蔵人くろうど)” の例文
旧字:藏人
乳母めのとの子で蔵人くろうどから五位になった若い男と、特に親しい者だけをお選びになり、大将は今日明日宇治へ行くことはないというころを
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そして蔵人くろうどの眼をみると、蔵人は、じっと自分の眼を見つめて、こう秘密をうちあけた以上は、是が非でも加盟させずにはおかない
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
特に特性拡大の例としては、大進生昌だいじんなりまさ(ことごとなるもの)や蔵人くろうどおりたる人(心ゆくもの)などをあげることができる。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
康治こうじ二年に出家して寂超じゃくちょうといい、その次の兄頼業よりなり近衛このえ天皇の蔵人くろうどであったが、久寿きゅうじゅ二年、帝崩御のとき出家して寂然じゃくぜんといい、長兄は為業ためなりといって
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
蔵人くろうどに言い付けてその帰るあとを付けさせると、女もそれに気がついたらしく、蔵人を見かえって「なよ竹の」とただひとこと言い残して立ち去ってしまった。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
早く蔵人くろうどぬきんでられ、ついで二十何歳かで三河守に任ぜられたが、然様そういう家柄の中に出来た人なので、もとより文学に通じ詞章を善くし、又是れ一箇の英霊底の丈夫であった。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ある時五位の蔵人くろうどのお役をつとめる公家衆が、革堂こうどうに参詣して、盛装した妙齢の婦人に出会い、そのあでやかな姿に引きつけられて、跡をつけて行ったところが、一条河原のキヨメの小屋に入って
話をした良清よしきよは現在の播磨守の息子むすこで、さきには六位の蔵人くろうどをしていたが、位が一階上がって役から離れた男である。ほかの者は
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
したがって列はえんえんとつづき、本間孫四郎や伊達だて蔵人くろうど家貞などの兵が、先駆から列後までを見つつ順に麓へさがって行った。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その「文覚」の四幕目で、団十郎の文覚が院の御所へ闖入ちんにゅうして勧進帳を読みあげる時に、三人の蔵人くろうどが彼を組み留めようとし、文覚は彼らと立廻りながら読みつづけるのである。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
中門をはいって行くと、そこには自身と同じ直衣のうし姿の人が立っていた。隠れようとその人がするのを引きとめて見ると蔵人くろうど少将であった。
源氏物語:46 竹河 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そしてうところの鈴の綱は、廊の隅柱すみばしらから校書殿きょうしょでんの後ろのほうへ張られてあり、主上の御座ぎょざ蔵人くろうどらを召されるときそれを引き、鈴が鳴る。
だれの顔も見るのが物憂ものうかった。お使いの蔵人くろうどべんを呼んで、またこまごまと頭中将に語ったような行触ゆきぶれの事情を帝へ取り次いでもらった。
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「ウム、やはりそうじゃった、角間の蔵人くろうどうじ、わしらは、穂波ほなみ村の者だよ、あんたの若いころから知った者だ、まア何年ぶりだか分らねえが」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すばらしいものにこの人はなったものだ、自分だって恋人にしたいと思ったこともある女ではないかなどと思って、驚異を覚えながらも蔵人くろうど
源氏物語:18 松風 (新字新仮名) / 紫式部(著)
六位ノ蔵人くろうどや殿上のはしたちで、それぞれが物蔭での目撃を、中殿ちゅうでん上達部かんだちべへ、むらがり告げていたのであった。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また年若な五位などで、この夫人にはだれとも顔のわからぬお供も多かった。自身の継子の式部丞しきぶのじょう蔵人くろうどを兼ねている男が御所の御使みつかいになって来た。
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「もし。途上、まことに失礼なれど、それへおわたりあるは、さき蔵人くろうど、日野俊基朝臣としもとあそんではおざりませぬか」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
深い緑の松原の中に花紅葉もみじかれたように見えるのはほうのいろいろであった。赤袍は五位、浅葱あさぎは六位であるが、同じ六位も蔵人くろうどは青色で目に立った。
源氏物語:14 澪標 (新字新仮名) / 紫式部(著)
右弁官うべんかんきょくから迎えにきた蔵人くろうどと袖をつらねてすぐ立ち去り、義貞はそのまま退出して、高倉ノ辻へ帰った。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
暮れがたになり時雨しぐれの走るのも趣があって、菊へ夕明りのさした色も美しいのを御覧になって、蔵人くろうどを召して
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
僧正の秀歌には主上よりも、御感ぎょかんのおことばがあり、つぼねや、蔵人くろうどにいたるまで、さすがは、僧正は風雅みやびなる大遊たいゆうでおわすなどと、口を極めていったものです。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
