遣口やりくち)” の例文
吉川に対する自分の信用、吉川と岡本との関係、岡本とお延との縁合えんあい、それらのものがお秀の遣口やりくち一つでどう変化して行くか分らなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
英人がづ運輸通商の便を計つて新領土の民心を収めようとする遣口やりくち兎角とかく武断の荒事あらごとに偏する日本の新領土経営と比べて大変な相違である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ぱっぱっとするお島の遣口やりくちに、不安をいだきながらも、気無性きぶしょうな養父は、お島の働きぶりを調法がらずにはいられなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
支那人の遣口やりくちはすべてこれである。故に支那には嚴密の意味の改革といふことが甚だ稀で、從つて支那には進歩がない。
支那人の文弱と保守 (旧字旧仮名) / 桑原隲蔵(著)
おまけに今度は全体の遣口やりくちが、以前よりもズット合理的になって来たらしく、友吉親仁おやじの千里眼、順風耳じゅんぷうじを以てしてもナカナカ見当が付けにくい。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼の大胆な遣口やりくちを見ると、きっと素直に出頭に応じないに違いない。こんな考えで石子刑事の頭は暫く占領された。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
派手なモンペを着た高子は香料のにおいを撒きちらしながら、それとなく康子の遣口やりくちを監視に来るようであった。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
そして、彼自身が仲間と喧嘩をする場合の、すばしこい、思い切った遣口やりくちが、こうしたことに影響されていなかったとは、決していえなかったのである。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
と野崎君は小突き/\論判して、柿をしたたかせしめた。決して善良な遣口やりくちでない。こんな具合だったから、学園の生徒は近隣の農家に兎角評判が悪かった。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
私とて是迄彼等の遣口やりくちには疑い乍らも十度に一度は⦅真物⦆に出喰わさない事も無かろうとわずかな希望を抱き、従って随分屡々其の方面の経験は有りましたが
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
奸商を相手に金銭の掛合をするのは不愉快ですから一杯喰わされたと思ってそれなりにしてしまいました。戦敗後の出版屋の遣口やりくちはまずこんなものなのでしょう。
出版屋惣まくり (新字新仮名) / 永井荷風(著)
総じて幸徳らに対する政府の遣口やりくちは、最初から蛇の蛙を狙う様で、随分陰険冷酷を極めたものである。
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「いやまだ判りませんが、多分は強盗でしょう。長生郡ちょうせいぐん遣口やりくちが、同じだとか云って居ましたよ」
ある抗議書 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
私の遣口やりくちにはどことなくもたもたした覚束おぼつかないところがあって、鳴尾君と比較すると、どうしても正確さや敏速さに欠けていた。二人で何度か競争もやったが、いつも負けた。
西隣塾記 (新字新仮名) / 小山清(著)
一體父は、余り物事に頓着とんちやくせぬ、おつとりした、大まかな質でありながら、金といふ一段になると、體中の神經がピリ/\響を立てて働くかと思はれるばかり、遣口やりくち猛烈まうれつとなる。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
連れこむ遣口やりくちは見て知っておるが太刀筋は初めてだ。存分に撃ちこんで来いよ!
