雑言ぞうごん)” の例文
旧字:雜言
黙れ黙れえい老耄おいぼれ! 場所もあろうに他人ひとの前、吾を大盗とかしたな! 虎狼の心を抱いた姿と吾に雑言ぞうごんしたからには虎狼の姿を
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ええ、この……女!」と彼はふいにありたけの雑言ぞうごんを並べながら、のども裂けよとばかりどなりつけた。(喪服の婦人はもう帰っていた)。
と、当惑し切ってもじもじしている茶坊主をつかまえて、殿へも聞えよがしの雑言ぞうごん。たまりかねて野田武蔵、ぐいと百石衛門の方に向き直り
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その夜も険しく眉をひそめて居りましたが、私の甥に向いましても、格別雑言ぞうごんなどを申す勢いはなかったそうでございます。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
右の袖をブラリとゆりうごかし左手に大刀の柄をおさえた異様な浪人者だから、今の雑言ぞうごんでテッキリ斬られると思った屑屋。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
幼少からわしの側に侍していた其方そちのことゆえ、わしの前では、甘えていうものとしてゆるすが、人なかではいうな。めったに、そのような雑言ぞうごん
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
啖呵たんかを切ったものですから、浪人とはいえ、武士の手前、この雑言ぞうごんにムッとするかと思うと、釣を楽しんでいる浪人はかえってなごやかに笑いました。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と法外な雑言ぞうごんを申しますから、恒太郎がこらえかねて拳骨を固めて立かゝろうと致しますを、清兵衛がにらみつけましたから、歯軋はぎしりをしてひかえて居ります。
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「なにッ。雑言ぞうごん申して何を言うかッ。小地たりとも美濃八幡二万四千石、従四位下を賜わる遠藤主計頭じゃ。貴殿に応対の用はない。とく帰らっしゃい」
おのれは舌がやわらかなるままに、口から出るに任せてさまざまの雑言ぞうごんをならべ、この実雅をちりあくたのように言いおとしめたことを、おれはみな知っている。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
互いに悪口雑言ぞうごんをし合っていますうちに、相手の男が、親方のお古を頂戴してありがたがっているような意久地なしは黙って引っ込めと怒鳴ったものとみえます。
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
実際この内儀さんのはしゃいだ雑言ぞうごんには往来の人たちがおもしろがって笑っている。君は当惑して、そりの後ろに回って三四間ぐんぐん押してやらなければならなかった。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
世間から何一つ批難をお受けにならない大臣を、出まかせな雑言ぞうごんで悪く言うのはおよしなさい。
源氏物語:31 真木柱 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「許しておけば無礼な雑言ぞうごん、重ねていはば手は見せまじ」「そはわれよりこそいふことなれ、爾曹如きと問答無益むやくし。怪我けがせぬうちにその鳥を、われに渡してく逃げずや」
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
諸人の眼にさらされて沿道に溢れる悪口雑言ぞうごんを浴びながら、蒼白な顔に太々しい笑みをたゝえつゝ傲然ごうぜんと曳かれて行ったであろう父の餘りな鼻柱の強さが、見ることはおろか
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ところが江戸から連れていった猪山勇八いのやまゆうはちというのが事をあせって内々村方へ借金の強談判こわだんぱんに行ったから、村中が評議したのち竹槍を手に手に宿舎をとりまいて雑言ぞうごんをあびせる。
安吾史譚:05 勝夢酔 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
佐渡守だったから、いいが、もし今日のような雑言ぞうごんを、列座の大名衆にでも云ったとしたら、板倉家七千石は、たちまち、改易かいえきになってしまう。——
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そして、門内門外には、戦時同様なこわらしき武者どもがかために充満していて、これは昼夜、焚火たきびをかこんで、すき勝手な雑言ぞうごんや笑い声をあげていた。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なにッ。似せ侍とは何を申すかッ。どこを以って左様な雑言ぞうごんさるるのじゃッ。怪しからぬことほざき召さると、仙台武士の名にかけても許しませぬぞッ」
まして今は将軍家のおそばに召されて、若狭の局とも名乗る身に、一応の会釈もせで無礼の雑言ぞうごんは、鎌倉武士というにも似ぬ、さりとは作法をわきまえぬ者のう。
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
