くづ)” の例文
竹苑椒房の音に變り、やぶくづれたる僧庵に如何なる夜をや過し給へる、露深き枕邊に夕の夢を殘し置きて起出で給へる維盛卿。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
突然のやうに、眼の前の大きな邸宅が大砲か爆弾に破壊されて、煉瓦や鉄筋コンクリイトが、ばらばらにくづれて落ちて来た。
大凶の籤 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
何を見てもしづむ光彩くわうさいである。それで妙に氣がくづれてちつとも氣がツ立たぬ處へしんとしたうちなかから、ギコ/\、バイヲリンをこする響が起る。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
しさもあらば、貫一はその身の境遇とともに堕落して性根しようねも腐れ、身持もくづれたるを想ふべし、とかくは好みて昔の縁をつなぐべきものにあらず。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
くづれたる家の傍、斷えたる水道の柱弓せりもちほとりを、夢心に過ぎゆけば、血の如く紅なる大月たいげつ地平線よりまろがり出で、輕く白きもや騎者のりてかうべめぐりてひらめき飛べり。
一人は俗謡らしい物を歌ひ一人は口笛を吹いて其れに合せて居る労働者にも其処そこで逢つた。サン・ロレンツオ寺のくづれた古廊こらうも秋の季節に見るべき物である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
彼かくくづれて地にありしに、塵おのづからあつまりてたゞちにもとの身となれり 一〇三—一〇五
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
どうおとするを見れば、斯は如何に紅色くれなゐの洋装婦人と踊り狂へる六尺ゆたかの洋人の其の鼻もつととびに似たるが、床の滑かなるに足踏み辷らして、大山のくづるゝ如く倒れしなりけり。
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
暫く見つめて居るうち、一尾の魚が彼のはりにかゝつたらしい。彼は忽ち姿勢をくづして、腰から小さな手網を拔きとり、竿をたわませて身近く魚を引寄せ、つひに首尾よく網の中に收めて了つた。
古い村 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
さあれ、城山に登りて見る、本丸、二の丸、三の丸の跡は、青き苔と、女蘿ひかげ、蔦などに掩はれたる石垣の所々に存するあるにすぎず。それさへ歳々とし/\くづれ墜つといふ、保存の至らぬは悲むべし。
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
くづれた築地の上に聳える
日まはり (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
土にくづるるおと聞けば……
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
えはくづほれぬ勢や
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
はるか木隠こがくれの音のみ聞えし流の水上みなかみは浅くあらはれて、驚破すはや、ここに空山くうざんいかづち白光はつこうを放ちてくづれ落ちたるかとすさまじかり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
月の光にすかし見れば、半ばくづれし門のひさし蟲食むしばみたる一面の古額ふるがく、文字は危げに往生院と讀まれたり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
くづちたるついぢの石に、三頭の馬を繋ぎたるが、皆おの/\顋下さいかりたる一束のまぐさを噛めり。
燐寸会社の古いくづれた煉瓦塀に沿ひながら、彼らは歩いて行つた。まだ寒い頃だ。風が吹いて、ウメ子の黒い肩掛がヒラヒラした。話のとぎれた時、突然、ウメ子は云つた。
反逆の呂律 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
中には活々いき/\青草あをくさえている古いくづれかけた屋根を見える。屋根は恰で波濤なみのやうに高くなツたり低くなツたりして際限さいげんも無く續いてゐた。日光の具合で、處々光ツて、そしてくろくなツてゐる。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
身も魂もくづをれぬ、いでこのままに常闇とこやみ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
土壘くづたひらぎ
駱駝の瘤にまたがつて (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
子爵は心に喜びつつ写真機の前に進み出で、今や鏡面レンズを開かんと構ふる時、貴婦人の頬杖はたちまくづれて、その身は燈籠の笠の上に折重なりて岸破がばと伏しぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
灰汁あくやうのものを鍋の表面に浮かべてゐたし、また、すし屋の塵芥箱ごみばこから、集めて来たらしい、赤い生薑しやうがの色がどぎつく染まつた種々雑多の形のくづれたすしやら——すべて、異臭を放ち
釜ヶ崎 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
この岸は土ゆるければ、踏むに從ひてくづるることありといへり。そが上、岸近きところには水牛あまたあり。こは猛き獸にて、怒るときは人を殺すと聞く。されど我はこの獸を見ることを好めり。
膝もくづさず端坐たんざせる姿は、何れ名ある武士の果ならん。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
石のきざはしくづれ落ち、水際みぎはに寂びぬ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
おきよはますます硬い表情でとり残されると云った工合であつた、不健康な生活のために二十五だと云ふのに、肌理きめすさんで、どことなくくづれて来た容貌がすでに男をかなくなつただけではなく
一の酉 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)