぽうで、一々『国民新聞』所載の文章を引いては、この処筆者の風丰ふうぼう彷彿ほうふつとして見はると畳掛たたみかけて
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
ようやく復活して頭を擡上もちあげ掛けると、たちまた地震のためにピシャンコとなってしまったから、文壇の山本伯というはこけの下の二葉亭も余りありがたくないだろうが、風丰ふうぼうが何処か似通にかよっている。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
さて犬族一統の中で、此「ドール」君の風丰ふうぼうを最も能く伝へてゐるは我々日本犬だよ。耳から尻尾の具合、面貌かほつきまでが頗るておる。殊に勇武絶倫、猛獣を物ともせざる勇敢の気象が丸出しである。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)