葉子が出て行く時には一人ひとりとして葉子に雑言ぞうごんをなげつけるものがいなかった。それから水夫らはだれいうとなしに葉子の事を「姉御あねご姉御」と呼んでうわさするようになった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「おのれ、主君を嘲弄ちょうろうするか! いま一言申して見よ、一刀の下に切り斃してくりょう! ただしは深い意味あって今の雑言ぞうごん洩らしたか! 返答致せ! えい、売僧奴まいすめが!」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いまの無礼の雑言ぞうごんだけでも充分に、免職、入牢にゅうろうの罪にあたいします。けがらわしい下賤げせんの臆測は、わしの最も憎むところのものだ。ポローニヤス、建設は永く、崩壊は一瞬だね。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
ラッキョの味噌漬なんぞと聞くに堪えない雑言ぞうごんを吐く、道庵自身は相当の実入みいりがあるのに子分を憐まず、ためにデモ倉やプロ亀の反逆を来たしたことの卑吝慳貪ひりんけんどんを並べ、そのくせ
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
もうきんか頭の光もここらでしぼむであろうなどとはばからぬ雑言ぞうごんが、耳をふさいでも、朝夕に聞えて来るしのう……
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
町人風情ふぜいの葉ッ葉者が、武士を粗略にした雑言ぞうごんを吐いたばかりか、ききずてにならぬ事を言いながら、わが旗本退屈男を痩せ浪人ででもあるかのごとくに取扱って
太郎は、あまりの雑言ぞうごんに堪えかねて、立ち上がりながら、太刀たちつかへ手をかけたが、やめて、くちびるを急に動かすとたちまち相手の顔へ、一塊のたんをはきかけた。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
やおら人中ひとなかから立ち上がると、ずかずか葉子に突きあたらんばかりにすれ違って、すれ違いざまに葉子の顔をあなのあくほどにらみつけて、聞くにたえない雑言ぞうごんを高々とののしって
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
何とかして思い切りむごく振られてみたいものさ、などと天を恐れぬ雑言ぞうごんを吐き散らして江戸へ着き、あちらこちらと遊びまわってみても、別段、馬の目を抜く殺伐なけしきは見当らず
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
今の雑言ぞうごんを聞くからは、もはや一寸も動かぬぞよ!
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一人は悪口あっこう、一人は雑言ぞうごん
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「イヤ、最前の雑言ぞうごんは、あれや禅坊主の奥の手でな、機鋒きほうるというやつだが、あの尼はビクともせん」
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まだ雑言ぞうごんをやめ居らぬか。」と、恐ろしい権幕けんまくで罵りながら、矢庭やにわ沙門しゃもんへとびかかりました。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
フランシスの事になるとシッフィ家の人々は父から下女の末に至るまで、いい笑い草にした。クララはそういう雑言ぞうごんを耳にする度に、自分でそんな事を口走ったように顔を赤らめた。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それはよいが——その文中に、聞きずてならない雑言ぞうごんしるしてある。それは、おまえの妊娠にんしんだ。
御鷹 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
張儀の類などと軽々しく口にするはまことに小人の雑言ぞうごんで、真面目にお答えする価値もない
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「だまれ。右大臣家にたいして、恐れ多い雑言ぞうごん。そち達と同席はできない。立て、立て」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
足利若御料わかごりょう礼讃らいさんはまア笑止しょうしながら聞き捨ててもおこうが、鎌倉入りの大合戦は、ひとえに、若御料(千寿王)の参陣があったからこそ勝ったのだとかした雑言ぞうごんだけはききずてならん。
「だまれ。ひとの功をそねんで要らざる雑言ぞうごん。どこに虎之助が逆上あがっているか」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なにを猶予ゆうよ」などと、雑言ぞうごんを吐きちらしているのも、手にとるように聞えた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「控えろ! かかる狼藉ろうぜきを致しながら無礼な雑言ぞうごん、捨て置かぬぞッ」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「容易ならんことをやすやす申すが。よも雑言ぞうごんではあるまいな」
たちどころに、土間は小酒屋らしい混雑と雑言ぞうごんで、埋まった。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不死人が、一同の雑言ぞうごんを、叱っていうには
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雑言ぞうごんするかというんですかえ。それはおとといの晩、酒の上で、はらわたの洗濯に、ぞんぶん吐いて見せた通りでさ。いやあれも酒の上じゃあない、忍ノ大蔵の本心だ。——あっしはこれから、千早の城へ一目散に帰るつもりだ」
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)