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きうれき
火の
雲をかくした
櫻の
樹立も、
黒塀も
暗く
成つた。
舊暦七
月二十一
日ばかりの
宵闇に、
覺束ない
提灯の
灯一つ
二つ、
婦たちは
落人が
夜鷹蕎麥の
荷に
踞んだ
形で、
溝端で、のどに
支へる
茶漬を
流した。
勘次の
目には
卯平が
能く
村落の
店に
行くのは
贅澤な
老人である
樣に
僻んで
見える
廉もあつた。
只さうして
居る
間に
舊暦の
年末が
近づいて
何處の
家でも
小麥や
蕎麥の
粉を
挽いた。
長吉は
其の時
長命寺辺の
堤の上の
木立から、
他分旧暦七月の満月であらう、
赤味を帯びた大きな月の昇りかけて
居るのを認めた。