貴方あんた)” の例文
何や……怪我けが貴方あんたは何やかて、美津みいさんは天人や、その人の夫やもの。まあ、二人して装束をお見やす、ひなを並べたようやないか。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
貴方あんたにはなんでアノ業平橋で侍に切られる処を助かった大恩があるから、お礼をしていと思っても受けないから、なんぞと思っていた処
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
きいとる人間が、あるちうだけの話じゃなえか! ……だから俺はいうのが厭だというとるに貴方あんたがいえいえと無理にいわせといて……
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
何卒どうかまあ、今日こんちのところは、わしに免じて許して下さるやうに。ない(なあと同じ農夫の言葉)、省吾さん、貴方あんたもそれぢやいけやせん。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
貴方あんたは夢を見ておる。まさに実状を顛倒した話じゃ。あの時血は、博士が倒れている周囲にしか流れておらなかったのです」
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「あの御父おとっさんの産んだ子だと思うと、厭になってしまう。東京へでも出ていなかったら、貴方あんたもやっぱりあんなでしょうか」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
おまけやつと此の川下へ出たら、何うだえ貴方あんた此間こなひだ洪水みづましに流れたと見えて橋が無いといふ騒ぎぢやないか。それからまた半里はんみちも斯うして上つて来た。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「さやう、な。けど、貴方あんたのやうな方が此方こつちから好いたと言うたら、どんな者でも可厭いや言ふ者は、そりや無い」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「そない言はんと、まあ考へとみやす。わてにしても、貴方あんたにしても、これまで大石さんには、たんとお金を儲けさせて貰うてまつしやろ、それを今更……」
「……貴方あんたを見損なって……」
骸骨の黒穂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
貴方あんた行んでおやんなはれ。
栄蔵の死 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
貴方あんたに逢い度いって」
流行作家の死 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
わしも焼いてしまうべえと思ったが取ってありやすから、これを表向にすれば貴方あんたのお役にもかゝわるから、何にも云わずに帰って下せえ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
貴方あんたばかり殺しはせん。これお見やす、」と忘れたように、血がれて、蒼白あおじろんで、早や動かし得ぬ指を離すと、刻んだように。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
貴方あんた好事いいことを教えて上る」と娘は乗出して、「明日はゆっくりお勝さんのとこへ行って、一緒に小屋の内で本でも読みやれ」
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「なんですと、動機に三つの潮流が……。いや、たしかそれは一つのはずです。法水さん、貴方あんたは津多子を——遺産の配分に洩れた一人をお忘れかな」
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
『莫迦な。』目賀田はそれを追駆おつかけるやうに又手を挙げた。『貴方あんたぢやあるまいし。……若しや袂に入れたかと思つて袂を探したが、袂にもない。——』
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「そんな怖い顔をしないどいて! なぜまた貴方あんたそんな怖い顔をしてわたしの顔ばっかり見ていらっしゃるん?」
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「滅相な、そないとこつて貰うて溜りまつかいな。大石さんは貴方あんた、武士道の神やたら言ふやおへんか。」
「いや、そんなに悪う取られてははなはだ困る、畢竟ひつきよう貴方あんたの為を思ひますじやにつて……」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「そんなことしたって、私貴方あんたの奥さんにならないわよ。」
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それとも私がお父さんに悪く取做とりなしでもして居や為ないかと、貴方あんたが腹でもたてゝいやアしないかと、そればっかり心配して居やしたよ
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
何や、この二条ふたすじの蛇が可恐い云うて?……両方とも、言合わせたように、貴方あんた二人が、自分たちで、心願掛けたものどっせ。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『ほゝゝゝゝ。それはさうと、御腹おなかが空きやしたらう。何か食べて行きなすつたら——まあ、貴方あんたは今朝からなんにも食べなさらないぢやごはせんか。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
野村は遂々たうたう恁麽話にこらへ切れなくなつて、其室を出た。事務室を下りて暖炉にあたると、受付の広田が「貴方あんた新しい足袋だ喃。俺ンのもモウ恁麽になつた。」
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
