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舊暦
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きうれき
今宵は
舊暦の十三
夜、
舊弊なれどお
月見の
眞似事に
團子をこしらへてお
月樣にお
備へ
申せし、これはお
前も
好物なれば
少々なりとも
亥之助に
持たせて
上やうと
思ふたれど
冬は
低く
地を
偃うて
沈んだ。
舊暦の
暮が
近く
成つて
婚姻の
多く
行はれる
季節が
來た。
町の
建具師の
店先に
据ゑられた
簟笥や
長持から
疎末な
金具が
光るのを
見るやうに
成つた。
火の
雲をかくした
櫻の
樹立も、
黒塀も
暗く
成つた。
舊暦七
月二十一
日ばかりの
宵闇に、
覺束ない
提灯の
灯一つ
二つ、
婦たちは
落人が
夜鷹蕎麥の
荷に
踞んだ
形で、
溝端で、のどに
支へる
茶漬を
流した。
勘次の
目には
卯平が
能く
村落の
店に
行くのは
贅澤な
老人である
樣に
僻んで
見える
廉もあつた。
只さうして
居る
間に
舊暦の
年末が
近づいて
何處の
家でも
小麥や
蕎麥の
粉を
挽いた。
彼等は
外の
壁際から
麁朶の一
把を
持つて
行く
者も
有つた。
舊暦の二
月の
半に
成ると
例年の
如く
念佛の
集りが
有るのである。
彼等はそれが
日輪に
對する
報謝を
意味して
居るのでお
天念佛というて
居る。