誘惑ゆうわく)” の例文
僕がさきに述べた、艱難かんなん誘惑ゆうわくを仮想的に描いて、これに対する方法を定めよとは、まことに子供らしいことはわが輩も承知である。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
はたして、伊那丸の主従しゅじゅうは、らえられもせぬじぶんたちが、きょう刑場けいじょうられるといううわさを聞いて、奇異きいな感じに誘惑ゆうわくされた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この位美しい女に、誘惑ゆうわくされた以上、男として手をつくねていることはないと思ったので、一緒いっしょた。割合い広い家なのに、家人は一人もいない。
女強盗 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そのままでゆけば何でもないのであったけれど……。千穂子は臆病おくびょうであったために、ふっとした肉体の誘惑ゆうわくけることが出来なかったのだ……。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
そして、ごまかしの誘惑ゆうわくや、一宣伝せんでんにとりことなるのを警戒けいかいし、自己じこしんずるひと投票とうひょうしようとしたのであります。
心の芽 (新字新仮名) / 小川未明(著)
たちまち次の電光は、マグネシアのほのおよりももっと明るく、菫外線きんがいせん[※6]の誘惑ゆうわくを、力いっぱいふくみながら、まっすぐに地面に落ちて来ました。
ガドルフの百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
この金力を同じくそうした意味から眺めると、これは個性を拡張するために、他人の上に誘惑ゆうわくの道具として使用し得る至極重宝なものになるのです。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
中学生の頃から誘惑ゆうわくが多くて、十七の歳女専の生徒から口説くどかれて、とうとうその生徒を妊娠させたので、学校は放校処分になり、家からも勘当された。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「たい焼き屋がきたためにみなが校則をおかすようになりますから、みなの誘惑ゆうわくを防ぐためにぼくがやりました」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
成経 わしは昨日きのういわの上に立って、一そうの船も見えない、荒れ狂う海を見ていたとき、強い強い誘惑ゆうわくを感じた。わしは足がすべって前にのめりそうな気がした。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
けれども姫は自分のい出したすがすがしい計画から誘惑ゆうわくされ、身体からだがむずがゆくなって一刻の猶予ゆうよもなく河水にひたらねば居られぬ気持ちにせき立てられるのでした。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そのころ、ぼくは、銀座のシャ・ノアルというカフェのN子という女給から、誘惑ゆうわくされていました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
口をきわめて誘惑ゆうわくするんですから、下地のある連中はトテモたまりません。
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「ただ塾生たちには、おかしら付きの鯛というものがみょうに印象に残るらしいので、ついそれに私たちが誘惑ゆうわくされてしまうのです。それも教育の一手段だという口実もありましてね。はっはっはっ。」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
そのことばは、早く楽になるから溺死しなさいと誘惑ゆうわくしている。
時計屋敷の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そうなるとカピまでが誘惑ゆうわくに負けないとは言えぬ。
一、賭博とばくのよろしくないことはつくづく親の話によって承知し、いかなる誘惑ゆうわくがあるとも、賭博とばくなどには手を出すまいぞという思想をいだいた。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
わが妹を誘惑ゆうわくして堕落だらくさかいにひきこもうとしつつあるチビ公をさがしまわった光一がいま松の下陰で見たのはたしかに妹文子の片袖かたそでとえび茶のはかまである。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
武者たちは、顔見あわせて、かれの弁舌に、ふと、誘惑ゆうわくをおぼえた様子だったが、組頭くみがしらかと見える男は、突然、かれの縄目なわめを自分の手に持ち直して、どなりつけた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あおほし刹那せつなから、彼女かのじょきたきたへとしきりに誘惑ゆうわくするえない不思議ふしぎちからがありました。
青い星の国へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
その白いうなじに、坂本は接吻せっぷんしたい誘惑ゆうわくはげしく感じたが、二人の純潔じゅんけつのために、それをも差しひかえて、右の手をばし、豊穣ほうじょうな彼女の肉体を初めて抱きしめたのである
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
わが同胞どうほうはだいたいにおいて貧乏びんぼうであるから、富貴ふうき誘惑ゆうわくなるものを知らない。貧乏人びんぼうにんが金持を批評することは、とかく見当が違うことが多い。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
活動写真、飲食店、諸君がいつも誘惑ゆうわくを受けるのはこれである。娯楽には友達が必要である、諸君はこのために活動の友達や飲食の友達ができる。不良気分がここから胚胎はいたいする。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
ひさしぶりで甲府こうふという都会のふんいきをかいだ蛾次郎には、さまざまなべ物の慾望よくぼう、みたいものや聞きたいものの誘惑ゆうわく、なにを見ても買いたい物、欲しいものだらけであった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まちかがやいた火影ほかげに、つい誘惑ゆうわくされて、りんごのはないましめもわすれて、んでいくと、そこにはいい音楽おんがくこえたり、うたこえがしたり、ほかにうつくしいとうや、噴水ふんすい銅像どうぞうなどがあったり
北海の波にさらわれた蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼女かのじょは、その小鳥ことりうたが、なんだか自分じぶんまで誘惑ゆうわくするような気持きもちがしたのです。
ふるさとの林の歌 (新字新仮名) / 小川未明(著)