萠黄もえぎ)” の例文
大三郎は組中でも評判の美少年で、黒の肩衣かたぎぬ萠黄もえぎの袴という継𧘕𧘔を着けた彼の前髪姿は、芝居でみる忠臣蔵の力弥りきやのように美しかった。
半七捕物帳:11 朝顔屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
廻禮の麻裃あさがみしもや、供の萠黄もえぎの風呂敷が、チラリホラリと通るだけ、兩側の店も全く締めて、松飾りだけが、青々と町の風情を添へて居ります。
一同出立には及びたり其行列ぎやうれつには第一番の油箪ゆたんかけし長持十三さを何れも宰領さいりやう二人づつ附添つきそひその跡より萠黄もえぎ純子どんすの油箪白くあふひの御もんを染出せしを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
町家の内儀ないぎや娘らしいのがそれぞれに着飾って、萠黄もえぎの風呂敷包などを首から下げた丁稚でっちを供にれて三々伍々町を歩いている。長閑のどかな景色だ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
唐綾縅からあやおどしよろいを着、柿形兜を猪首いくびにかむり、渋染め手綱たづな萠黄もえぎ母衣ほろ、こぼれ桜の蒔絵まきえの鞍、五色の厚総あつぶさかけたる青駒あおごま、これに打ち乗ってあらわれた武士は
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
どう/\となかを、がうとやまこだましてく。がらんとした、ふるびた萠黄もえぎ車室しやしつである。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「十一はんさ、近頃ちかごろどうもやすくつてな」商人あきんどはいひながらあさ目笊めざるたまごれて萠黄もえぎひものたどりをつてはかりさをにして、さうして分銅ふんどういとをぎつとおさへたまゝ銀色ぎんいろかぞへた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そこには、竹藪に囲まれ雑草の生い茂った空地に、一軒の荒屋あばらやが建っていた。六畳一間きりの屋内は、戸も障子もなくて見通しである。その部屋一杯に、色褪せた萠黄もえぎ古蚊帳ふるかやが吊ってある。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
雨のこる萠黄もえぎの月の円きかさいまだ寒けれど遠く蛙啼く
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
その束は、大小六つの鍵を、萠黄もえぎの紐の紐に通して、乾漆ほしうるしの見事な根付けで腰に提げるやうにしたものです。
とほはなれたてらからは住職ぢうしよく小坊主こばうずとが、めた萠黄もえぎ法被はつぴとも一人ひとりれて挾箱はさみばこかつがせてあるいてた。小坊主こばうずすぐ棺桶くわんをけふたをとつてしろ木綿もめんくつてやつれたほゝ剃刀かみそり一寸ちよつとてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
かの森と、丘の萠黄もえぎ
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
八五郎は萠黄もえぎの組紐を一本見付けたのです。長さは四尺くらゐもあるでせうか、細くて弱さうな紐ですが、先に結び目をつけて、ひどくほこりで汚れてゐるのが氣になります。
萠黄もえぎの月の眉引に
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
もつと長押なげしへ釘を打てば何んでもないが、それでは家がたまらないから、欄間らんまから鴨居かもゐへ紐を一本通してくれと仰しやつて、私は萠黄もえぎの細い紐を見付けて通して上げました。
咄嗟とつさの智惠で、蒲團を包む萠黄もえぎの大風呂敷をかぶると、箪笥たんすの中の脇差を拔いて、いきなり勘太郎を突殺してしまつた。巾着を盜むところを見られると、隱居殺しまで露見する。
あらゆる出入りの可能性を否定して春の萠黄もえぎ色の空に突つ立つて居るではありませんか。
善五郎を殺したのは、間違ひもなく扱帶しごきだ。鴨居かもゐにはそれを掛けた跡があり、縮緬ちりめんの扱帶の端には、萠黄もえぎの紐を結んだ跡まで殘つて居る。下女のお元の話を聽いて、俺は、何も彼も讀んで了つたよ