貴方あんたは、何かの機会チャンスに、一人の犠牲を条件に、彼女を了解させたのですか。もうわしには、この上釈明する気力もないのです。いっそ、護衛をやめてもらおう。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「また……あの怖い女の人が! 早く貴方あんた! 早く行って見て!」家内は結い立てのまげも乱して蒼褪めきって歯の根も合わぬくらいに震えているのでございます。
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「お爺さん、わたい貴方あんたを見送つてから死にたいと思うてましたんやけど……」
太「はい、伯父様貴方あんたしっかりしねえではいけませんよ、七十八十の爺さまではなし、死ぬなんぞというよええ気を出しては駄目でがんす」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この意をじゃね、願わくは貴方あんたから国手にお伝えのほどをひとえに希望します。私は職務上の過失であらばせめを負うです。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『あれ、貴方あんたは起きなすつたばかりぢやごはせんか。階下したで食べなすつたら? 御味噌汁おみおつけも温めてありやすにサ。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
『蝙蝠傘をしてるのになあ、貴方あんた、それだのに此の禿頭から始終しよつちゆう雫が落ちてくるのですものなあ。』
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「じゃ、ど、どこにいるって云うのよ。貴方あんたは三伝が、いったいどこにいるって云うのよ」
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
貴方あんたはん、また雷鳴かみなりどつせ。どないしまほ、わてあれ聞くと頭痛がしまつさ。」
貴方あんたの兄さんには、女ができている……そしてお母さんを、あやめている……。
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
角「それがサ、あのお梅という七歳なゝつの時に保泉村の原中で勾引かどわかされたおえいという娘だが、何うしてそれを貴方あんたが娘にしなすったえ」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
で、わしが職務としてではない。いつ個人として、私一にんとして、じゃね、……非常に先達ては失敬した、わびをします、と貴方あんたからよう言うて貰いたいのじゃ。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そうかなし」とお春は振向いて、嬉しそうな微笑えみを見せた。「貴方あんたの島田も恰好かっこうが好く出来た」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
貴方あんたが泣くべさ。』と云つて、フワリと手巾を私の顔にかけた儘、バタ/\出て行つた。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「兄さん、貴方あんたはお母さんに、飛んでもないことをしてくれたね?」
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「ここへ連れて来られるとき、貴方あんたは前後不覚だったじゃないの。間違えて……、ほんとうに、ねえさんの可哀想なことったらね。私と感違いして、顔もろくろく見ずに、貴方が殺ってしまったにちがいないわ」
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
わりい跡はいだアから貴方あんたも気を落さずに身体を大切でいじにして下せえまし、何事も子供と年寄に免じて勘忍しておくんなさいよ
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しかし貴方あんたの前じゃけれどお夏さんは珍しい御容色ごきりょうよし、ほんのこと内なぞはおつきあいがおつきあいじゃから、御華族様から大商人方おおあきんどがたの弟子も沢山見えるけれど
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わしは神様に使はれる身分で、何も食物の事など構はんのぢやが、稗飯ひえめしでも構はんによつて、モツト安く泊めるうちがあるまいかな。奈何だらうな、重兵衛さん、わし貴方あんた一人が手頼たよりぢやが……
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「あれ、そんな貴方あんたのような無理な——私は笑いもどうもしやせんよ」
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
市「ねえ此の人が証拠で、神様から貰ったわしが身体をったから打返ぶちかえしただ、ねえ、だから貴方あんたちったア手助かりをしたゞ」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
貴方あんた、大抵の事は、ここで饒舌しゃべって可えですか。ある種の談話ははばからんでも構わんですかい。」
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『持つて来てあげるで。あのね、』と笑つたが『貴方あんたえ物持つてるだね。』
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
貴方あんた、お願いでごわすが、ここから家へ帰って下さい」
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
馬「乗り度くねえたって乗ってお呉んなせえな、馬にもうめえ物を喰わして遣りてえさ、立派な旦那様、や、貴方あんたア安田さまじゃありやせんか」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)