血痕けっこん)” の例文
猪熊の爺の死骸は、斑々はんぱんたる血痕けっこんに染まりながら、こういうことばのうちに、竹と凌霄花との茂みを、次第に奥深くかれて行った。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
つまりそこへ懸けた思いが、古仏のごとく吸収摂取されず、いつまでも生ま生ましく残っているのだ。血痕けっこんのついた古い布を思わせる。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
今朝懇意こんいの車屋がデカの死骸しがいを連れて来た。死骸は冷たくなって、少し眼をあいて居たが、一点の血痕けっこんもなく、唯鼻先はなさきに土がついて居た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そして、予定どおりに寒葉かんばの近くで、後から来た弦之丞と落ちあった。かれの手甲とすそ二所三所ふたところみところに、黒い血痕けっこんがついていた。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雨あがりの軟泥なんでいの路面に、青白い右腕がニューッと伸びていて、一面に黒い泥がなすりついている——と思ったら、それは真赤な血痕けっこんだった。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「テント外の歩哨ほしょう散弾にあたる。テントにたおれかかる。血痕けっこんを印す」「五時大突撃。中隊全滅、不成功に終る。残念※」
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それから荒川の土手のところを歩いて行くと、土手の上の雑草が踏みにじられて、血痕けっこんがあちらこちらに飛んでいます。
「それにしても、君はだいぶ血まみれのようですな」ランタンの光りで、ラスコーリニコフのチョッキに生々しい血痕けっこんをいくつか見つけて、署長は注意した。
その辺になお血痕けっこん斑々はんはんとして、滴り落ちているかと疑われんばかり、はだあわの生ずるのを覚ゆる。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
喀痰かくたんは一昼夜の分量、二個のコツプに六、七分目づつ位なり。朝ことに多し。血痕けっこんをまじへず。
明治卅三年十月十五日記事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
とはにかんだ顔をして言って、すこし血痕けっこんのついているワイシャツとカラアをかかえ込み
犯人 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その血痕けっこんのどす黒い斑点まだらが、つい笹村の帰って来る二、三日前まで、土にみついていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
信一郎は、差し出されたその時計を見たときに、その時計の胴にうすく残っている血痕けっこんを見たときに、もてあそばれて非業ひごうの死方をした青年に対する義憤の情が、旺然おうぜんとして胸にいた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
彼女の肩の辺から、枕の方へかけて、だ彼女がいくらか、物を食べられる時に嘔吐おうとしたらしい汚物が、黒い血痕けっこんと共にグチャグチャに散ばっていた。髪毛がそれで固められていた。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
地上にこぼれていた一滴の血痕けっこんを、検事や上官が来着するまで完全に保存する為に、その上におわんをふせて、お椀のまわりの地面を、一晩中棒切れで叩いていた、という一つ話さえあった。
何者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
幾たびか岩かどにつまずきては倒れ、また起きあがる。息をきつつ後ろを透かしながめ、よろめきつつ岩をよじのぼり、けわしきいわかどに突き立つ。手足、顔のところどころ傷つき血痕けっこん付着す。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
宮殿内の血痕けっこん洞窟どうくつ墨痕ぼくこん娼家しょうかろうの一滴、与えられた苦難、喜んで迎えられた誘惑、吐き出された遊楽、りっぱな人々が身をかがめつつ作ったひだ、下等な性質のために起こる心のうちの汚涜おどくの跡
玄智老が来るまで、庄兵衛は庭へおりて血痕けっこんの始末をした。
十八条乙 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼らの顔に刻まれた大小の血痕けっこんが、彼らを醜くする。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
「さあ、わかりませんね。こんなに分量が少くちゃ見当がつかない。薬品のようでもあり、血痕けっこんのようでもあり……」
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
が、何せよ、五体ままならぬ重蔵、ともすると、鉄壁の構えに一毛の破綻みだれを生じて、無念や、一ヵ所二ヵ所と、虚無僧ごろもを染めてゆく、掠り傷の血痕けっこんが増して見えた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
またこの二つの刀身に血ぬられた、人間のあぶら血痕けっこん等によって判断するに、両氏はいずれもこの名刀を振るって、凄惨にも死に至るまで決闘を続けたものと考えられている。
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
手を洗い終わってから、彼は斧を引出し、まず鉄の部分を洗い終わると、長いことものの三分間もかかって、石鹸で血痕けっこんの有無さえ試みながら、血のこびりついた柄を洗いにかかった。
長官はおどろいて家の中を捜索そうさくした。すると、例の血痕けっこんが北のたいはな座敷ざしき)の車宿(車を入れておく建物)にこぼれているのが分った。北の対と云えば、官邸に使われている女中達の宿である。
女強盗 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
復讐ふくしう跡ありくわうとして血痕けっこん
血痕けっこんが雪を染めていた。
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
新宿へ出る迄に傷の手当を終り、衣服も一寸見ては血痕けっこんを発見しえないようにととのえることができた。
空中墳墓 (新字新仮名) / 海野十三(著)
すぐからめ手門内に入り、前と同じ奥庭の疎林そりんの蔭でまた勝入の前に平伏していた。勝入は、彼が桐油紙とうゆがみづつみから解いてさし出した血痕けっこん生々しい陣刀を受け取って、とつこうつあらためたうえ
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
といったが、雨の甲板や船橋のうえについていた大きな丸味のある血痕けっこんは、この黒豹の足跡だったと、今にして二人は思いあたったことである。全く恐ろしいことだ。
幽霊船の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それは不図ふと彼が、生前痔疾じしつを病んだことを思い出したのだった。気をつけていると、寝具しんぐや、床の上までもその不快な血痕けっこんが、点々として附着しているのを発見した。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そして、なおもその附近には、手の形らしい血痕けっこんが、いくつも、べたべたと白布はくふのうえについていた。そこは、ちょうど、あのうつくしい花籠がおいてあった前あたりであった。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、その時、赤羽主任のひとみはパッと大きく見開いた。というのは、その今しも見つめていた女の頸筋から一寸程離れた肩先に附着していた血痕けっこんが、チラリとひらめいたようだったからである。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「船長、あの曲馬団の連中を、かたぱしから、しらべて見てはどうでしょうか。そうすれば、松ヶ谷団長をやっつけたり、丁野十助を血痕けっこんだらけにしてしまった悪い奴が、見つかるかもしれません」
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いわおにちる血痕けっこん
人造人間エフ氏 (新字新仮名) / 海野十三(著)
血痕けっこんの行方
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)