母方の叔父おじであるとうの中将や蔵人くろうど少将などが青摺あおずりの小忌衣おみごろものきれいな姿で少年たちに付き添って来たのである。
源氏物語:42 まぼろし (新字新仮名) / 紫式部(著)
むむ、雑訴決断所なら郁芳門いくほうもんのそばではないか。あそこへ行ってみよう。あそこの外記げき蔵人くろうどでもつかまえて、論功ノひょう内見ないけんさせろといったら、見せぬともこばめまい。
息子むすこ蔵人くろうど少将を使いにして六条院へ手紙を持たせてあげた。人生の悲しみをいろいろと言って、古い親友をお慰めする長い文章の書かれてある端のほうに
源氏物語:41 御法 (新字新仮名) / 紫式部(著)
しかし、外部には一切何もなきかのようなひそまりが蔵人くろうどたちの端にも注意ぶかく守られていた。
理解のある優しい女であったという思い出だけは源氏の心に留めておきたいと願っているのである。もう一人の女は蔵人くろうど少将と結婚したといううわさを源氏は聞いた。
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
かしず上達部かんだちべがあり、お末の小女房だの六位ノ蔵人くろうどたちもいることなので、仮の宮苑とはいいながら、その優雅みやびも麗わしさも、あわれ嵐に打たれたものでしかなく、あるまじき
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
解官されて源氏について漂泊さすらえた蔵人くろうどもまたもとの地位にかえって、靫負尉ゆぎえのじょうになった上に今年は五位も得ていたが、この好青年官人が源氏の太刀たちを取りに戸口へ来た時に
源氏物語:18 松風 (新字新仮名) / 紫式部(著)
正成の諫奏は、内容が内容だけに、そのおりの侍座じざ以外には、かたく口を封じられたが、それですらもうこのていどには六位ノ蔵人くろうど外記げき内記ないきあたりの者にはささやかれていた。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの蔵人くろうど少将は奏楽者の中にはいっていた。初春の十四日の明るい月夜に、踏歌の人たちは御所と冷泉れいぜい院へまいった。叔母おばの女御も新女御も見物席を賜わって見物した。
源氏物語:46 竹河 (新字新仮名) / 紫式部(著)
細川ノ権大納言光継みつつぐと二、三人の蔵人くろうどがつき添い、また、酒商人に化けていた男と、怪武士の景繁かげしげとが、お手引きの案内にたって、御所の裏門附近の築土ついじを、彼らの背なか梯子ばしご
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
というのであって、子の筑前守ちくぜんのかみが使いに行ったのである。源氏が蔵人くろうどに推薦して引き立てた男であったから、心中に悲しみながらも人目をはばかってすぐに帰ろうとしていた。
源氏物語:12 須磨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
漆掻うるしかきに身をやつした森掃部が、門の衛士えじ誰何すいかされつつ、しいて中門まで駈けこんだので、蔵人くろうどたちとの間に、烈しい言いもつれを起していた。掃部はすべての咎めに耳もかけず
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
右大臣家の蔵人くろうど少将とか言われている子息は、三条の夫人の子で、近い兄たちよりも先に役も進み大事がられている子で、性質も善良なできのよい人が熱心な求婚者になっていた。
源氏物語:46 竹河 (新字新仮名) / 紫式部(著)
と、殿上でも、舎人とねり蔵人くろうどたちが風にもてあそばれ、てんてこ舞いな姿だった。雨のないのがまだ見つけもので、木の葉まじり、大屋根の檜皮ひわだまでが空に黒いチリのつむじを描きぬいている。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と娘に言って、一条の宮へ蔵人くろうど少将を使いにして大臣は手紙をお送りするのであった。
源氏物語:40 夕霧二 (新字新仮名) / 紫式部(著)
一族の、新田蔵人くろうど七郎氏義というものだった。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
薫は一周忌の仏事を営み、はかない結末になったものであると浮舟うきふねを悲しんだ。あの常陸守の子で仕官していたのは蔵人くろうどにしてやり、自身の右近衛府うこんえふ将監しょうげんをも兼ねさせてやった。
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「やよ蔵人くろうど其許そこもとも何か歌え」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お送りの高級役人、殿上人、六位の蔵人くろうどなどに皆華奢かしゃな服装をさせておありになった。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
源氏にも供奉ぐぶすることを前に仰せられたのであるが、謹慎日であることによって御辞退をしたのである。蔵人くろうど左衛門尉さえもんのじょう御使みつかいにして、木の枝に付けた雉子きじを一羽源氏へ下された。
源氏物語:29 行幸 (新字新仮名) / 紫式部(著)
内親王腹のは今蔵人くろうど少将であって年少の美しい貴公子であるのを左右大臣の仲はよくないのであるが、その蔵人少将をよその者に見ていることができず、大事にしている四女の婿にした。
源氏物語:01 桐壺 (新字新仮名) / 紫式部(著)
その中に昔の斎院の御禊みそぎの日に大将の仮の随身になって従って出た蔵人くろうどを兼ねた右近衛将曹うこんえしょうそうは、当然今年は上がるはずの位階も進められず、蔵人所の出仕は止められ、官を奪われてしまったので
源氏物語:12 須磨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
大将の臨時の随身を、殿上にも勤める近衛このえじょうがするようなことは例の少ないことで、何かの晴れの行幸などばかりに許されることであったが、今日は蔵人くろうどを兼ねた右近衛うこんえの尉が源氏に従っていた。
源氏物語:09 葵 (新字新仮名) / 紫式部(著)