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
堅實な遣口やりくちで行けば、當分無配當で押通し、後日の發展を待つ可き筈である。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
今で云へば県庁を襲撃し、県令を生擒いけどりし、国庫に入るき財物を掠奪したのに当るから、心を天位に掛けぬまでも大罪に相違無い。将門は玄明、興世王なんどの遣口やりくちを大規模にしたのである。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
と、まないたに乗せた魚を逃がしたように舌打ちして、義も道理もあるべきでない盗賊に身を落としていながら、どこかに元の浜島庄兵衛という武家気質かたぎせない日本左衛門の遣口やりくち歯痒はがゆがりました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この事実を、事件全体のなんとなく陰険な遣口やりくちなぞと考え合せて、炭塊以外に手頃な兇器の手に入らない人、つまり坑夫でない人の咄嗟とっさにしでかして行った犯行でないか、とまあ考えたわけなんです。
坑鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
遣口やりくちが極わめて大胆じゃ。恐らく市中へ逃げ込んでいよう
「何にも云える人じゃないよ。相談相手に出来るくらいなら、初手しょてからこうしないでもほかにいくらも遣口やりくちはあらあね」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
後から調べて見たら、り替えた方は東京のもので、掏り替えられた方は埼玉県出身でした。丁度上野辺でポン引きがポット出を引っかけるのと同じ遣口やりくちです
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
何にしても余程の残忍な、同時に大胆極まる遣口やりくちで、その時の光景を想像するさえ恐ろしい位であった。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
草加屋は実に非道を極めた、貧乏人泣かせの高息の金貸しであった。二両三両、五両十両といたるところへ親切ごかしに貸しつけておいては、割高の利息をむさぼる。これが草加屋の遣口やりくちだった。
お互に陰険な遣口やりくちで怨みを晴らすのがオチなのです……。
死の復讐 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
藤原氏などの遣口やりくちなら
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほかの点でどう衝突しようとも、父のこうした遣口やりくちに感心しないのは、津田といえどもお秀に譲らなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「好況時代に識らず識らず膨脹しているんだから、緊縮の余地は充分ある。万事この遣口やりくちで行って、十五万節約して見給え。十五万円は仮りに七分五厘として何万円の利子に当る?」
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
親分乾分こぶん式の活躍、又は郷党的な勢力を以て、為政者、議会等を圧迫脅威しつつ、政界の動向を指導して行く遣口やりくちを、手ぬるしと見たか、時代おくれと見たか、その辺の事はわからない。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
当時のことだから新刀試あらものだめし腕試し、辻斬は珍しくなかったが、そのなかに一つ、右肩から左乳下へかけての袈裟がけはす一文字の遣口やりくちだけは、業物わざものと斬手の冴えをしのばせて江戸中に有名になっていた。
「うん、まだある。此二十世紀になつてから妙なのが流行はやる。利他本位の内容を利己本位でたすと云ふ六※かしい遣口やりくちなんだが、君そんな人に出逢つたですか」
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「実に遣口やりくちが巧妙だ。叱られる上に自由自在に操縦されるから忌々いまいましい」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それはお延に断られたので、成立しなかったけれども、彼は今でもその方が適当な遣口やりくちだと信じていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
遣口やりくちがひどいからね。誰だってしゃくにさわる」
首切り問答 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
あによめが兄の手に合わないのも全くここに根ざしているのだと自分はこの時ようやく勘づいた。また嫂として存在するには、彼女の遣口やりくちが一番巧妙なんだろうとも考えた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
誰の命令も文字通りに拝承した事のない代りには、誰の意見にもむきに抵抗したためしがなかった。解釈のしようでは、策士の態度とも取れ、優柔の生れ付とも思われる遣口やりくちであった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼はそう云ってあとから自分に断った。彼の遣口やりくちは、彼女に取っても自分に取っても、面倒や迷惑の起り得ないほど単簡たんかん淡泊たんぱくなものであった。しかしそれだから物足りなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だれの命令も文字通りに拝承した事のない代りには、だれの意見にもむきに抵抗した試がなかつた。解釈のしやうでは、策士の態度とも取れ、優柔の生れつきとも思はれる遣口やりくちであつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
敬太郎は下宿の机の前で熱に浮かされた人のように夢中で費やした先刻さっきの二時間を、充分須永すながと打ち合せをして彼の援助を得るために利用した方が、はるかに常識にかなった遣口やりくちだと考え出した。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
成功したというと、その人の遣口やりくちが刷新でもなく、改革でもなく、整理でもなくても、その結果が宜いと、唯その結果だけを見て、あの人は成功した、なるほどあの人は偉いということになる。
模倣と独立 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ええ外へ出る事なんか訳はありません。明日あしたからでも出ろとおっしゃれば出ます。しかし嫁の方はそうちんころのように、何でも構わないから、ただ路に落ちてさえいれば拾って来るというような遣口やりくちじゃ僕には不向ふむきですから」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)