むか)” の例文
毛受勝助も、いちどは身をひるがえして、尾撃の敵をむかえていたが、ふたたび主人の駒の後を追い、勝家のうしろから、なお叫んでいた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
〔譯〕心は現在げんざいせんことをえうす。事未だ來らずば、むかふ可らず。事已にかば、ふ可らず。わづかに追ひ纔かに邀へば、便すなはち是れ放心はうしんなり。
北條時宗むかえ撃って大いにこれやぶったことは、およそ歴史を知るほどの人は所謂いわゆる元寇げんこうえき」として、たれそらんじている所である。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
則ち明夜人定じんてい後脚船一隻を発し、柿崎村海浜の人家無き処に至りて、生らをむかえられよ。生らもとよりまさに約に先んじて該地に至り相待つべし。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「今日は四郎に美人を以て招かれたから、この次は、かならず二郎と五郎をむかえて、酒を買って健康を祝そう。」
五通 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
茲に於て彼等は早軍が渡米の途に上らんとする前九日、丗八年三月廿七日を以て得意満面の早軍を自校々庭にむかへ撃ち、一対零を以て撃破して仕舞つた。
ひようむなししづかにして高楼にのぼり、酒を買ひ、れんを巻き、月をむかへてひ、酔中すいちゆうけんを払へばひかりつきを射る」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
自分の行手から、餓えたる犬が群がって来たのでは、これをむかえては事面倒だし、うっかり後ろを見せればつけ入られる。相手が悪い——とでも思ったのでしょう。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
遠く敵地に侵入して戦線をひろげ兵力を分散して有力な敵の主力をむかへることは不利である。
二流の人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
是を祭の始とす。「カピトリウム」の巨鐘は響き渡りて、全都の民を呼び出せり。我は急ぎ歸りて、かの状師だいげんにんの服に着換へ、再び街に出でしに、假裝の群は早く我をむかへて目禮す。
入洛競争のテープを切つたのは信長だつたが、甲斐の龍、信玄の鋭鋒をむかへては、あまり勝味のない桶狭間を、も一度繰り返さねばならない破目になつてゐた信長は救はれたわけだ。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
れ関ヶ原の降参武士のみ、常々たる三河みかわ譜代の八万騎、何の面目あれば彼の降参武士に膝を届すべきやなんて、大造たいそうな剣幕で、薩長の賊軍を東海道にむかうたんとする者もあれば
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
公子はやがて孔生をむかえて一つの村へ往った。そこは樹木がまっくらに生えて陽の光が射さない所であった。その家へ入ってみると金色の鴎の形をした浮き鋲を打ったりっぱな旧家であった。
嬌娜 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
阿那律すなわち入りて結跏趺坐し、繋念して前に在り。寡婦衆人の眠れる後に語りて言う、大徳我の相むかえる所以の意を知れるやいなやと。答えて言う、姉妹よ汝が意は正に福徳に在るべしと。
単于ぜんうはこの報に接するや、ただちに婦女、老幼、畜群、資財の類をことごとく余吾水しょごすい(ケルレン河)北方の地に移し、みずから十万の精騎を率いて李広利りこうり路博徳ろはくとくの軍を水南すいなんの大草原にむかえ撃った。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
当時父伊勢守正倫まさともが詰衆、正精は詰並つめなみで、本庄とは同僚であつた。邸宅も亦同じ小川町にあつた。瑞英は本庄の子を治して功があつたので、棕軒も亦其子のためにこれをむかへたのではなからうか。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
遥か南々西に位する雄峰乗鞍岳にあたるのには、肩胛けんこういと広き西穂高岳が、うんと突っ張っている、南方霞岳に対しては、南穂高の鋭峰、東北、常念岳や蝶ヶ岳をむかうには、屏風岩の連峰、北方の勁敵けいてき
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
醒めきれぬまゝに立ちむかはふとしてゐるが……
逸見猶吉詩集 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
逆賊とはいえ、光秀もわしをむかえたら、その一戦が彼のわかれ目じゃ。光秀の智謀才識、到底秀吉の遠く及ぶところでない。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
請う所を許允きょいんせられなば、則ち明夜初更を以て号礮ごうほうを約と為し、脚船一隻を発して横浜応接館以東二十許町、海岸絶危し、人家無き処に至りて、生らをむかえられよ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
〔譯〕獨得どくとくけんわたくしに似る、人其の驟至しうしおどろく。平凡へいぼんは公に似る、世其の狃聞ぢうぶんに安んず。凡そ人の言をくは、宜しく虚懷きよくわいにして之をむかふべし。狃聞ぢうぶん苟安こうあんすることなくんば可なり。
五日夜、幸村と勝永天王寺より平野に来り基次に云う、「今夜鶏明道明寺に会し、黎明れいめい以前に国分の山を越え、前後隊を合し、東軍を嶮隘にむかえ、三人討死するか両将軍の首をとるかを決せん」
大阪夏之陣 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
福山藩士に稲生いなふ某と云ふものがあつた。其妻が難産をして榛軒がむかへられた。榛軒は忽ちあわただしく家に還つて、妻志保に「かえの著換を皆出せ」と命じ、これを大袱おほぶろしきつゝんで随ひ来つた僕にわたした。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
直義はわが身のあやういのを恐れて、一旦は都を落ちのびたが、さらに大軍をあつめて攻めのぼって来たので、尊氏は播磨路まで出てそれをむかえ撃つことになった。師直も無論に主君と共に出陣した。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
当然、光春以下、明智勢はそれへぶつかってゆき、堀隊もまた猛然とむかえ撃った。馬のうごきも槍の柄も意のままにならないほど道幅も狭い辻である。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
〔評〕南洲弱冠じやくくわんの時、藤田東湖ふじたとうこえつす、東湖は重瞳子ちやうどうし躯幹くかん魁傑くわいけつにして、黄麻わうま外套ぐわいとう朱室しゆざや長劒ちやうけんして南洲をむかふ。南洲一見して瞿然くぜんたり。乃ち室内に入る、一大白をぞくしてさけすゝめらる。
谷間じに迫る秀吉勢を眼下にむかえ撃つ戦態にあったが、獅子児一群の奮迅が、忽ち堀切のタテを踏みのぼり、彼が中軍の幾将を槍先にけるにいたるや
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これをむかえ撃つなら、破竹羽柴の精鋭といえ、ついにこの辺りで、さしもの力も尽き、断弦だんげんの恨み、一挙に勝敗の地をかえて、惨たる敗退を強いられたかもしれないのである。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かず、秀吉の鋭鋒をかわして、ひとまず坂本まで御退陣の上、江州ごうしゅうその他に散在しているお味方の勢を一つに結束し、不敗の陣容をしかとかためた上、敵をおむかえ遊ばすが、ここにおいては
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)