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蝕
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く
ふりがな文庫
“
蝕
(
く
)” の例文
そして、睫毛の黒さや、小麦色の
粗
(
あら
)
い皮膚。笑うと、虫の
蝕
(
く
)
っている味噌ッ歯の見える唇もとまでが、蝦夷萩と、そっくりである。
平の将門
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
つまり、奴さん自身もふさぎの虫に心を
蝕
(
く
)
われて、なんとかして自分で自分を亡いものにしようと思ったらしゅうございます。
正直な泥棒:――無名氏の手記より――
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
かさかさに乾いて虫に
蝕
(
く
)
われた、穴だらけの葉をまさぐりながら、それがそのまま自分の身の上のように思えて憂鬱になった。
野分
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
霜を含んだ
夜気
(
やき
)
は池の水の様に
凝
(
こ
)
って、上半部を
蝕
(
く
)
い
欠
(
か
)
いた様な
片破
(
かたわ
)
れ月が、
裸
(
はだか
)
になった雑木の
梢
(
こずえ
)
に蒼白く光って居る。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
元気の無さ
相
(
さう
)
な
顔色
(
かほいろ
)
をして草履を引きずり乍ら帰つて来た貢さんは、
裏口
(
うらぐち
)
を
入
(
はい
)
つて、
虫
(
むし
)
の
蝕
(
く
)
つた、踏むとみしみしと云ふ板の
間
(
ま
)
で、
雑巾
(
ざふきん
)
を
絞
(
しぼ
)
つて
土埃
(
つちぼこり
)
の着いた足を拭いた。
蓬生
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
(著)
▼ もっと見る
鼻の缺けた觀音樣や、蟲の
蝕
(
く
)
つた繪卷物の穿索で足りないで、かんな屑や蛙の干物まで大事にするとは……。これを思ふと骨董趣味なんて云ふものは、つまり氣違ひの道樂ですわね。
能因法師
(旧字旧仮名)
/
岡本綺堂
(著)
そしてその羊皮紙から脂肪がすっかり
蝕
(
く
)
い取られてその銀行の空気になってしまう。
二都物語:01 上巻
(新字新仮名)
/
チャールズ・ディケンズ
(著)
壁と押入から
湿気
(
しつき
)
の臭が湧出し手箱の底に秘蔵した昔の恋人の手紙をば虫が
蝕
(
く
)
ふ。
花より雨に
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
家
(
いへ
)
なんざ
買
(
か
)
ふものとも、
買
(
か
)
へるものとも、てんで
分別
(
ふんべつ
)
に
成
(
な
)
らないのだから、
空耳
(
そらみゝ
)
を
走
(
はし
)
らかしたばかりだつたが、……
成程
(
なるほど
)
。
名所※繪
(
めいしよづゑ
)
の
家並
(
いへなみ
)
を、ぼろ/\に
蟲
(
むし
)
の
蝕
(
く
)
つたと
云
(
い
)
ふ
形
(
かたち
)
の
此處
(
こゝ
)
なんです。
月夜
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
で、聞いて居る話も、
蠧
(
むし
)
が物を
蝕
(
く
)
つたやうに、ところ/″\ウロ拔けがしたものになるのであるから、首尾貫通前後相應したものとなつて、明瞭に我が心頭に受取り終る事が出來ぬのである。
努力論
(旧字旧仮名)
/
幸田露伴
(著)
彼が十歳のとき甘木の
祇園
(
ぎおん
)
の縁日に買い来しものなり、雨に
湿
(
し
)
みて色変りところどころ虫
蝕
(
く
)
いたる中折半紙に、
御家流
(
おいえりゅう
)
文字を書きたるは、
寅
(
とら
)
の年の吉書の手本、台所の
曲
(
ゆが
)
める窓より
剥
(
は
)
ぎ来たれる
空家
(新字新仮名)
/
宮崎湖処子
(著)
奥穂高岳の絶頂へと
辿
(
たど
)
りついたが、残雪は六尺ばかり高く築いて、添った壁を
蝕
(
く
)
っている、奥穂高の前に野営に適したような窪地があったが、石ばかりで、偃松の枝一本見つからないほどだから
谷より峰へ峰より谷へ
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
かえって
寄生木
(
やどりぎ
)
たる
曹操
(
そうそう
)
のほうが次第に老いたる親木を
蝕
(
く
)
い、幹を太らせ、ついに根を漢土に張って、
繁茂
(
はんも
)
してくること必然でしょう。
三国志:06 孔明の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
壁と押入から
濕氣
(
しつき
)
の臭が湧出し手箱の底に祕藏した昔の戀人の手紙をば蟲が
蝕
(
く
)
ふ。
花より雨に
(旧字旧仮名)
/
永井荷風
、
永井壮吉
(著)
ふと見ると古い枯葉には虫の
蝕
(
く
)
ったような跡があった。
半七捕物帳:55 かむろ蛇
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
土台柱は、みんな白蟻が
蝕
(
く
)
ったように腐っていた。建ってから一世紀以上は経っている——じわじわした
陰鬱
(
いんうつ
)
な闇が顔をつつむ。
銀河まつり
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
もちろん時代風紀は水戸にも
蝕
(
く
)
い入っていたが、からくもその
濁風
(
だくふう
)
にみじん染まない
若人
(
わこうど
)
のみは、老公をめぐって、無上の
絢爛
(
けんらん
)
、
贅
(
ぜい
)
たく、享楽
梅里先生行状記
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
勧学院や大学寮の
文庫棚
(
ぶんこだな
)
には、
醍醐朝
(
だいごちょう
)
まえに輸入された
宋版
(
そうばん
)
の
儒書
(
じゅしょ
)
