莞爾にこ)” の例文
よその子供等が裾にからまって来ると、彼女は優しい身振りでそれをけたり、抱きとめたりした。そしてその母親たちには莞爾にこやかな笑顔をむけた。
フェリシテ (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
彼は彼氏をあたかも旧主の如く莞爾にこやかに迎えて、その同伴者たる彼女にも野人らしい愛想を以て敬意を表した。
案内人風景 (新字新仮名) / 百瀬慎太郎黒部溯郎(著)
筋向すじむかいの垣根かきねきわに、こなたを待ち受けたものらしい、くわいて立って、莞爾にこついて、のっそりと親仁おやじあり。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして老人は、我々の前に来て、莞爾にこやかに一揖いちゆうすると、慇懃いんぎんな調子で何か話し掛けてくるのであったが、もちろん何を言っているのか、わかろうはずもないことであった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
そうして又女の顔を穴のあく程見ていたが、やがて以前の通りの莞爾にこやかな表情に帰った。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と、さらに気負いかかると、静山は槍を捨てて、その夜初めて、莞爾にこと笑い顔を見せた。
剣の四君子:04 高橋泥舟 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
吃驚びっくりして振反ふりかえると、下女の松めが何時いつ戻ったのか、ともないつら罅裂えみわれそうに莞爾にこつかせて立ってやがる。私は余程よっぽど飛蒐とびかかって横面をグワンと殴曲はりまげてやろうかと思った。腹が立って腹が立って……
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
彼は法水を見ると、莞爾にこっと微笑んで
後光殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
まつとははず杉原すぎはらさまはお廿四とやおとしよりはけてたまふなり和女そなたなんおもふぞとて朧氣おぼろげなことふてこゝろ流石さすがつうじけんお八重やへ一日あるひ莞爾にこやかにじようさまおよろこあそばすことありてゝ御覽ごらんじろとひさりのたはふごとさりとはあまりにひろすぎてどころわからぬなりと微笑ほゝゑめらばはし
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そして莞爾にこやかにはいって来て、私に会釈して佇んだ年頃二十五、六の青年を顧みながら、「ルカ・ロザリオ君といいまして私の腹心ですから、決して御掛念には及びません」
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
写真は五枚とも同じもので真中には風采の堂々とした純ヤンキーらしい鬚のない男が、フロックコートを着て、胸に一輪の薔薇ばらの花を挿して、両手を背後うしろに組んだまま莞爾にこやかに立っている。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あたり公園こうゑんひろいけあり。ときよし、かぜよしとて、町々まち/\より納涼すゞみひとつどふ。わらべたち酸漿提灯ほゝづきぢやうちんかざしもしつ。みづともしびうつくしきよるありき。みぎはちひさふねうかべて、水茶屋みづぢやや小奴こやつこ莞爾にこやかに竹棹たけざをかまへたり。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「調べも全部終りました。今日はお見えになるだろうと先程からお待ち申しておりました」と探偵は相変らず莞爾にこやかに口を開いたが、思いしか穏やかなその眉のあたりに
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
と得三が促し立つれば、老婆は心得、莞爾にこやかに高田に向いて
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「お待ちいたしておりました。マルセ・モネスもまいっております。さあ、どうぞ!」と莞爾にこやかに案内してくれる姿は、最早あざもなければ揉み上げもなく、若々しい上品なおもてに笑みをうかべて
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
米や茶をさしておやり、と莞爾にこついておいで遊ばす。へへ
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
振向ふりむいたのを、莞爾にこやかにみ迎えて
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あるじはあえて莞爾にこやかに
女客 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
七兵衛はそれを莞爾にこやかに
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
少年は莞爾にこやかに
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)