が、読みてもなく、久しくムシに
蝕
(
く
)
わせてあった。
新・平家物語:02 ちげぐさの巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
たちまち稲の穂を
蝕
(
く
)
い尽してしまい、蝕う一粒の稲もなくなると、妖虫の狂風は、次々と、他の地方へ移動してゆく。
三国志:03 群星の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
しかしこの苦笑は、五十一にもなってみると、深刻に胸を
蝕
(
く
)
う。これから何年を生きられるか、当然、人間の天寿というものをいつも考えるからである。
新書太閤記:04 第四分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
けれど曹軍の怒濤は、大河を決するように、いたる所で北国勢を撃破し、
駸々
(
しんしん
)
と
冀州
(
きしゅう
)
の領土へ
蝕
(
く
)
いこんで来た。
三国志:06 孔明の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
これは
胡桃
(
くるみ
)
の
殻
(
から
)
を手で叩いているようなものでしょう。外殻は何分にも堅固です。けれど
中実
(
なかみ
)
は虫が
蝕
(
く
)
っているようです。兄弟相争い、諸臣の心は分離している。
三国志:06 孔明の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
信長にとって、およそ始末のわるい相手は、はっきり領土を持たないで、しかも諸国の民心にふかく
蝕
(
く
)
いこんでいるこの末期的僧団であった。その煽動力であった。
新書太閤記:04 第四分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
そして、年ばえもそう大しては違わない、一つか二つほど上であろう。色が白くて、
笑靨
(
えくぼ
)
が深かった、笑うと、すこし
齲
(
むし
)
の
蝕
(
く
)
っている
糸切歯
(
やえば
)
が唇からこぼれて見える。
篝火の女
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
なぜ、私利私欲の賊臣と、国を
蝕
(
く
)
う世の悪風へ、敢然、闘ってくださらなかったかっ。石にかじりついてでも、副将軍というご位置に、しがみついて下さらなかったか。
梅里先生行状記
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
ちょうど、胴と脚の附け根のような地形に、今川家の勢力は
犬牙
(
けんが
)
のように深く
蝕
(
く
)
い入って、
沓掛
(
くつかけ
)
、
大高
(
おおだか
)
の二城をつなぎ、織田領の脚部をそこで切断した形になっていた。
新書太閤記:02 第二分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
しかし、きょうの話題は、
牛車
(
くるま
)
のうちでも、
寝屋
(
ねや
)
のうちでも、妙に胸に
蝕
(
く
)
い入ってならなかった。
親鸞
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
そして朝廷までを、内部から
蝕
(
く
)
っている。おどろくべき、存在だ。それを、ふしぎともしていない、この春日のうららかな昼霞に、おぬしは、血も、涙も、わいて来ないか
平の将門
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
……ごらんなさい、とうとう世上の
華奢
(
かしゃ
)
、
淫蕩
(
いんとう
)
、
贈賄
(
ぞうわい
)
、
涜職
(
とくしょく
)
の風。役人は役人で、
下
(
しも
)
は
下
(
しも
)
で、この国をここ十年か二十年で
蝕
(
く
)
い
腐
(
くさ
)
らしてしまいそうなほど、浅ましい世の有様を
梅里先生行状記
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
敵の弱質な部面に病菌を植えつけ、敵の内臓を内より
蝕
(
く
)
い破るのが謀の目的である。
新書太閤記:09 第九分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
そのために、手広い長兵衛の稼業縄張へ十左と久八が
蝕
(
く
)
い込んで行くことができない。是が非でも、生不動
一
(
ひと
)
まきをぶっ
潰
(
つぶ
)
そうと、彼等が絶えず隙を狙っている目的はここにあった。
剣難女難
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
武家の地頭に土地を
蝕
(
く
)
われて、領米が都へ入らなかったり、寺院と寺院の訴訟だったりだが、なにしろ、朝廷の記録所も、鎌倉の裁きも、いまや訴訟などは、まるきり頼りにならない現状なので
私本太平記:02 婆娑羅帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
きのうは
虱
(
しらみ
)
に
頸
(
えりくび
)
を
蝕
(
く
)
わせ、きょうは一浴に王者の快を思う。
新書太閤記:09 第九分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
取り出したのは、尺二、三寸の虫
蝕
(
く
)
い防ぎの樟の薄板です。
江戸三国志
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
その病源がふかく
蝕
(
く
)
い入ってゆくように思われる。
親鸞
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
たえられぬさびしさに身を
蝕
(
く
)
われる気がする。
親鸞
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
蝕
漢検準1級
部首:⾍
14画
“蝕”を含む語句
腐蝕
虫蝕
侵蝕
日蝕
月蝕
浸蝕
虫蝕本
蝕画
蝕歯
蝕鏤師
蚕蝕
蝕壊
腐蝕土
蠧蝕
部分蝕
酸蝕性
金環蝕
風蝕
虫蝕折
腐蝕期
...